転機
オガルコフ家一団は、お城の二階の控室へと入る。控室と言っても、三十人は余裕で入れるくらいのスペースはある。もちろん全員は入れない。入れない騎士達は控室の外を警護しているみたいだった。
今、控室に居るのは、当主様やお嬢様、執事長、そして一部の騎士とメイド達のみだった。当然、私もこの中に入っている。
周りはタンスやテーブル、椅子が二つほどある寂しい部屋だ。ただ豪華な造りではある。どうやら、各貴族に一部屋ずつ、使用が許可されているという話だった。
ヴァシリーサお嬢様がイライラしている。そして、怒りを爆発させるように顔を真っ赤にして、執筆長に怒鳴り始める。
「あのクソ女を殺しそこねた騎士は誰よ? ここに呼び出して、首を跳ねてちょうだい。あんなチャンス、滅多にないのに。許せないわ」
執事長はお嬢様をなだめるように、何度も頭を下げる。
「お嬢様、お怒りをどうか沈めてくださいませ。ここは屋敷ではなく、王家の城でございますから、そういう事は出来ぬのです。どうか……」
その執事長の言葉を聴き、お嬢様は腕組みをし、プイと顔を横に背ける。許してはいないが、それで一応、納得はしたみたいだ。とりあえず、騎士の人の命が奪われずに済んで、私もホッと胸を撫で下ろす。
「分かってるわね? 何としてでも、最低一人は候補者を殺すのよ。騎士達に伝えておきなさい。二度と失敗は許さないわよ」
お嬢様はそう言い捨てると、ドカッと椅子に腰を降ろし、また腕組みをする。執事長は深々と頭を下げると、一目散に控室を出て行く。
こうして、夜が訪れ、ダンスパーティーの時間が訪れる……。
* * *
ヴァシリーサお嬢様と護衛の騎士達が控室を後にする。どうやら私はこの控室で待機のようだ。
予定通り、お嬢様のワガママでダンスパーティーは彼女が出る事になるらしい。お怒りになっていた表情もイケメンの王子様と会えるということで、満面の笑みになっていた。
この大きな控室には、今、私一人しか居ない。私は仮面を付け、お嬢様と同じピンクの高価なドレスを着ている。危険と判断されれば、即、お嬢様と交代だと当主様から告げられる。
他のメイドの子や騎士達は大広間の方に出ている。私の存在は極秘事項。そんな配慮があったからこそ、皆は控室を追い出されたのだと思う。
私は椅子に座り、窓の外を眺める。外は真っ暗だ。私の出番が来ないで何事も無く、全て終わればいいのにと、そんな事を考える。
控室の外はガヤガヤとしている。大人数がこのお城に来ているのだ。
私だけは何か違う別の空間に居るようだ。そんな風に感じながら、ボーツと時間を過ごす。
どれくらい時間が経ったのだろうか?
気が付けば、私は少しうたた寝していたようだ。
何か部屋の外が騒がしい。先程のガヤガヤとした雰囲気とは何かが違う。悲鳴声やバタバタと何人もの人が慌ただしく走っている足音が聴こえる。
まさか、誰かが殺されたのか? 貴族の娘の内の誰かが?
私は胸騒ぎがして、立ち上がる。すると、ドンと激しい音を立て、控室のドアが開く。
「しっかりしろ! ヴァシリーサ! 目を開けろ!」
当主様が叫びながら、控室へ中へと入って来る。黒い騎士達数人が誰かを抱えて、続いて入る。運び込まれて来た人物は、私と同じピンクのドレスを着たヴァシリーサお嬢様だった。
お嬢様が部屋の絨毯の上に寝かされる。執事長が慌てて、蘇生治療を行っている。
私もオロオロしながら、寝かされたお嬢様の元へと近付く。私と同じ顔をしたお嬢様は、まるで眠っているように横たわっている。
「なぜ、ヴァシリーサは目を覚まさないんだ? どこも外傷はないのに。執事長、娘はどうなんだ?」
お嬢様の傍らで、父である当主様が執事長に叫んでいる。執事長はお嬢様の手首を取り、脈を測っている。そして、執事長は目を閉じ、頭をうなだれる。
「旦那様、お嬢様の呼吸と脈がございません」
「な、何? どういう事だ?」
「お嬢様は亡くなっています……」
執事長は力無く、肩を落とす。それを聴いた当主様もその場にひざまずく。騎士達も騒然としている。
私の頭の中も真っ白になる。そして次の瞬間、私の脳裏に別の思考が駆け巡る。
お嬢様が死んだ事により、私の役目は解かれる。ならば、任をまっとう出来なかった私の処分はどうなる? 人質となっている父と母は? 私たちは全員殺されるのか?
目の前の突然の出来事に愕然とする。当主サーガは執事長の胸ぐらを掴み、鬼気迫る顔を浮かべ、泣き崩れる。
「どうしてくれるんだ、執事長? 娘が居なくなった事で、誰が王子の元へ嫁ぐんだ? 我々は王族との強固な関係が結べないではないか。他家の下に我々は付かねばならんのだぞ。そんな屈辱、私は耐えられぬ。何とかしろ、執事長」
執事長も為す術が無いという表情で困り果てている。そんな動揺している二人を私は冷たく見ている。
実の娘が殺されたのに、自分の地位と家の事の心配なの。お嬢様の事は確かに嫌いだったけど、お嬢様があまりにかわいそう。なぜ、娘を愛してあげられないのよ。
ホントにこの家に居るのがイヤになる。私がそう思っていた時、当主様は突然、私の方に向き直る。
「そうだ、アルダ! お前が娘のヴァシリーサの代わりをずっとすればいい。そうだ、お前が王子と結婚すれば何の問題もないんだ。早く準備しろ!」
当主の突然のその言葉に、私の頭は再び真っ白になっていた。
読んで頂いて、ありがとうございました。
これからも、面白い小説を書きますので、良かったらまた読んでいって下さい。




