王子様と殺戮のダンスパーティー
ある日の朝の事だ。
私はヴァシリーサお嬢様に部屋に来なさいと呼ばれる。また何か怒らせたのかと思い、私は恐る恐る部屋の中へと入って行く。
豪華なベットやタンス、カーペットなどが目に映る。さすが貴族のお嬢様の部屋だなと、毎度のことながら別世界の人間だと私は感じる。
部屋の中を見渡すと、ヴァシリーサお嬢様と当主のサーガ様、そして、髭親父の執事長の三人が居た。
私は仮面を付け、いつものメイド服の姿だ。三人とは身分が明らかに違うと恐縮しながら、彼等の話が切り出されるのをじっと待つ。
「え、お父様。王子様とダンスパーティーがあるんですの? それ、ホントですの?」
ヴァシリーサお嬢様がいつもより高い声ではしゃいでいる。珍しい、でも私には関係ない話だ。私はそんな事を感じながら、黙って話し掛けられるのを待つ。
「あぁ、本当だ。第一王子が直々に花嫁候補達と会いたいという趣旨で開かれるダンスパーティーだ」
当主サーガは何やら不安そうな顔で応える。彼とは打って変わって、お嬢様はかなり有頂天な感じで踊り出す。
「ヴァシリーサ、落ち着け。ダンスパーティーには、他のライバルの三家も来るのだ。分かっているのか?」
重い当主の声で、お嬢様は動きが止まる。そして、眉根を寄せ、彼女は自分の父を睨み付ける。
「お父様! 憎き奴等を葬るチャンスですわ。そして、王子様にも私が花嫁に相応しい事を知ってもらうチャンスですのよ。何の心配がありますの?」
「他の三家の連中も同じ事を考えている。こちらの命もかなり危ないんだぞ」
当主サーガは釘を刺すように、ヴァシリーサお嬢様に注意を促す。私がなぜこの部屋に呼ばれたのか、ここでやっと理解し始めていた。
要するに、この国の第一王子様が花嫁候補である四人の貴族の娘に会いたいという事。
その為にダンスパーティーが、その四人と王子様を含めた王族貴族の間で開催される事。
そして、そのダンスパーティーは、貴族四家による抗争の場になる確率が高いという事だ。
つまり、お嬢様の命が危ない。だから、私の出番という訳なのだ。
「アルダ、話を聴いていたな? そういう訳で、ダンスパーティーには、お前がヴァシリーサの代わりに出席をする。王族が来る社交の場だ。オガルコフ家に恥をさらすような作法は見せるな」
当主サーガがジロリと私を見て来る。ヘビに睨まれたカエルの如く、私は恐くて萎縮してしまう。そんな私とは対照的にヴァシリーサお嬢様は当主サーガに食って掛かって行く。
「ちょっとお父様、ふざけないでよ。何で、この子が私の代わりに王子様とダンスを踊っちゃうワケ? そんなのイヤよ! 私がパーティーに出るわ」
「ダメだ。危険過ぎる。間違い無く、奴等はお前の命を狙って来る。そんな危険な場にお前を参加させる事は出来ない。却下だ」
「先に私達があのブス三人を殺しちゃえばいいんでしょ? 騎士達の数を増やして、私の警護を完璧にすれば。ねぇ、お父様、お願い。私は王子様とダンスが踊りたいの。アルダが代わりに出て、王子様に嫌われちゃったらイヤなの。私は王子様が大好きなの。この国の王女になりたいの。お父様も王族に加わりたいんでしょ?」
「うーむ、しかし……」
サーガは腕組みをし、考えている。すると、後ろに控えていた執事長がひょっこりと現れる。
「オボン、宜しいですかな? 旦那様、お嬢様」
執事長は軽く咳払いをして、雇い主である二人を交互に見る。当主サーガは話してみろと応え、執事長は待ってましたとばかりに話を始める。
「こういう事もあろうかと騎士達を増員しておりました。訓練も滞り無く行っているゆえに、騎士達のレベルはかなり上がっておりまする。他の三家には劣らぬ軍事力を我々は保有してございますぞ。ここは我がオガルコフ家の力を他家や王族達に見せる付ける為にも、お嬢様を出席させてみては如何ですかな?」
執事長は鼻息荒くさせ、ご主人様に自分の仕事の成果をアピールしている。お嬢様の目も輝いている。よほど王子様と仲良くなりたいみたいだ。
「うーむ、お前達がそこまで言うのなら……。しかし、危険と感じれば、すぐにアルダに矢面に立ってもらう。いいな?」
お嬢様と執事長は飛び上がって喜んでいる。そんな二人を私は冷たく見ている。当主サーガは喜んでいる二人を横目に、私にチクリと言葉を刺して来る。
「アルダ、分かったな? しっかり仕事をしてもらわないと、お前の両親がどうなるのか理解しているんだろうな?」
「はい、分かっています。お嬢様の代役はキッチリと致します。旦那様、私の父と母は無事なんですか? 一目だけでも会わせて頂けませんか?」
「ダメだ。ヴァシリーサと王子との婚約が正式に決まるまではな。お前は何も考えず、キッチリ仕事をやればいいんだ」
サーガはそう言うと、お嬢様と執事長の元へと近寄って行く。ヴァシリーサお嬢様が蔑むような目で私に視線を移す。
「話は終わったわ。早く出て行きなさい。下民の分際でいつまでも私の部屋に居座らないでよ」
私と同じ顔のお嬢様が、手で追い払うような仕草を見せる。私は一礼をしてから、静かに部屋を出て行く。
こうして、王子様と四人の令嬢達との殺戮のダンスパーティーの日が訪れた……。
小説を読む方は頭が良く、人の気持ちの分かる人だと聴きます。
そんな優秀な読者の皆さんの為に、面白い小説を書いていきますので、これからも読んで頂けると大変嬉しいです。
もし良かったら、今後も宜しくお願いします。




