王道の魔法使いと邪道の魔法使い
ファイスの伸ばした右掌が赤く輝く。再び無数の炎の欠片が放たれ、ダヴィ−ドを襲う。ダヴィ−ドは左右に動き、素早く交わしている。が、またしてもその内の一つがダヴィ−ドの胸を直撃。ダヴィ−ドは爆発し、その場に崩れ落ちるように倒れる。
「ちょっと、ファイス。まだアイツ、殺せないの? 案外あなたも大したことないのね」
トリミティーが腕組みをし、不満そうにほっぺを膨らませる。
「アイツも悪魔の内の一人なんだよ。だから、魔法に対する耐性が強いんだ。だから、文句を言ってくんなよ」
ファイスはキッとトリミティーを睨むと、首を横にコキコキと動かす。魔法を受けたダヴィ−ドはフラフラだ。何とか立ち上がり、敵の方を見ている。ダヴィ−ドの息がかなり荒い。私は涙を溜め、じっと彼を見つめる。
ファイスがゆっくりとダヴィ−ドに近付く。距離を詰めて、一気にトドメを刺すつもりだ。"炎の悪魔"は余裕の表情を見せ、得意げに持論を展開する。
「分かっただろ、ダヴィ−ド。魔法ってのはこういう物なんだぜ。お前の洗脳魔法やアイツの即死魔法なんて、邪道なんだよ。やっぱり、最後に勝つのは王道の魔法使い。お、れ、さ、ま、なんだよ」
俺、最強と言わんばかりのポーズをファイスは決める。そして、両手を前に出す。すると、目の前に大きな炎の玉が現れる。明らかに超強力魔法だと私は焦り始める。
大きな炎の玉がファイスから放たれる。轟音を上げながら、一直線にダヴィ−ドに向かう。ダヴィ−ドは腕をクロスさせ、防御の姿勢を取る。
次の瞬間、ダヴィ−ドの居た辺りが大爆発する。爆風と共に石や砂の欠片が飛び散り、こちらまで衝撃が伝わる。
私は手で砂埃を防ぎながら、半目で"洗脳の悪魔"を確認する。
あれ? どこにも居ない。そんな……。
そう思った瞬間、彼はファイスの後ろから現れる。そして、ダヴィ−ドは手を伸ばし、"炎の悪魔"に触れようとする。
「甘いな、ダヴィ−ド」
ファイスがそう呟くと、"炎の悪魔"の周りを囲むように、赤い壁が現れる。赤い壁は侵入者を防ぐかの如く、ダヴィ−ドを弾き飛ばす。
"洗脳の悪魔"は地面に叩きつけられ、仰向けに倒れる。
ファイスがまた笑みを浮かべ、両手を広げる。そして、勝利宣言をするかのように雄弁に語り始める。
「俺を油断させて、近付いて触ろうとしていたんだろ? わざと魔法を食らって。バカめ、お前の考える事なんて読めるぜ。この勝負はお前を俺に近付けさせなければ俺の勝ち、そういうゲームなんだよ。だから、俺はその一点にのみ気を付けていれば、負けはない」
ダヴィ−ドは悔しそうな顔をしながら、ゆっくりと立ち上がる。動きに力が無い。万策尽きた、そんな絶望を感じている彼の姿を見ながら、私は静かに涙を流す。
「ちょっと、ちょっと。時間かけ過ぎぃ。早く終わらせちゃいなさいよ。私、お腹空いちゃった」
トリミティーお嬢様が膨れ面で悪魔に催促している。こちらはまるで、もういい加減退屈なんで早く帰ろうよというノリだ。
「分かったよ、トリミティー。急かすなよ。コイツ、昔からしぶとい奴だから手間掛かるんだよ。次で終わらすから」
ファイスはトリミティーに合図を送ると、ダヴィ−ドの方に向きを戻す。そして、右手を伸ばし、また魔法を発動させる。ダヴィ−ドは静かにファイスの様子を見ている。
ファイスの手から炎が発せられる。今度の炎はまるで竜のような生き物の動きをしている。炎はクネクネと奇妙な動きをしながら、ダヴィ−ドの方へと突き進んで行く。
もう終わりだ。
私は呆然と”洗脳の悪魔”の方を見る。しかし、ダヴィ−ドは笑みを浮かべる。
ダヴィ−ドの動きが一際早くなり、炎の竜を回避する。そして、彼は右手を振り上げ、大きく振り下ろす。彼の手から何かが飛び出す。
ファイスの胸にポンと何かが当たる。その何かは”炎の悪魔”の足元に転がる。転がったのは、ただの石ころだった。
え、子どもの意地悪でもあるまいし、石なんてぶつけてどうするのよ?
次の瞬間、私はある異変に気付く。ファイスが呆然とした表情になっている。ダヴィ−ドはそんな敵に向かって、走り出している。
ダヴィ−ドの右手がファイスの左肩に触れる。ダヴィ−ドはニコリと笑みを見せ、ファイスは驚いた顔で彼を見ている。
「洗脳魔法の一つ、間接魔法攻撃だ。俺は自分の魔力を物に施す事で、触れた時のように洗脳させる事が出来る。しかし、間接魔法攻撃の効果は微弱だ。触れた時のように思うように相手を動かす事は出来ない」
ダヴィ−ドは絶望の表情を浮かべているファイスに説明するように話を続ける。
「俺の魔力を掛けた物に触れると、五秒間だけ相手を停止する事が出来る。つまり、お前は俺の魔力を帯びた石ころに触れた事によって動けなくなったんだ」
ファイスは下を向き、震えている。目の前に居る”洗脳の悪魔”に敗れた事を悟ったみたいだ。
ダヴィ−ドが私の方を向き、笑みと言葉を送る。
「アルダ、俺達の勝ちだ。コイツを洗脳した」
私は安心して、笑顔を彼に返す。また涙が出てきた。私はその場にうずくまる。
「さて、洗脳出来る時間は三分だけだ。どうしたものかな?」
ダヴィ−ドのその言葉で、私は顔を上げた。




