『世界の覇者』になれと、神に呪われた僕らはーーって、タンマ!異世界征服してるだけなのに仲間がクセTUEEEEすぎて世界の方がギブアップしてるんですケド!? のシリィイイイズううう!!!!
『世界の覇者』になれと、神に呪われた僕らはーーって、タンマ!異世界征服してるだけなのに仲間がクセTUEEEEすぎて世界の方がギブアップしてるんですケド!? ~しがなき覇者が、旅に出るまでの話~【中編】
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SIDEショーン=ほぼ三人称です!
すみません!!長すぎたので分けました。。
前編は、上のシリーズ一覧から飛んでいただければ!
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シルアは、しばらくエミレが言っている意味が分からず、固まる。
が、しだいにその意味を飲み込み始めると強く握られた彼の小さな拳はプルプルと震え始める。
その様子を見たエミレはシルアの手に触れながら、優しい声色で諭す。もちろん、剣も心配そうにシルアを見つめる。
「まぁ、その反応も無理はないよ。
いきなり『呪われています、僕たちは』なんて、寝耳に水だし、とても受け入れられる事実ではない。」
「ケンケン」
そんな言葉たちに背中を押されたのか、シルアはパンッと頬を叩いて気合を入れなおすと、再びエミレを見据える。
その目は決意に溢れていた。
「……続けて、エミレ。」
「そうこなくっちゃ!!んんっ。」
エミレはどこからともなく、伊達メガネを取り出し、教師のような口調で語り始める。
「まずこの世界の名前はドウア。そして、今私たちが暮らしているのもドウア国。
つまり、この世界はひとつの国で世界が成り立っているんだ。
一見すると平和でとてもつまらな……じゃなくて、楽しい国。」
いたずらっぽくほほ笑むのも束の間、
エミレは2本の指を立てながら、淡々と続ける。
「そして、この世界の人間は大きく2つに分類されているんだ。」
「ひとつは、十二歳の時に教会にいって才腕という特殊能力を得るひと。
これには大半の人間が当てはまる。」
「才腕にはいろいろな能力があるの。
例えば、木を生やしたり、水を出したり、はたまた変な声を出せたり……と多種多様なんだ。
しかも、才腕の所有者は、自分の能力が何なのかを自然と理解しているらしい。」
「そして、その中でも鍛錬を積み重ねて、
物に才腕の能力を付与させることができる人は『専門家』と呼ばれている。」
例えば例えばとエミレは、先日シルアに使った傷薬を引き出しから取り出す。
「この傷薬は、怪我の治りを早くすることができる『専門家』が作ったものなんだ。
この人、もともとはその才腕を使って、けが人を直接治すことしかできなかったんだけど、
修行を重ね続けていたら、ある日その力を水に付与することができるようになったらしい。
そして、その水が、この傷薬になったって訳だ。」
「ちなみに、めちゃこれが稼げるらしいよ。デュフフ」
エミレは親指と人差し指で円を作り、悪人顔をする。
「まぁ、彼らの話は、今はあまり重要じゃない。本題はここから!」
彼女は声色を少し真剣なものにして、シルアを見つめた。
「もうひとつの人たち。
それは、教会に行かずに特殊能力を解放させてしまった人。
彼らについては、歴史書にもほとんど記述がない。
故に、その存在を知る者はごく僅か。
――いわば、世界の影とも呼ばれる存在。」
「……そして、ご察しの通り。シルア。
君は、こちら側に分類される人間だね。」
エミレは、傍らにある剣へと、視線を移す。
「君を含めたその人たちがもつ能力の名前は、呪印。」
その響きは禍々しく、明らかに祝福されるようなものではなかった。
「呪印持ちの人には、才腕とは比べ物にならないほど強大な力を得る。
が、当然その力には当然代償が支払われる。
それがさっき言った――呪い。」
エミレはここで一息つくと、シルアの反応をちらりと伺う。
すると、彼はごくりと喉を鳴らし、頷いた。
それを確認するとエミレは、再び穏やかな口調のままで語り始める。
「呪いの内容は大きく分けて、3つ。」
「ひとつは、暴走しうる力――呪印を持っていること。
言い換えると呪われているからこそ、呪印という能力を手にしてしまったってことだね。
自分の意志とは無関係に発動することもあるし、当然少しでもコントロールを間違ってしまうと周囲を巻き込みかねない。
つまり、呪印という異物を抱え込んだまま、常に生きなければならない」
「そして、ふたつめ。
これは大体察しがついていると思うけど、呪印を体に宿したことによって、寿命が極端に短くなる。
具体的には、平均して18歳から20歳まで。」
シルアの顔色がみるみる悪くなる。
が、エミレは容赦なく説明を続けた。
「最後に3つ目。
呪印を持ちには、八芒星っていう痣が生まれつき身体のどこかにあるんだ。
まぁ、君の場合は、その痣が左眼に出ている。
だから、『柄目』と呼ばれるものになっているのだけど。」
「八芒星は、呪印を持ちの証そのもの。
だから、彼らは、本能的にその痣を隠そうとする。
「――最初に、私が君の左眼を見ようとした時、すごく嫌がっただろう?
