私と同じ顔を持つ悪役令嬢
私と同じ顔を持つお嬢様が、今日もお怒りになっている。
「アルダ! 何で、あの無礼なメイドを蹴り飛ばさないのよ。あなた、本当に私の影武者をする気があるの?」
ヴァシリーサお嬢様が私の胸ぐらを掴む。彼女と全く同じ型のピンクのドレスが台無しだ。また暴力を振るわれるのかと、私は頭を下げて、泣きそうになって謝る。
「申し訳ございません、ヴァシリーサお嬢様。さすがに怪我をさせるのはかわいそうだと思いましたので。彼女を許してあげられないでしょうか?」
「甘い、甘すぎるわよ。あんなバカどもに優しさなんか無駄なのよ。動物のように痛みで教えてやらないと。あなたは私の身代わりなんだから、私がするようにアイツらを蹴り飛ばせばいいの。分かった? こういう風に」
ヴァシリーサお嬢様はそう言うと、私のお腹に蹴りを入れる。私は息が出来なくなり、その場にうずくまる。
「あなたも貧しいバカどもと同じ生まれだったわね? こうやって教育しないとね、オーホホホ」
お嬢様は私の頭を踏み付け、グリグリと痛みを与えてくる。痛みと屈辱で、涙がこぼれそうになる。
「あなたみたいな貧乏人が、この上級貴族オガルコフ家に雇われている事を幸せだと思いなさい。まぁ、あなたは私と同じ顔をしているってだけで、この家に拾われたんだけど。そうじゃなかったら、あなたみたいな無能、とっくにお払い箱よ」
ヴァシリーサお嬢様は私の肩を蹴り飛ばし、私はカーペットの上に仰向けに倒れる。
「分かってるわね? あなたは私の代わりに命を狙われるの。その為に、オガルコフ家で雇ってるの。調子に乗って、好き勝手したらダメだからね。分をわきまえて、私の影武者らしくしてちょうだい」
お嬢様はそう言って、倒れている私のお腹を踏みつける。また息が止まり、お腹を両手で押さえる。
「顔は蹴らないであげるわ。顔が腫れ上がったら、影武者の役割が果たせなくなるからね。オーホホホ」
お嬢様は高らかに笑いながら、スタスタとこの豪華な部屋を出ていく。
何でこんな事になったんだろう。田舎の家に両親と一緒に帰りたい……。
私は涙を流しながら、自分の置かれた状況を考えていた。
* * *
私の名前はアルダ、年齢は十六歳。貧しい農家で生まれ育った普通の平民の女の子だ。
そんな何の取り柄のない私が、この上級貴族の名家、オガルコフ家に雇われているのか? いや、正確に言えば、無理やり連れて来られたのか?
それはこの顔のせいなのだ。そう、この国の四大貴族の一家、オガルフ家の一人娘、ヴァシリーサ=オガルコフと瓜二つの顔だったからなのだ。
私の容姿はと言えば、黒髪のロング。体型は細身で、身長は平均よりも低め。ルックスも飛び抜けて美しいと言うほどのものでは無い。
目立った特徴といえば、左目の下にホクロがある程度だ。私自身、何の変哲もない、どこにでも居る普通の容姿だと思っていた。彼等が私の家に押し寄せて来るまでは。
忘れもしない十六歳の私の誕生日だ。
髭を生やした偉そうな男とそれを囲むように群がっている黒の鎧の騎士たちが私の家を襲撃したのだ。
その偉そうな男は私を見るなり驚いて、合格だと言った。そして、騎士たちに私をこのオガルコフ家の屋敷に連れてくるように命じたのだった。
私は必死で抵抗した。何度も逃げようと試みた。しかし、数人の騎士たちに取り押さえられ、力づくでここへと連れて来られたのだ。
両親達もその男たちに抗った。しかし、彼等も捕らえらた。そして、どこかに幽閉され、私と離れ離れになってしまった。
それから、偉そうな髭の男は私をこう脅してきた。
"両親を助けたくば、我々の言う事を聞け"と。
両親を人質に取られた事を私は理解した。逃げる事も彼等の要求を断る事も出来なかった。
その後、私は自分と同じ顔をしたお嬢様と出会う事となる。初めて、会った時はお互いに驚いた。まるで鏡を見ているかのようなそんな感覚に襲われるほど、全く瓜二つだったからだ。
私がここへ連れて来られた理由。それは、ヴァシリーサお嬢様の影武者となる事だった。
この国の王は、四大貴族の令嬢の一人と自分の息子の王子とを結婚させると明言した。当然なのだが、結婚した令嬢の家は王家との婚姻を果たした事により、他の貴族とは一線を画した権力を手に入れる事となる。
つまり、どの貴族も是が非でも自分の娘を王子と結婚させたいと思っているのだ。力を手に入れる為に。
その事により、王子との婚姻争奪戦は貴族間の家同士の争いとなり、血で血を洗う醜い抗争へと発展したのだった。
つまり、このヴァシリーサお嬢様は他の貴族達から命を狙われ、オガルフ家も他の三家のお嬢様たちの命を奪おうとしているわけなのである。王子と我が娘を結婚させたい、その欲望の為に。
私はそのお嬢様の代わりに公の場に姿を現し、命を狙われる影武者、代役となったのだ。もうすでに何回か殺されかけた。毒を盛られて意識を失った事もあったし、ナイフでお腹を刺されて傷跡も残った事もあった。
正直、こんな毎日嫌だ。でも、両親を救う為に拒む事は出来ない。お嬢様が王子様の妃になるまで、私は耐えなければならないのだ。
小説を読む方は頭が良く、人の気持ちの分かる人だと聴きます。
そんな優秀な読者の皆さんの為に、面白い小説を書いていきますので、これからも読んで頂けると大変嬉しいです。
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