一章〔10〕望まれた逃亡
お兄ちゃんが死んだ。
私の大好きなお兄ちゃん。ずっと側にいたお兄ちゃん。みんなにとって憧れだった。
でも今はそんなことを考えてる時間はない。足元には私が回復して命を繋いでる人がいる。私のことを好きって言ってた。目の前にはマーズと名乗る『星』がいる。昔、私が生まれるより前にお父さんが倒した。
転移して逃げる。戦っても勝ち目はない。
騎士として死ぬ。この人を見捨てることになる。
私はどうすれば。
「俺が用があ゙るのはアースだけだ。逃げるなら勝手にしろ。どっちみちこい゙つは死ぬ」
「逃げろ、チアキ。俺はチアキが無事ならそれでいい。頼む」
「お兄ちゃんは命を張って戦った。私が逃げたら他の騎士たちに会わせる顔がないよ……」
「死ぬ覚悟はできたんだな。思ったより騎士隊ってのは下っ端でも根性あ゙るんだな。なら見せてやるよ。俺のとってお゙きをよ」
世界が燃える。そんな感覚。私にはよく分からない。たぶん私死ぬ。でも騎士として最後まで誇りを持って死ねるなら、それでいいのかもしれない。
「お兄ちゃん。今会いに行くからね」
《フレイジングマグナード》
たくさんの火球が一つの大きな火球の周りを渦を描くように回っている。
手を引かれた。そのまま後ろに倒れた。目の前に立ち上がる人影。
「アケボシ君……?」
「逃げろ、チアキは逃げろ」
「撃つぞ、早くしろ」
「なんで、待ってくれるの……? 私達のことをいつでも殺せるはずなのに。なんで待ってくれるの?」
単純な疑問だった。星は全員悪いやつだと思っていた。本当は話せば分かり合えるのではないか。そう思ってしまった。小さく「ゔるせぇ゙」と相手が言った気がする。その瞬間大きくなった火球がこちらに飛んできた。
《ガイアード》
血を吐きながらアケボシ君が魔法を使う。もうアケボシ君は助からない。こちらを見ながら逃げろと訴えて来てる気がする。炎は全くと言っていいほど防ぎきれてない。実際は少し弱まっているのだろうと思う。火力が高すぎて実感がわかない。
死ぬって怖いんだ。騎士の覚悟とかどうでもよくなるくらいに。私って最低な人だと思う。許してほしい。
「ありがとう。少しだけ好きになったよ。アケボシ君」
《テレポ》
私はそう言い残して、燃え盛る戦場から離脱した。