あれは、君の本能によるものだったんだよ。」
そう言うと、エミレはシルアの顔を手で包み、ぐっと顔の距離を近づけて、シルアの左眼を眺める。
そして――
「うん、すっごく綺麗。だから、いっか」
と意味深にほほ笑んだ。
「エミレ、今のはどうい――」
「以上が、ここまでが、呪印による3つの呪いの説明でしたー!」
シルアの言葉をエミレが大声でかき消す。
彼女はおどけた口調で、楽しそうにシルアの反応を伺っていた。
「どう?なかなかに酷いものでしょ?」
「……正直、納得するところの方が大きいかも。
多分、なんとなくだけど、記憶をなくす前にはそのことを知っていたんだと思う。」
「ふーん?
『ひどい!』とか、『絶望した!』とか、
『わざわざ知らせるなよそんなこと!』とか思わなかったの?」
エミレはおどけた口調で、でもどこか寂しそうな口調で放つ。
「絶望に近い感情はあるけど……知りたかったことを知れて、満足しているよ」
(……本当は、嘘だ。怖いし、死にたくない。
――だけど、受け入れないと始まらない気がするから。
この日々を続けるためにも。)
シルアが、表情こそいつも通りだったが、小刻みに拳を震えさせていた。
エミレはそれを一瞥して、にやりと笑った。
「えーじゃあ、呪印呪いを解くほーほー知ってるけど、話すのやーめた!」
「あるの!?いや、それは教えて!!」
食い気味に迫るシルアに、2人の額がごつんとぶつかる。
「……いてて」
頭をさする。
だが次の瞬間、エミレはぱっと立ち上がり、目を輝かせた。
……嫌な予感しかしない。
「それは至ってシンプル!!
8つの異なる世界に行って、そこで世界の覇者になること!!だよ!!」
「え?なにそれ。異なる世界?覇者?……本当に?
話が飛びすぎてない?エミレがしたいだけなんじゃないの!?」
シルアは、思わず、剣に尋ねる。
すると剣は、しぶしぶ……いや、どこかあきらめたようにコツリと肯定の意を示す。
「いや、そんなに、あっさりと呪いの解除方法って見つかっていいものなのか……?」
思わずつぶやいたその声は……自分でも驚くほど霞んでいた。
(――いや、違う。
これしかないんだ。……呪いを解除する方法が。
だから、受け入れるしか、ないんだ。)
エミレは、そんな彼の動揺を見透かしてか優しく手を伸ばす。
「だから、シルアよ!!
私と共に――覇者になるのだ!!」
少女の姿は力強く、頼もしく、あたたかい――まさに希望の象徴とでも言うようで。
シルアはしばらくの間、その姿に見とれていたが、その手を取ろうとする。
刹那、シルアの頭に閃光が走る。
「待って、エミレ。
……つまり、エミレも呪印持ちってこと?」
「うん!!
そりゃあね、こんなにも強くてかわいいお姉さんが、特別な能力を持ってないわけがないよ。」
その声は、どこか切なく、けれど誇らしげだった。
それこそが、受け入れた者の姿なのかもしれない。
だが――
「でも、私は呪印持ちであろうとなかろうと、世界の覇者を目指しているけどね!!
