王子様がやって来た
我が国の第一王子が、オガルコフ家の屋敷にやって来る日が訪れた。
雲一つない爽やかな朝だ。外でお散歩などすれば、さぞかし気持ちが良いだろう。窓の外を眺めながら、私はベッドから身体を起こす。
緊張と恐怖から、あまりよく眠れなかった。その為、天気とは対照的に私の体調は絶不調だ。
王子様にこんなゾンビのような顔を見せても大丈夫なのだろうか。鏡の中の私を見て、王子様の前に出るのがスゴく嫌になる。
コンコンとドアをノックする音が耳に入る。はいと応えると、執事長がツカツカと部屋の中へと入って来る。
「お嬢様、準備並びに、打ち合わせを致します。メイドと共に、お着替えとお化粧をお願いします」
執事長が私にそう告げると、三人のメイド達が突入して来る。三人は別々の動きで、私にドレスを着せたり、お化粧を施したり、髪の毛をセットしたり、完璧な仕事を見せる。
こうして、ニセモノの私が貴族らしい格好に変貌を遂げる。
それから、当主様の部屋に行き、今後の打ち合わせをしに行く。警備の騎士達を倍近くに増員したらしい。窓から庭を覗くと、殺気だった騎士達が大勢集まって、ミーティングをしている。
彼等で本当に大丈夫なのかな? 相手は大陸の悪魔なんでしょ? スゴく不安だ。
考え出すと、また気分が悪くなる。
そんな風に慌ただしく準備をしている内に、王子様一団の到着の時間が来てしまう。
我がオガルコフ家一同は、屋敷の玄関の前で待機し、王子様たちをお出迎えする。
白の鎧を着た騎馬隊を先頭に、武装した集団がゾロゾロと屋敷に到着をする。その集団の中央付近に豪華な白の馬車が見える。馬車は屋敷の入り口の前で停車する。
あの馬車に王子様が乗っているのかな? ドキドキする。
馬車を見つめ、私は緊張感を高める。皆の視線も馬車の乗降口に注がれている。
すると、馬車の扉が開き、ゆっくりと降りてくる男性の姿が私の目に止まる。正装したきらびやかな服装の上にマントを羽織っている。そして、ゆっくりと馬車の階段を降り、爽やかな笑顔でオガルコフ家の当主様に挨拶をする。
「サーガか、この度は世話になるぞ」
「はい、殿下。わたくしの屋敷に立ち寄って頂き、誠にありがとうございます。ゆっくりとくつろいで下さいませ」
「うむ、その言葉に甘えるぞ」
王子様はうなずくと、チラリと私の方を見る。心臓が飛び出そうな胸を抑えながら、私は王子様の元へと近付いて行く。
「殿下、我がオガルコフ家の屋敷に来訪して頂き、ありがとうございます」
「ヴァシリーサか。うむ。その後、体調の方は良くなったのか?」
「はい、おかげさまですっかり良くなりました。お気遣い感謝致します」
王子様に軽く会釈をする。顔を上げ、王子様に元気な事をアピールする為に、私は精一杯の笑顔を見せる。
体調が良くなったというのは、もちろん嘘だ。あの時よりもむしろ今の方がかなりツラい。
王子様は心配そうに私を見ていたが、当主様が私と王子様の間に邪魔をするように割って入って来る。そして、当主様は王子様相手に流暢に話を始める。こうして、二人を中心に一同は会食の場へと歩を進めて行く。
そんな主要人物の二人のすぐ後ろを私は付いている。当主様は王子様に自分を売り込んでいるみたいだ。スゴく必死なのが伝わって来る。
私は不快に思い、視線を王子様に向ける。殿下は爽やかな笑顔を見せ、話にうなずいている。優しい方だなと感じながら、周りをキョロキョロ見回す。
私たちの周りは、警護をしている騎士たちと身の回りのお世話をするメイドや執事たちなどで溢れかえっていた。
この中に、例の大陸の悪魔が居るかもしれない。そして、虎視眈々と私の命を狙っている。
私はまた身震いをする。王子様に会えたからといって、私は今、浮かれモードにはなれないのだ。
一団はこの屋敷の大広間に足を踏み入れる。この屋敷で一番大きな部屋で、主に今日のような接待やパーティーなどで使われる場所だ。中には大きな長方形のテーブルが置かれていて、椅子が綺麗に並べてあった。
今日の会食は、王子様が私ともっと話がしたいという目的で催されたものらしいのだ。
そういう趣旨もあって、王子様は私の正面の席に坐る。私の隣には当主様が陣取る。つまり、私たちの対面側には王子様を含めた来賓者たちが、そして私たち横一列側にはオガルコフ家の関係者が坐るという席の配置のようだった。
私の顔は熱くなり、視線を前に向けられずにうつむいてしまう。容姿端麗な王子様が真正面に居るのだ。しかも、私に好意を持ってくれていると聴いている。照れないで、平静に見られる訳がなかった。
そんな沈黙の私とは対照的に、隣の当主様は息つく暇もなく、王子様に喋り続けている。王子様は完全にロックオンされた状態だ。
「どうですか、殿下? 我がオガルコフ家の財力と軍事力は。もし我がオガルコフ家と王族が血縁関係を結べば、この国はさらに豊かに、さらに強くなりますぞ」
まただ。自分の家の自慢をしている。さすがに、王子様も聴き飽きて来て、不快な顔をされている。でも、当主様は全く気付いていない。
どうしよう? 止めるべきか? それとも、私も何か喋って、話を断ち切るべきか?
迷っている間に刻々と時間は流れて行く。王子様とまともに喋れていない時間が長くなる。さすがに焦り出す。しかし、当主様は延々と王子様に喋り続けている。
どうする? 考えるんだ、アルダ。
案が浮かばないので、とりあえず出された料理に手をつけてみる。が、食欲がなく、喉に通らない。
こんな喋らない女なんて、面白くないわよね。嫌われたかも? ダメだな、ホント、私。
落ち込んでうつむく。涙が出そうになる。そんな中、不意に私は声を掛けられる。声を掛けて来たのは、目の前にいる王子様だ。
「ヴァシリーサ、この会食の後、良かったら屋敷の庭を案内してくれないか? 二人きりで」
私は驚き過ぎて、持っていたナイフをお皿の上に落としてしまった。
小説を読む方は頭が良く、人の気持ちの分かる人だと聴きます。
そんな優秀な読者の皆さんの為に、面白い小説を書いていきますので、これからも読んで頂けると大変嬉しいです。
もし良かったら、今後も宜しくお願いします。




