バカ貴族を洗脳しました
「聴いただろ? バカ貴族。アルダの両親をここまで連れて来い」
ダヴィ−ドは冷たく当主様を見下ろす。当主様は引きつった表情で、冷や汗をかきながら応える。
「スミマセン、私はアルダの両親の居場所は知らぬのですよ。その件に関しては、全て執事長に任せておったものですから」
当主様はそう言って、ジロリと執事長を見る。見られた執事長はバツの悪そうな雰囲気で、小さくなる。私とダヴィ−ドは同時に執事長の方をキッと睨み付ける。
「ヒイィィィ、私はただ旦那様に命じられて、やっただけですから許して下さいよ。彼女の両親は町の外れの家にかくまっています。ちゃんと保護していますので、お願いです。殺さないで」
執事長は必死で土下座をし、命乞いををする。私は執事長の元に駆け寄り、彼の肩を揺さぶる。
「早くお父さんとお母さんをここへ連れて来て下さい。お願いします」
「アルダの言う通りにするんだ、ジジィ」
ダヴィ−ドのその一言で、執事長は慌てて外へと駆け出して行く。私は”洗脳の悪魔”の方を見つめる。私の視線を感じたダヴィ−ドはこちらに顔を向け、笑顔を見せる。
「心配するな、アルダ。アイツも俺の魔法に掛かっている。俺には嘘はつけないし、俺の言う事を拒んで裏切る事も出来ない」
ニッコリと私は微笑みを返した。
* * *
数時間後、執事長は黒の鎧の騎士たちと共に帰って来た。傍らには私の両親が居た。二人ともさらわれた時よりも痩せ細っている印象を受ける。でも、間違いなく生きている。私は嬉しさのあまり号泣し、彼等に抱き付く。
「お父さん、お母さん。会いたかった」
「アルダ、お前こそ良く無事で」
涙目の父と母が私の身体に触れる。そして、心配そうに私を見つめる。そんな父と母の顔を見て、私の涙も止まらなくなっている。感動の再会をしばらくした後、父が私に声を掛ける。
「アルダ、本当に大丈夫なのか? 酷い目に遭ってはいなかったのか?」
「うん、大丈夫。私は無事よ」
少し私はウソをつく。何度か殺されかけたり、つらいイジメにも遭っていた。酷い目には確かに遭っていた。でも今、こうして両親に会えたのだ。それらの苦しみは一気に消えて無くなっていた。
「お父さんとお母さんこそ、痩せたんじゃないの? あまり食べさせてもらえなかったの?」
私の質問に彼等はうつむく。
「うん、でも無事に生きているよ。こうしてアルダに会えたんだ。それだけでも天に感謝しなければいけないよ」
父はそう言って私に微笑む。私はニコリと父に笑顔を返すと、ジロリと執事長を睨む。彼はドキッとした仕草を見せ、慌てて言葉を返して来る。
「だって、旦那様が餓死しない程度に食べ物を与えておけばいいというものですから、私はそうしただけですよ」
その言葉で私の隣に居るダヴィ−ドが当主様を睨み付ける。怯えた顔の当主様は慌てて弁解をし始める。
「スイマセン、仕方がないんですよ。だってこの町にはあまり食料が無いんですから。我々も苦しいんですよ」
私は当主様の言葉で怒りの感情が湧いてくる。
あなた達貴族が無駄に贅沢をする為に、町の人が飢えているのよ。町に食料がないのも、父と母がこんなに痩せたのも全部あなた達のせいよ。
私は唇をグッと噛む。すると、ダヴィ−ドはニコリと笑みを見せ、当主様たちに声を上げる。
「おいおい、バカ貴族。本当の事を言えよ。お前たちが無駄に税金を高くしている為に町の人間が飢えているんじゃねぇのか。アルダの両親が痩せ細ったのは結局、お前のせいだろが」
当主様は驚いた表情になり、うつむく。そして、申し訳ありませんと呟くように悪魔に謝罪をする。
そうか、今の当主サーガ様、いやサーガは悪魔に洗脳されている。だから、何でも私たちの言いなりになるんだ。だとすれば……。
私にあるアイデアが浮かぶ。そして、当主に思った事をぶつける。
「旦那様、町の人達が飢えて苦しんでいるので、税金の負担を軽くして下さい。お願いします」
頭を思いっ切り下げる。しかし、サーガは顔を真っ赤にして、私に怒鳴りつけて来る。
「は? 何を調子に乗っているのだ、この平民のバカ娘が。税金を下げろだと。ふざけるな。それでは我等が贅沢出来ぬではないか。それにだ。他家の貴族の財力に劣ってしまうだろうが。そうすれば我等は他家の貴族にナメられるのだぞ。そんな事出来る訳がない」
サーガは私を睨み付け、ツカツカと足音を鳴らしながら詰め寄って来る。私は恐くて身をすくめる。
「バカ貴族が。調子に乗ってるのはお前だよ。そこにひざまずけ」
ダヴィ−ドが私とサーガの間に割って入る。すると、当主は顔を引きつらせ、床に膝を付ける。そんなサーガを見下ろしながら、"洗脳の悪魔"は静かに重く言葉を吐く。
「アルダと俺は対等な契約を結んでいる。そんな状況でだ、俺の奴隷のお前が何で偉そうな口を利いてるんだ。アルダに土下座して謝れ、バカ貴族が」
ダヴィ−ドのその言葉で、当主サーガは私の方に向き直り、頭を床に擦り付け謝罪をする。私は急な態度の変化に驚き戸惑う。そんな困っている私を笑うように悪魔は話を続ける。
「あ、それからこの屋敷の奴、全員に言っておけ。今からこの領地の当主は、このバカ貴族ではなく、ここに居るアルダだ。文句がある奴は、この"洗脳の悪魔"が相手になってやるから、遠慮なく掛かって来い」
サーガは顔を上げ、ポカンと口を開けたまま放心状態になっている。執事長も呆然とした顔になり、何も考えられないような有り様になっている。
私はチラリと両親を見て、心の中で呟いていた。
お父さん、お母さん。
あなたの娘は悪魔の力を借りて、この領地の当主になってしまいました。
どうやら、私はニセモノの悪役令嬢から本物の悪役令嬢になったみたいです……。
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