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ニセモノの悪役令嬢の私は悪魔に洗脳され、王子様に溺愛されます。  作者: かたりべダンロー


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助けて……

 "死の悪魔"はゆっくりとこちらに身体を向ける。ファシーお嬢様は腕組みをし、高みの見物をしているようだ。


 私の近くに居る当主サーガ様もただ呆然としている。そして、意識を急に取り戻したかの如く、ビクッと突然身体が動き出す。恐怖で引きつった表情の当主様は、いきなり背中を向けて走り出す。


「た、助けてくれ。ワシは死にたくないんだ。お願いだ。許してくれ」


 ニセモノの父は叫びながら、向こうへと逃げて行く。残された私と執事長は唖然としながら、彼の背中を見つめている。


 私が殺されたら、あなたも困るんじゃなかったの? 娘の敵を取るんじゃなかったの?


 そんな言葉が脳裏を駆け巡る。すると今度は、私の隣に居た執事長がクルリと身体を反転させる。


「私はただの雇われの身です。お願いですから、殺さないで下さい。あなた達には逆らいませんから」


 命乞いをしながら、執事長も猛ダッシュで逃げて行く。信じられない光景を目の当たりにし、私の頭は真っ白になる。


 え、私、一人ですか? 誰も守ってくれないんですか? 私が死ぬと、オガルコフ家が終わるんじゃないんですか? どうするんですか?


 自問自答しながら、目の前の現実を直視する。目の前に居るのは、私を殺そうとしているファシーお嬢様と"死の悪魔"。

 

 そして、私の周りに居るのは、"死の悪魔"に殺された騎士達の遺体だけだ。


「あら? かわいそうに。一人になったわよ、あなた。見捨てられたみたいね。どうする? 先生と私と相手に戦うつもりなの?」


 ファシーお嬢様が面白そうに私を見て、笑っている。"死の悪魔"はゆっくりとこちらに近付いて来る。


 私も背を向けて、思いっ切り走れば、逃げ切れるかも。


 などと一瞬、頭の中で思い浮かぶ。だが次の瞬間、甘い考えの自分を全力で否定する。


 いや、背を向けた瞬間、あの即死魔法で命を奪われる。間違いない。そんな直感がする。ダメだ。恐くて、背を向けられない。


 私はまた、彼等を見ながら、後ずさりをする。でも、"死の悪魔"に徐々に距離を詰められて来る。


 恐ろしくて、身体がまた震え始める。涙も自然に流れ出る。私は目を閉じ、その場にしゃがみ込んでしまう。


 誰か……。誰か助けて……。


 心の中で必死に叫ぶ。そして力無く、私はうなだれる。殺されるなら痛くないように、恐くないようにと願いながら、小さくなる。


 "死の悪魔"の足音が近付いて来る。恐くて、顔は上げられない。


 しかし、足音が急に途絶える。私の意識は繋がったままだ。まだ、殺されていない。どうやら私は生かされているみたいだった。


 不思議に思い、私は目をうっすらと開ける。そして、周りの様子を確認する。


 "死の悪魔"は私の手前で立ち止まり、動かないでいる。何故だか分からないが、動揺しているみたいに見える。


 ファシーお嬢様も突然の"死の悪魔"の変化に違和感を感じているようだ。


「あの、先生。どうかなされたのですか? なぜ、その娘を殺さないんですか?」


 ファシーお嬢様が恐る恐る悪魔に声を掛ける。


「……アイツだ。アイツが居る」


 "死の悪魔"はポツリと呟いて、一点を見つめている。視線の先は私の後方のようだ。その視線の先を追うように、私もゆっくりと振り返ってみる。


 後ろで誰かが立っている。全身を隠すようにフードとマントを被っている人物だ。背の高い、恐らく男性だと思われる人物がそこには居た。


 この人、以前どこかで会った事がある。確か町でパンを配っていた時に出会ったあの時の……。


 私が思い出そうとしている時、ファシーお嬢様が興奮して大声を出す。


「先生、アイツって誰なんですか? あの後ろに居るヤツのことなの? そんなのどうだっていいから、早くその女を始末して」


「……アイツは”洗脳の悪魔”と呼ばれているヤツだ」


 ”死の悪魔”のその言葉で、ファシーお嬢様は固まってしまう。私も驚いて、フードの男をじっと見つめる。”洗脳の悪魔”と呼ばれた男は、フードを払い退け、素顔をさらす。


 その男は白髪の長い髪をなびかせて、意地悪そうな笑みを浮かべていた。私の第一印象は、性格が悪そうな人で、絶対に友達になりたくないタイプだった。


「久しぶりだな。今はお前も”死の悪魔”って呼ばれているらしいな」


 ”洗脳の悪魔”は”死の悪魔”に話し掛ける。”死の悪魔”はしばらく無言で彼を見つめ、ようやく口を開く。


「何の気まぐれだ? 世の中の事に無関心だったアンタが何故こんな所に居る?」


「空気を読めよ。この女に俺は付く。そういう事だ」


 ”洗脳の悪魔”がそう応えると、”死の悪魔”はクルリと背を向ける。何が何だか分からなくなり、私は混乱し始める。


「お嬢さん、ダメだ。アイツが敵になっちゃった。今日は止めだ」


「え、先生、何でよ? いくら相手が”洗脳の悪魔”でも先生なら勝てるでしょ? あの女を殺さないと」


 帰ろうとする”死の悪魔”をファシーお嬢様が必死に止める。


「だから、ダメだって、お嬢さん。今日の俺の運勢、最悪って言っただろ。今日、アイツと戦えば、俺は殺されて、お嬢さんも消されるよ。それでも、いいの? 俺はヤダね」


 そう言って、”死の悪魔”はスタスタと出口の方へ歩いて行く。ファシーお嬢様は悔しそうな顔を私に見せる。彼女はプイと背中を見せ、足早に”死の悪魔”を追い掛けて行く。


 私と”洗脳の悪魔”だけが取り残される。何が起こったのか理解出来ない私は、とりあえず"洗脳の悪魔"に声を掛けてみた。


 




 


 




 

読んで頂きありがとうございます。

今回も長編になる予定です。

引き続き、お付き合い頂ければ幸いです。

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