悪魔と二人きりで一夜を
私とダヴィ−ドはオガルコフ家の屋敷の玄関の扉を開ける。
もうすでに景色は夕暮れになっている。今ごろメイドや執事長たちは夕食の準備に追われているはずだ。そう思いながら、屋敷内を見回す。
やけに静かだ。中はまるで誰も居ないかのように静まり返っている。
私は上下左右に首を動かしながら、屋敷内を隅々まで確認する。しかし、誰も居ない。
オガルコフ家で雇っている使用人の数は多い。だから、屋敷内を歩けば、必ず誰かと会うはずだ。でも、不思議と全く誰とも出会わない。
おかしいと感じ、ダヴィ−ドの顔を見る。
「"死の悪魔"の野郎を見て、ここの親分と執事が逃げたんだろ? 使用人の奴等も攻めて来たと思って、どこかに逃げたんじゃねえのか?」
なるほど、その通りだと納得する。"死の悪魔"が屋敷のすぐ前の庭まで来ていたのだ。屋敷に留まれば、殺されるかもしれない。確かに逃げ出すのが当然だと思われた。
自分の部屋のある二階に行く為に、私は階段を登り始める。そして、振り返り、後に続く悪魔に話し掛ける。
「私の部屋はこっちよ。本当は私の部屋じゃなくて、亡くなったヴァシリーサお嬢様の部屋なんだけど」
「あぁ、そうみたいだな。アンタの事は一通り調査をさせてもらったから、ある程度は分かる。アンタ、影武者だったんだろ?」
「えぇ、そうだけど。なぜ、それを知ってるの? 極秘事項だったんだけど」
「俺は悪魔と呼ばれる大陸最強の魔法使いの一人だぜ。調べりゃ、そんなモン簡単に分かる」
得意気な顔でダヴィ−ドは笑って返す。
この男、どこまで私の事を調べたんだ? 確かに、何から何まで分かっているような気配がする。一体、何の為に?
少し恐くなり、警戒の眼差しで"洗脳の悪魔"をじっと観察する。彼は興味深そうに、屋敷内をジロジロと見ている。
しばらくして、私達は自室の部屋の前に辿り着く。私はドアを開け、ダヴィ−ドを部屋に迎え入れる。
「豪華な部屋だな。さすが貴族のお嬢様の部屋だ」
ダヴィ−ドは笑みを浮かべながら、部屋の中にある机やソファなど家具を見て回っている。私はベッドに腰を下し、ダヴィ−ドに視線を注ぐ。
「あなたの事を教えて。何でこの家の事とか私について知っているの?」
悪魔がこちらを向き、眉を上げる。
「町でアンタと会った時、アンタに興味を持った。それで、色々と調べたのさ」
「え、だから何で私なんかに……」
「それはご想像にお任せするぜ」
"洗脳の悪魔"は笑いながら、話をはぐらかす。私は不快な気分になり、目を細める。
まさか、私の事を好きになったとかなの? それで、私の事を調べて、付け回して来たの? 気持ち悪い。
再び警戒の目で彼を見つめる。部屋の中は暗くなって来ている。窓の外に視線を移す。すでに日は落ち、夕方から夜に変わりかけていた。
不審な目でダヴィ−ドを見ながら、話を続ける。
「ところであなた、ずっとこの部屋に居るつもりなの?」
「あぁ。離れていたら、他の悪魔が攻めて来た時に護れないだろ?」
「でも、屋敷内には誰も居ないし、私とあなたの二人きりだし、もう夜で真っ暗だし……」
私はそう言い掛けて、自分の置かれている状況を認識する。
悪魔と二人きりで夜を過ごす――――。
私はものスゴく危険な立場に置かれているのではと、想像をしてしまう。
私は恐くなり、彼と少し距離を取ろうとする。
「あれ? もしかして、俺に襲われるとか思ってるのか?」
ダヴィ−ドはニヤけた顔で言葉を漏らす。私はジロリと彼を見て、目で訴える。悪魔はため息をつきながら、首を横に振って、言葉を続ける。
「あのな、俺は"洗脳の悪魔"なんだぜ。そういう気があるのなら、アンタを洗脳してから襲うだろ? その方が楽だし」
あ、確かに。私は妙に納得して、少し安心してしまう。しかし、新たなる疑問が持ち上がって、別の不安な気持ちが湧いてくる。私は首を傾げ、質問をまたぶつける。
「あなた、本当に本物の"洗脳の悪魔"なの?」
彼は一瞬驚いた顔をし、フッと鼻で笑い出す。
「え、そこを疑ってるのか? ホントに面白いな。初めてだぞ、そんな事言われたの。うーん、本物だと証明しようがないぞ。あ、じゃあ、アンタで洗脳の魔法の効果を試してみるか?」
ダヴィ−ドはニヤリと笑みを浮かべ、こちらに近付こうとする。
「いや、いや、結構よ。分かったから。とりあえず、本物だって信用しておくわ」
私は両手を前に出し、こっちに来ないでとアピールする。彼はまた笑いながら、羽織っていたマントを脱ぎ出す。
マントの下は、半袖の布のシャツと簡素な長ズボン姿だった。スゴい魔法使いと言っても、高価な服は身に着けてはいない。生活レベルが平民と同じで、苦しいのかと一瞬思ってしまう。
しかし、シャツの張り具合から胸板の厚さがよく分かる。腕もたくましく、太い。魔法使いの身体付きというよりかむしろ、斧を振り回す戦士のような体格であった。私は不思議に思い、また口を出してしまう。
「スゴい筋肉をしてるのね。魔法使いなのに、そこまで身体を鍛える必要があるの?」
「鍛えておかないとダメなんだよ。俺の洗脳の魔法を使うのにはな」
ダヴィ−ドはそう言って、ソファに寝転がる。
「俺、睡眠時間めちゃくちゃ取らないといけない体質だから。ほんじゃ、寝るわ。オヤスミ」
彼はそう言うと、寝息を立てて熟睡してしまう。
おいおい、寝るなよ。私の警護はどうなったんだ? それに洗脳の魔法を使うのに、なぜ筋肉がいる? 説明しろ。
ツッコミどころ満載の悪魔に苦笑いをし、私もベッドで就寝する事にした。
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