王子様と初のご対面
私は動揺し、何をしていいのか分からなくなる。
「何をしているんだ? 仮面を外して、大広間に出るんだ」
当主様の怒鳴り声が私に降り注ぐ。
「え、でも、私、そんな事出来ません。お嬢様の代わりに王子様のお相手をするなんて無理です」
「いいから言う通りにするんだ。お前の父と母がどうなってもいいのか? いいから早くするんだ!」
当主様が私の腕を掴んで、控室の外へ連れて行こうとする。私は放心状態になり、外の方へと引っ張って行かれる。それを見ていた執事長が慌てて、当主様を止めに入る。
「お待ち下さい、旦那様。このままアルダをお嬢様と同じように会場に出してしまえば、また暗殺されるかもしれませぬ。そうなれば、我等に打つ手はございませぬ」
「くっ、では、どうすればいいのだ? 良い策があるのか?」
「はい、旦那様。ここは一旦、アルダに気分が悪くなったとかで屋敷に帰りますと王子に挨拶させるというのはどうですかな? 敵の暗殺方法が分からぬゆえ、ここに居続けるのは危のうございます」
「ふむ、確かに。ヴァシリーサがなぜ死んだのかすら今は分からぬからな。よし、それで行こう。分かったな、アルダ。王子に失礼しますと言ってから、屋敷に撤退するんだ。いいな? しくじるなよ」
当主様の凄みの効いた顔が私の顔に迫る。有無を言わさず、私は仮面を剥がされ、控室の外へと放り出される。
大勢の黒い鎧を纏った騎士達が、待ってましたとばかりに私を取り囲む。前方、左右、後方、全ての方向に屈強な鎧の騎士達が配置される。不安な面持ちで、私は大広間へ通じる廊下をゆっくりと歩いて行く。
他の貴族や招待客達が私たちを見ている。彼等が嘲笑っているのがよく分かる。私はうつむき、鎧の騎士達に連れて行かれるように、ただ足を動かす。
そして、大広間の前に私たちは辿り着く。広間の大きな扉を騎士達が開く。すると、そこにはきらびやかな世界が広がっていた。美しく着飾った招待客が大勢、談笑している。
テーブルがいくつも置かれていて、その上に見たこともない豪華な料理やお酒の注がれたグラスが並べられている。
まさに、王族と貴族の社交パーティー……。私の住む世界とは違う、別の世界だ。
貧乏な平民の私は怖くなり、思わず息を呑む。逃げ出したくなり、泣きそうになる。
ダメだ。私がここで退けば、両親は殺される。足を踏み出せ、アルダ。
勇気を奮い起こし、私は恐る恐るゆっくりと大広間の中を歩いて行く。会場内は上品で綺麗な格好をした人達と武装をした怖そうな人達ばかりだ。
私はキョロキョロと辺りを見回す。まだ、周りの人たちから笑われているような気分になっている。
目的の王子様はどこ?
しばらくの間、探してみるが、それらしい人物が見当たらない。私が焦って、気が動転してきた時、突然、後ろから声を掛けられる。
「ヴァシリーサ、大丈夫なのかい? 突然、倒れてしまったから、心配になっていたんだよ」
私は声の主の方へ振り返る。黒の騎士達がその主の為に道を空ける。声の主が私に近付く。私は呆然となり、その人物をじっと見つめる。
その人物は、高価なタキシードを着こなし、マントを羽織っていた。頭には王冠を付け、爽やかな笑顔を私に見せて来た。
「どうしたんだい、ヴァシリーサ? 意識がまだしっかりしてないのかい?」
私が固まっていると、隣の鎧の騎士の一人が私に耳打ちする。
この方が第一王子です、ご挨拶をと。
私の身体が急に震え始める。何か言わなきゃと思うほど言葉が出て来ない。私はうつむいたまま、目を閉じ、黙り込んでしまう。
私が何か行動を起こさなければ、父と母は戻って来ない。それどころか、動かなければ、この場から私は生きて帰ることすら叶わないかもしれない。
勇気を奮い起こす。あの性悪なお嬢様と同じ運命は辿らない。そう、心に固く誓う。
「だ、大丈夫です、殿下。でも、少し気分が優れないので、退席しても構わないでしょうか?」
「おぉ、それはいけない。我が城で召し抱えている回復魔道士を手配しよう」
「い、いえ、王族の方々にご迷惑を掛けたとあらば、オガルコフ家の恥となります。屋敷に帰れば、きっと元気になると思います。ご心配、ありがとうございまます」
「うむ、そうか。ならば仕方あるまい。そなたとは、また違う席で会いたい。また、誘っても構わぬのか?」
「勿体ないお言葉でございます。私などで良ければ、いつでも殿下の為に馳せ参じます」
「うむ、承知した。では、下がれ、ヴァシリーサ。身体をいとえよ」
そう言うと、王子様は取り巻きを引き連れて、向こうの席へと去って行く。私は王子様の後ろ姿をしばらく見た後、足早に大広間を出て行く。
扉を開けて周りを見渡すと、オガルコフ家の一団はすでに撤収の準備を終えていた。私たちは逃げるようにお城の中を小走りで駆け抜ける。
他家の人間たちが、まるで敗者を見るような目で、私たちを見下ろしている。それでも私は構わなかった。ここで命を落とすことよりもよっぽどマシだった。
オガルコフ家一団は広いお城の外へと出る。私の目の前に馬車が用意されている。私と当主様、そして執事長が急いで馬車に乗り込む。
乗り込むのを確認した馬車は、猛スピードを上げて走り出す。馬車は暗闇の中を駆け抜ける。私はお城の方をじっと見つめる。
明かりで照らされていたお城はドンドン小さくなって行く。お城はいつしか見えなくなっていた。
女性主人公ですが、男性の方も楽しめる作品だと思います。




