一章〔16〕切り札の爺
夢を見た。幼い頃の夢だ……
「じいちゃん! みてみて! でっかいおしろ!でけた! 」
「うっしし、すごいの! 流石はわしの孫じゃ! 」
祖父は何をしても褒めてくれた。優しい祖父だった。しかし、10年前祖父は行方不明になった。
「うっしし! ちょっと散歩に行ってくるぞ! 流星もついてくるか? 」
「えぇー。めんどくさいから行かない! 」
「なら、わし一人で行ってくるの! 」
それが祖父との最後の会話だった。祖父はよく、自分のことを兄の名前で呼ぶことがあった。きっとボケていたんだろう。自分が散歩についていけばまだ、祖父はいたのかもしれない__
「この牛いつまで寝てんだ? なぁ夫」
振り向きながらこちらを呼ぶ声。今日もラヴィルは可愛い。
「んぉ〜、吐いてから時間もあまり経っていないからのぉ、もう少し寝かせてあげよう」
「まぁ、夫が言うならしゃあないか、最近変な行動をする牛が立て続けに出てる。アタシの予想だと、何者かが〚狂牛病〛をもってきてるんだと思うんだけど、夫はどう思う? 」
「んぉ…、〚狂牛病〛じゃと? でも付近のマナの流れに変なとこは見られないからのぉ、ラヴィルの考えすぎだと思うのじゃ」
〚狂牛病〛それは呪い。
牛達をおかしくする。
昔呪われた牛に家族や村の人を殺されたことがある。助けてくれたのはラヴィルだった。
「夫は油断しすぎなんだって、そんなんじゃすぐ死んじゃうぞ。まぁ、アタシがいるから大丈夫だけどな! 」
ラヴィルはこの世界で現在最強だろう。星や魔王よりも強い。ゴッドランクの頂点にいる。自分もゴッドランクだ。だが、戦えない。
正確にはあと2回戦ったら奇跡の代償で死ぬだろう。
「んぉ、ラヴィルがいれば安心じゃのぉ。でもわしもそこそこやれるぞ!」
「もう、夫には無理してほしくないんだ。アタシが出来るだけ戦うからよ、ハルトや他の仲間たちみたいに、夫はアタシを残して死なないでくれ……」
2週間前、ハルトが死んだ。元勇者パーティー。
初めに旅を始めたのは自分とラヴィルとハルトの3人だった。そこから2年をかけて天王を討伐した。
「んぉ、安心するんじゃラヴィル。わしは『奇跡の切り札』じゃぞ」
「分かってるよ。でもよ、もう、だいぶ老けてるじゃないかよ。アタシはそれが一番心配なんだよ。ほんとに、老けてるだけなのかよ」
「んぉ、奇跡の代償は老いるだけじゃぞ。たぶんじゃけどのぉ」
奇跡それは待つものじゃない。起こすものだ。この世界で類まれなる奇跡の才能を持ち、生まれたのが「ジョーカー・ホルスタイン」だった。