だって私は『しがなき隠居中の覇者』ですから。」
彼女は、自分の意志で、どこまでも輝いていた。
笑顔で高らかに宣言するその姿は、太陽のようで。
エミレは、シルアの手を引く。
シルアが握るよりも、前に。
(――エミレらしいな)
そのことが、なによりもシルアの心をほぐす。
自分自身も驚くほどに。
けれど、そのことが、うれしくて――
シルアはぎゅっとエミレの手を優しく、包むように握り返したのだった。
そんな暖かい空気のなか、エミレは不思議そうな、そしてどこかふざけたような顔をする。
「ねぇ、シルアは気にならないわけ?」
「何を?エミレの能力とか?」
「あー、それは?気が向いたら?かっこよく見せたいし!
そうじゃなくて、ほら――八芒星がどこにあるのか?とか?」
「当ててほしいの?」
「ふっふふ、当ててみたまえ」
「頭」
「ぶっぶー」
「眉間」
「ちがいまーす!」
「じゃあ、上半身」
「大雑把に来るね……まぁそれは合ってる」
「お腹か腕!!」
「あ、割と近い近い!」
「首?」
「そこも近いけど、その間だよ間!!」
「首とお腹の間?」
「そう!!」
「まさか……胸?」
せいかーいというと同時にエミレは胸ボタンを緩めようとする。
しかし、その手は顔を沸騰させたシルアによって阻まれる。
「ちょ、エミレいいから!見せなくていいから!」
「なぁ!?見たいって、言ったのはシルア君からじゃないか~まったく。照れちゃって~」
「言ってないって!!」
「あはは、真っ赤になってる~」
「絶対僕の反応見て楽しむためにしようとしてるよね!!」
「もちろん!!」
バタバタと一進一退の攻防戦が繰り広げられる。
エミレが、ボタンに手をかけると、シルアはすかさず彼女の手を押さえる。
エミレの腕力は、シルアよりもいつもは遥かに強いが、今日のシルアはひと味違う。
――絶対にとめてやる!
そんな確固たる意志が、彼の筋力を何倍にもビルドアップさせていた。
だが、そんな戦いにもついに決着がつく――その勝者は……
「ガビエーン」
突如、乾いた金属音と共に、エミレの脳天に衝撃が走る。
もちろん、このカッチョイイ金属音は剣!!!!!
どこまでもついていきやす!!まさにかっこよさの漁夫の利でした!!!
エミレは、ノーマークだった背後から攻撃を受けたので、当然。
――ガホッ
そう放ったのち、エミレは泡を吹いて倒れてしまう。
あ、やばと、剣が思うのもつかの間。
目の前には、満面の笑みでベッドに収まる美少年――シルアがいた。
「……ねぇ。今、僕がエミレと戦ってたの、わかってたよね?」
ガタリガタリと剣が震えだすころにはもう遅い。
その後、数日間は剣には縛り付けられたような跡が残っていたことも、
謎に剣がエミレへの態度を少し軟化させたことも、
また別の話。
****
その頃、エピネスの町では――
「なぁ、あの噂きいたか」
路地裏でしゃがれた声で男が、囁くように連れの男に声をかける。
「何の噂だ?」
「しらないのか!?エミレの噂だよ!
――どうやら、この間のドラゴンが3匹町に入り込んだ事件、犯人は彼女らしいって……相当出回っている話だぞ。」
「そうなのか!
