一章〔21〕情緒不安定奇行繰り返し牛
〈あれが出口か〉
ここは牛舎の裏。牧場を囲う柵と比べ裏口の柵は低い。頑張れば飛び越えられそうだ。ただかなり狭い。ここで見つかれば逃げ切ることは不可能に近いだろう。どっちみち見つかった瞬間終わりではある。
〈あの柵を越えたら外に出れるとよ。外にはたくさんの魔物がいるとよ。外の柵を左に行って16本目の木を曲がってまっすぐ行ったら洞窟あるとよ。そこにミノタがいるらしいとよ〉
左16真っすぐ洞窟。
緋色マスドー! よし。
とりあえず覚えられたと思う。牛の脳みそはそんなでかくないと思う。元の自分もそんな頭良くない。さすがに道を間違えることはないとは思うが、焦っていたら間違えそうだ。なんなら間違える自信しかない!
〈ゴォーンッ〉
辺りに鐘の音が響き渡る。
「牛共飯の時間だぞー!」
〈行くか!飯を食わねば戦はできぬって言うしな!〉
〈なんとよそれ?面白いこと言うとよね!〉
2頭で牛舎裏から移動し自分の番号の柵の中に入る。ここにいる牛は自らの番号を理解し全員入ってる。これが異世界だからなのか、それともラヴィルに対する本能的な恐怖で従っているのだろうか。
そんな事を考えてるとラヴィルが飯を持ってきた。馬鹿みたいに長い竹のような物。大体50メートルくらいだろうか。その中にびっしり餌が詰められている。これを肩に2本担いで持ってきている。
まぁ、牛を片手で持っていってたりしていたから今更感はあるが、化け物でしかない。
〈食べないとよ?〉
〈ちょっとぼーっとしてただけ!食べるよ!〉
目の前にある草を見る。食欲は湧かない。しかし、食べないと死ぬ。
「バクッ」意を決して食べる。
〈う、うまい?うまい!え?こんなうまいのこの草?〉
頭から汁が出るほど美味い。体がぶっ飛ぶような感覚。味は美味いが舌に張り付く。そして、気分が上がる!
なんか世界が虹色に輝いて見える。何でもできる!
〈もーもぉもーもぉもーもぉーもぉ〉
〈アサヒが壊れたとよ〉
隣でドン引きしているトヨの助をよそに「もぉもぉ」叫ぶ。この草を毎日食べれるならずっとここにいてもいいかもしれない。
だめだ。ここから出ないと__
「ありがとう。少しだけ好きになったよ。アケボシ君」
思い出した。彼女の笑顔を守るために。死んだんだ。もう一度彼女に会いたい。今の自分を見たらどう思うんだろう。
〈トヨの助一緒に頑張ろうな!〉
〈アサヒ、ちょっと怖いとよよ〉
情緒不安定奇行繰り返し牛をみて、トヨの助は溜息をつくのだった。




