初デート
会食は滞り無く、終了をする。しかし、王子様のご厚意あるお誘いがあった為、私と王子様は屋敷の中庭で、お散歩をする事となる。
父親役のサーガ様と執事長が手を挙げて、喜んでいる。それを見て、私は恥ずかしくなり、顔が熱くなってしまう。
たった今、私はこの国の第一王子様と二人きりで、お散歩デートをしているのだ。
少し離れた場所で、護衛の騎士たちや家中の者が私たちを見守っている。会話などは聴こえないくらいの距離だ。
私はうつむきながら、ただ歩いている。周りの景色など、見る余裕がない。顔が上げられない。
すぐ隣にカッコいい王子様が居る。身体と身体が触れ合うくらい近い。信じられない、ドキドキが止まらない。
恥ずかしくて何も話す事が出来ず、私は沈黙の状態のままでいる。
「今日は、この俺の為に時間を取らせてしまって、すまなかった」
突然、王子様が私に謝って来る。意外な行動に驚き、私は目を見開いて王子様を直視してしまう。
「殿下が謝る必要などありません。私の方こそ、こんな場を設けて頂き、大変嬉しく思っていますし、感謝しております」
動揺し、必死で会話をしている私が居る。身振り手振りが大きくなる。あまりに滑稽な動きをした為なのか、王子様は口に手を当て、お笑いになっている。
「そうか。そう言ってくれると、俺も嬉しい。ヴァシリーサは、ホントに変わっているよな?」
「え、それは貴族っぽくないと言う事ですか?」
また驚いて、慌てて王子様に聴いてしまう。
「そう、全然、貴族っぽくない。君のような変わった貴族に会ったのは初めてだ。第一印象では、皆と何ら変哲のない普通の貴族の娘だと感じた。でも、あのダンスパーティーの別れ際の時からだ。まるで人が変わったかのように印象がガラリと違って見えた」
その王子様の言葉で、私は呆然としてしまう。
本物のヴァシリーサお嬢様からニセモノの平民の私に変わってしまった事がバレたの? 致命的なミスを犯してしまった? どうしよう?
恐くなってうつむき、考え始める。何か言い訳を、納得出来る理由を応えなければ全てが終わる。そう感じ焦り始める。
そんな風に思考を巡らせていた時、再び王子様が言葉を続けて来る。
「だから、こうしてまた君と会って、話がしたかったんだ。気になったから」
え、どういう事? つまり、貴族っぽくない私に興味を持ったって事なの? 本物のヴァシリーサお嬢様じゃなく、アルダの私に?
思考を必死に整理する。王子様は今、貴族っぽくない私を断罪している訳ではないのだと、少し安心をする。
「だから、二人きりで話がしたかった。皆が居ると、貴族相手でも、堅苦しい言い方をしないといけないし。サーガ、いや、君のお父様が邪魔をして来たりするからね」
王子様はニコリと笑いながら、ウインクをして来る。私はクスッと思わず笑ってしまう。笑う事などいつ以来だろう、ふとそんな事が頭をよぎった。
「ありがとうございます、殿下。私も殿下とお話が出来て、嬉しいです。スゴく殿下が話しやすい方なので、こんな言い方をして良いのか分かりませんが、私、楽しいです」
「ホント? それは良かった。実は、ここだけの話、他の貴族の娘と話してもね、家の自慢とか、自分のどこが素晴らしいとかしか話さないんだよ、あの娘たち。聴いてるこっちも段々と疲れて来てさ。でも、一応、立場が王子だし、威厳を持って聴かなくちゃ父上や爺に怒られるから、仕方なく聴いてるわけよ。王子も大変なんだよ、こう見えても」
「あ、分かります。父上とお話なさってる時、殿下、ツラそうでしたから。私でもイヤだなって感じますもの」
「でしょ? でしょ? 気付いてたんだ? そう、あんな話ばっかり、ずっと聴かされてたら、ウンザリするから。いやぁ、ホント、君には何でも話せそうな気がする。ストレス発散になったよ。また、君に会えるかな?」
王子様がそう言って、一瞬真顔になる。私はまたドキッとして、うつむく。
「私もまた、殿下に会いたいです。いつでも誘って下さい」
「うん、ありがとう。父からは花嫁をじっくり選ぶ時間を与えられている。必ず君を誘うよ、必ずだよ」
そう言って、王子様は一団の方へと向かって行く。私は微笑みながら、王子様の背中を見つめる。
また会いたいと言うのは、社交辞令じゃありませんように。そう願いながら。
* * *
王子様一団が帰路に就く時間がやって来る。私たちオガルコフ家一同は、王子様の一団を領地の外まで見送る為に大勢集まる。
王子様を含めた大軍は、当主様に一言挨拶をすると、城を目指して進んで行く。大勢のオガルコフ家の者達は頭を下げ、彼等をお見送りをする。
そして、一団が見えなくなると頭を上げ、私たちも動き出す。当主様と執事長はこの度の会食が大成功だったと、大声で騒いでいる。
屋敷の中へ戻ろうと、私も中庭をゆっくりと歩いて行く。帰る途中、自然と笑顔が込み上げて来る。
この屋敷に来て、初めて楽しいと思った。あの方がこの国の王子様でホントに良かったな。
喜びを噛み締めながら中庭の道を歩いていると、二人組の人物が視界に入る。浮かれモードから一転して、思わず息を呑んでしまう。
「あ〜ら、これは、これは、オガルコフ家のヴァシリーサさん。どうも、ごきげんよう」
声を発した金髪の令嬢を私はじっと凝視する。現れたのは、ヴァシリーサお嬢様のライバル、ドン家のファシーお嬢様だった。
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面白くなるように、伏線を張って、回収していきますので、また宜しくお願いします。