でも確かに......エミレはやっぱり町から追い出したことを恨んでいるのかもしれないな。」
「あー!確かに。その説すごいいいな!ちょっ、他の奴らにも伝えてくるぜ」
噂はまわるまわる。
星よりも短く、早く、そして、どこまでも理不尽に。
****
おだやかな春風、小鳥のさえずり、そして、木々のせせらぎ。
今日もエピネスの町の果てにある森では、静かな美しいオーケストラが奏でられていた。
――この瞬間までは。
なんと、今日はそこに賑やかな楽器が4つも加え入れられたそうで。
ひとつ目は……土煙とともにのバーン。
そう、この既視感満載のドラム。
そして、あとの3つは――
「ちょ、エミレ!タンマタンマ、どう考えてもこれ普通じゃないよね!?」
死に物狂いで走る美少年の叫び。
「キャェエエエ」
剣の悲鳴のような金属音。
「キャハハハハ!!シルア!!案ずるでない!!これは命を懸けたじっけ……いや、特訓だよ!!」
背後から彼らに拳と剣と爆弾を浴びせまくる、見るからに不審な美少女の声。
――そんな生と死を分かつような三重奏であった。
「今実験って、言ったよね!?リュドエルール!?」
「ちがうううううう、その生意気な剣の名前はキラッッぴこーんZなのおおおお!!!!!!!」
「バケャアアノォ」
……本日の森のコンサートがお送りする曲名は、『イッツアカオースワールド』だそうだ。
――時は遡り、2時間前。
ドアのすぐそばにあるキッチン。
シルアは黙々と料理を作っていた。
そこへ森の探検から帰ってきたエミレが興味津々と言わん顔でシルアの手元を覗き見る。
「……わぁお!何作ってるの?」
「カルボナーラっていうパスタ料理の予定。あ、エミレ、それとって。」
ほいほーいと返事をしながらエミレは塩の入った瓶を渡す。
が、それと同時に喜ばしいような少し寂しいような事実にエミレは直面する。
「シルア……」
「なに?」
「身長が異様に伸びてない!?この何日間かで!?」
「ああ、確かに。エミレが小さく見える……違和感がなさ過ぎて気づかなかったけど」
小さいは余計だよといいつつ、エミレは成長もショタの魅力だからと心の中で涙を流す。
そう、シルアの身長はエミレと出会ってから10㎝近くこの短期間の間で伸びていた。
対してエミレはその間まったくと言っていいほど成長していないため、今この瞬間エミレはシルアを見上げざる得なかったのである。
それだけではなく――
「私も何か手伝おうか?」
「いや、エミレは絶対に絶対に何があっても!たとえ今ここが吹き飛ぼうとも!!料理に手を加えてはダメ。」
「そこまで!?」
「うん、そこまで。やっと、料理も作れるようになってきたし、任せて。」
ご察しの通り、この美少年は、エミレの代わりにとレシピ本を片手に料理をし始めたのだ。
しかも、本人曰く、やり始めたらハマってしまったらしく、最近では3食とは別に3時のおやつも作っていた。
そのクオリティはエミレとは天国と地獄ほどの差で、むしろお店を出してもおかしくない絶品。
そんな料理に、エミレはしっかりと胃袋を掴まされていた。
そんなこんなでまさに、シルアは料理の腕も身体も空前絶後の成長期を迎えている。
だが、まったくと言っていいほど成長していないものがひとつ。
「シルア、今日お昼終わったら、そろそろ特訓しようか。」
小屋中にバターとブラックペッパーの香りが漂った頃、エミレはふと思いついたようにシルアに放ち、続ける。
「だって世界の覇者と言ったら、武力!でしょう!
その点でいうと、君は呪印に目覚めてから10日間近くも鍛えていない!!」
「たしかに。」
そう、今のシルアに圧倒的に足りないものは黯光残星を扱うための剣術、
そしてまた黯光残星の能力についての理解であった。
その指摘に刺さるところがあったシルアは気づかない。
そろり、そろりと、料理に手を伸ばすエミレに。
「まぁ、といっても、大変だと思うのでね。
まずは軽くホギングはらで。ごくん。
……おいしい!!!卵のぐじゅぐじゅ感がまた最高!!」
「こら、エミレ!
隙をついてつまみ食いをしない。
……まぁ、おいしいならいいけど。」
「さすが、シルアコック!!ではではおかわりを……」
「いいって許したわけじゃない。
――でも、特訓はよろしくお願いします。」
うむうむと満足そうに頷きながら、エミレは窓へと移動する。
そうして、窓越しにエピネスの町を眺めながら、
「そろそろ、潮時か」
とつぶやいた。
どこか、寂寥感に満ちた声には、焦りがなく、吐息のようであった。
が、その声は。
やっと自分が活躍できる機会を察した剣による、歓喜の声にかき消されていった。
****
そして、エミレの提案通り、小屋を少し出た森では特訓が始まろうとしていた。
「胃袋よーし、武器よーし、天候よーし、テンションよーし!!
