衝撃の出来事は続く
悪役令嬢としての生活が始まってから、約一ヶ月の月日が流れた。
そんなある日、再び衝撃的な出来事が私を襲った。
オガルコフ家当主サーガ様の部屋に来いと、また呼び出しを受ける。憂鬱な気持ちで足取り重く、私は部屋の前までやって来た。
また、叱られるのか。入りたくない。
そんな嫌な感情いっぱいで、私は主の部屋のドアをノックする。
「ヴァシリーサか? 入れ」
当主様の重い低い声が聴こえる。声の感じでは、それほど怒っていないみたいだ。私は少し安堵し、ドアを開け、恐る恐る入る。
「失礼します。旦那様。何か御用でございますか?」
私がそう頭を下げると、当主様はジロリと恐ろしい眼光を飛ばす。
「旦那様ではない。お父様だろ」
早速、叱責を頂く。申し訳ありませんと、急いで頭を深々と下げる。フンと鼻で笑われる。私はゆっくりと頭を上げ、周りを見渡す。
当主様は大きな椅子にドッシリと腰を降ろしている。そして例によって、執事長も当主様の横にくっついている。相変わらず上の者には媚び、下の者には冷たく当たる姿勢は変わっていない。
当主様は再び私に視線を移すと、話を切り出す。
「ヴァシリーサよ。最近、お前の生活態度がよろしくないらしいな、分かってるのか?」
「え……」
身に覚えのないお説教に私は絶句する。何の態度が悪かったのだ、分からない。私はうつむいて、次の当主様の言葉を待つ。
「ここ最近の他の従者からのお前の評判を聴いておらんのか? ”最近のお嬢様、何だか優しくなったみたい。前よりも暴力を振るわれなくなったわ。まるで、ダンスパーティーから人が変わったみたい”。だ、そうだ」
そう言うと、当主様の表情は鬼の形相に変わる。
「このクソ女が。あれほど、娘と同じように振る舞えと申しておったのに、何だこのザマは。いいか、わかっておるのか? お前がニセモノだとバレれば、王子の花嫁候補の座から外れるのだぞ。これは、オガルコフ家の破滅を意味する。お前如きの命では償えぬ罪ぞ。どうしてくれるんだ? おい!」
私はすぐさま床に頭を付け、土下座をする。そして、申し訳ありません、申し訳ありませんと何度も泣きながら謝る。
すると、当主様の隣に居た執事長がオボンと咳払いをし、話し始める。
「まぁ、お嬢様も反省している訳ですし、旦那様、もうその辺で……」
執事長のその言葉で、当主様はうむ、と声を返す。私はその言葉で顔を上げ、二人を交互に見る。一瞬、当主様の険しい顔が和らぐ。それから、ひと呼吸を置いてから、彼はまた話し始める。
「分かったな、ヴァシリーサ。平民どもは貴族にとって奴隷も同然なのだ。心に留めておけ」
はいと返事し、私は頭を床に擦り付けるように謝る。すると、当主様は椅子から立ち上がり、私の元へと近付いて来る。
「顔を上げて、立て。今から本題に入る」
当主様のその言葉で、私は立ち上がり、袖で涙を拭く。グズグズしていたら、また暴力を振るわれる、そう恐れたからだ。
すると、当主様は懐から一通の手紙を取り出す。何の手紙だと、私は不思議に思って、それをじっと見つめる。
「王子からの手紙だ。手紙の用件は、またお前と会いたい。屋敷の方へ行っても構わぬか。会う日時を合わせてくれとの事だ。やったな、ヴァシリーサ」
さっきの怒った表情から打って変わって、当主様は満面の笑みになっている。状況が把握出来ず、私はただ呆然と立ち尽くす。そして、当主様の言葉を頭の中で整理し始める。
王子様が私に会いたい? 別れ際にまた会いたいとおっしゃっていたのは、社交辞令じゃなかったんだ。え、そんな……。こんな私に好意を持ってくれたの? 私、どうしよう?
身体が震え始める。緊張している。急に恥ずかしくなり、顔が熱くなる。困った私は顔を隠すように、うつむく。
「王子め。どうやら、お前にゾッコンのご様子だな。他家の娘を出し抜いてやったわ。この勝負、もらった。ついに、このワシも王族の仲間入りか」
当主様は手紙を持って、はしゃいでいる。もうすでに王子との婚姻が決まったかの如く、浮かれている。私は視点が定まらず、目を左右に動かしている。心臓のドキドキが止まらない。
「王子は三日後、この屋敷を訪れる。王子に嫌われないように準備をしておけ。絶対に花嫁の座を他家の娘に渡してはならぬぞ。話は以上だ。執事長、後の事は頼むぞ」
当主様はそう言うと、またドカッと椅子に腰を掛ける。執事長は私の元へ近付くと、ボソッと囁くように伝える。
「では、今から王子様に選ばれるように、恋愛テクニックの伝授を致します。日が無いので、ビシバシいかさせて頂きますよ」
その言葉で、私はまた呆然とする。執事長からの鬼のようなレッスンが始まるのか。そう考えただけで、血の気がドンドン引いていく。
でも、王子様ともっと仲良くなれれば……。
そんな淡い期待を抱いていた時、激しくドアをノックする音が聴こえる。
夢から突然覚まされたような感覚になり、私はビクッと驚く。
「何ですか、騒がしい。旦那様の部屋ですよ。用件次第では打ち首に致しますよ。入りなさい」
執事長がムッとした表情で、ドアの向こうの者に声を掛ける。すると、ドアを開け、慌てて入って来る騎士が一人現れる。騎士は荒い呼吸をしながら、必死で声を張り上げる。
「申し上げます。ただ今、他家を調査中の者から伝言が入りました。我がオガルコフ家以外の貴族三家が、大陸の悪魔を各々味方に付けたとの事。緊急の事ゆえに失礼を致しました」
私たち三人はまるで、凍結されたかのように身を固めてしまった。
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