さぁ、これから特訓始めるよ!!返事!!」
「はい!!」「キャキ!!」
「声が小さい!!返事が違う!!もう一回!!」
いつもより少しだけ胸を張ったエミレは軍人のような面持ちで、2人にダメ出しをする。
「アイアイサー!!」「キャピン!!」
それに対して、シルアと剣は敬礼(もどきも含む)をして、エミレに再度返事をする。
「よろしい!!
……では、本日の特訓内容を発表しよう!」
キラキラと目を輝かせたエミレをみたシルアは何かを察する。
(あ、これたぶん。ジョギングとかないパターンだわ。
あっても森1000周とか頭おかしいこと言うパターンだ。)
その予想通り――
「私から逃げろ!!
そして、一撃当ててみろ!!」
「題して……殴り鬼!!だっ!!」
(絶対殴りだけじゃすまない……でも、きっと、エミレなら大丈夫なはず。殺しはしないはずだもんね。)
黯光残星を握りしめつつ、シルアは覚悟を決める。
――そして現在。
「ちょ、エミレ!タンマタンマ、どう考えてもこれ普通じゃないよね!?」
「キャェエエエ」
文字通り、シルアと黯光残星は命の危機に立っていた。
エミレはその様子を実に楽しそうに見ながら、
「キャハハハハ!!シルア!!案ずるでない!!これは命を懸けたじっけ……いや、特訓だよ!!」
――容赦なく、次々と爆弾を投げる。
「今実験って、言ったよね!?リュドエルール!?」
「ちがうううううう、その生意気な剣の名前はキラッッぴこーんZなのおおおお!!!!!!!」
「バケャアアノォ」
瞬間、シルアの真横に爆弾が落ちる。
(右に……いや、いったん斜め後ろに……)
――バコン!!!
シルアが、先ほどまで行こうと思っていた右、そして足を進めかけていた斜め後ろにまで爆弾が落ちる。
(ただ、適当に投げてるんじゃない……動きが読まれている!?
どう1撃を入れればいい?……空を飛んでも的にされるだけだ。
ってか、殺そうとしてるよね!?)
予想外のことに思わず立ち止まって考える。
「こらぁ、シルア、立ち止まっていると殴っちゃうぞ!!」
そんなシルアをみたエミレはジャンプをしながら、殴りかかる。
シルアは地面に転がってなんとか交わしつつも、さらに危機感を募らせる。
(近いうちに決着をつけないと火力で押し倒されるっ!!
かといって、外したら、その隙をエミレは確実についてくる。
……だから、最強のひと振りをくり出すしかない!)
剣――もとい、リュドエルールはシルアの気持ちを汲み取ったのか、必死に刃を動かして何かを伝えようとしてくる。
「キャイス」
リュドエールルの姿が改めてキラキラと輝く。
それが、とても美しくて、シルアは、目を奪われる。
――氷のようだ
瞬間、閃く。
(エミレの『実験』って、あながち間違ってないのかも。)
「リュドエールル、いけるか?」
シルアは、脳内で『思いついたこと』を想像して、リュドエールルに伝える。
するとリュドエールルは「キュルル」と肯定の意を示す。
その様子を見ていたエミレは来いと言わんばかりに、にやつき、シルア目掛けて、大量の爆弾を投げて爆破する。
シルアは爆炎の中に封じ込まれるように見えたが……
「おりゃああああ」
爆風にのって、空を翔る少年がひとり。
手に持つは、そんな少年を導かんとする古剣。
だが、そんなふたりが紡ぐのはたった1輪。
「紅雪龍牙!」
突如、強く振り下ろした剣から竜の咆哮のように、木の幹のように、まっすぐとどっしりとした氷の奔流が迸る。
氷柱は枝分かれを始める。這うように、自然という意思をもつように。
龍牙が、春風のように速く、エミレの頬を裂く。
あふれた血はだんだんと氷筍に染み込み、桜色に染める。
――そうして空中に咲く、1輪の桜。
その姿をみたエミレは目を見開き、「桜!?……君は、やっぱり」と声にならない思いを胸に抱く。
だが、その思いは氷桜で隠して――
「合格。」
とほほ笑むのであった。
エミレがぽつりとつぶやいた瞬間、美しく咲いた氷桜は花火のように弾ける。
透明なようで薄く桃色に染まった氷の花弁ははらりと舞っては青空へ、すうっと溶けていく。
そんな幻想的な風景に思わず僕は呆然とする。
……やっと見れた。
なぜだろうか、この時をずっと待っていたような、そんな気がする。
いや、もっと言うと、リュドエールル――黯光残星が、この景色を見せたかったのかもしれない。
僕はそんなことを考えつつも、エミレに視線を移す。
氷桜の残響を背に、彼女は舞うように地面に着地する。
そして、エミレはゆっくりと僕に近づき……
「おめでとう、シルア。殴り鬼は――君の勝ちだよ。」
エミレの頬からはまだ血が流れている――つまり、そう。
僕はエミレに一撃を入れることができたんだ。
彼女はそのまま続ける。
「少しは、自分の呪印の能力について、わかった?」
自分の能力――呪印は、黯光残星という『魔法剣』を扱うことができる……というものなのではないだろうか。
「うん、少しだけどわかった。」
僕の返答を聞くとエミレは嬉しそうに目を細めて、
「よくできました」と僕の頭に手を添えてくる。
彼女の手のひらの温もりは僕の頭から身体へ心へと染みわたっていく。
それがものすごくくすぐったくって、恥ずかしくて、うれしくて――
だからこそ、認めたくなかった。
いつまでも子供じゃない
そうやって、言おうと思った。
けれど、その言葉が、僕の口からでてくることはなかった。
――どこか寂しそうな、でも嬉しそうなそんな表情をしたエミレが目に焼き付いて、離れなかったから。
「……なんで、そんな表情をするんだよ。」
代わりに出してしまった言葉はどこまでも小さくて、頼りなかった。
勝ったのに悔しくて、寂しくて、でも、なぜか胸の奥には込み上げてくる暖かさがあって。
もう何が何だかわからなかった。
エミレは僕の問いかけに応えることはなく、
ただ優しく僕の頭をなで続けた。
まるで、母親に「行かないで」と袖をつかむ子供のように。
僕の存在を確かめるかのように。
彼女の手は暖かくて、切なかった。
だからだろうか、少しずつでも、根を這うように芽生えていく感情があった。
――エミレ、君を守りたい。
そんな、どこか言葉を失うような空気を……
「キャッコオオオ!!!」
リュドエールルがぶち壊した。
どうやらエミレに一撃入れられたことがたまらなく快感だったらしい。
そんなリュドエールルの様子にエミレはすかさず突っかかる。
「おい、剣よろこぶな!!
いいか?私は、負けて『くださったんだ』!シルアのために!
まっったくといっていいほど、お前のためじゃない。」
「ケケ~ン?」
「なんだその態度!私は覇者だぞ!!
おい、態度を毎度毎度改めろと言っているのにぃ!」
「ケッケケケ」
「笑うな!いいか?
覇者はしゅごいんだぞ!
……噛んだ。」
「キャケケケケ~ン」
「キラッッぴこーんZのくせに!
言葉もしゃべれない分際で、噛んだことを指摘するんじゃないよ!」
周りのことなどつゆほども気にせず1人と1振は言い合いを続ける。
さっきまで、あんなにもしんみりとした空気だったのに。
……でも、悪くない。
こんな日常がいつまでもつづけばいいな、なんて。
そんな僕の願いが、
次の日には打ち砕かれるなんて、
その時はまったく気づきもしなかった。
ご覧いただき、読んでくださり、ありがとうございます。
どうもルアンです。中編です!!(長くてごめんなさい←直角イナバウアー)
気になった方は、本編の方にものぞいてくださると嬉しいです(人>ω•*)
シリーズのところを押してもらうか下部のリンクから飛んでくださいナ!
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感想(読んだよって一言がこれまた嬉しい!ログインしてなくてもおっけーにしてるよ!)、ブクマ、お星様ぽちぽちしてくださると感動のあまりエミレたちと腹踊りパーティするので、どうぞよろしくお願いします!
(もしありましたら、改善点、誤字脱字、作者&キャラへのご質問もぜひお気軽に!くださるとありがたい!!)
ではでは、本当に読んでくださりありがとうございました!またねっ( *´꒳`*)੭⁾⁾