四人の悪魔
「それは、紛れも無い事実であろうな?」
三人の中でいち早く、執事長が反応する。しかし、表情は驚きのあまり強張っている。かなり動揺しているのが、私でも分かった。
「はい、事実でございます。残念ながら……」
騎士はガックリとうなだれながら、報告を繰り返す。当主様は呆然とし過ぎて、何も声を発していない。それほど恐ろしい事実を知らされたのだ。
そう、騎士の口にした大陸の悪魔……。これこそが私たち三人を絶句させた原因だ。
この大陸には、恐るべき四人の魔法使いが居る。その四人の全ての魔法使いが無慈悲で、千人以上の人間を惨殺している。その残虐非道な行為と強さから、彼等の事を人々はこう呼んでいた。
大陸の四悪魔と……。
その悪魔一人の強さは、一万人の兵に匹敵すると言われており、その悪魔を敵に回せば、必ず死が訪れると人々は恐れている。
その悪魔が我々の敵となった事をたった今、知らされたのだ。しかも、三人の悪魔が。驚かない方が無理というものであった。
「何という事だ……。せっかく、王子がヴァシリーサになびいておったのに、大陸の悪魔が相手では」
当主様がぼやくように言葉を漏らす。執事長はそんな当主様を見向きもせず、騎士に詰め寄る。
「具体的にどの家にどの悪魔が付いているのだ? 詳しい事を申せ」
「はい。まず、ターキ家の味方となっているのは、"炎の悪魔"です。そして、キーネ家と契約したのは、"毒の悪魔"でございます」
その二人の悪魔の噂を私も聴いた事がある。あらゆる人間を焼き尽くす炎を操る悪魔と、大量の人間を一気に毒殺する最悪な悪魔たちだ。
「そして、ドン家に仕えているのが、四人の悪魔の中でも最強と言われている"死の悪魔"でございます」
それを聴き、私は放心状態に陥る。一番多くの人間を殺したと言われる悪魔だ。見たら最後、命は無いとも言われている恐ろしい魔法使い。
気分が悪くなり、私は目を閉じ、その場にしゃがみ込む。
すると、正気を少し取り戻したのか、当主様がウッカリ言葉を漏らす。
「ま、まさか、本物のヴァシリーサを殺したのは、ドン家の"死の悪魔"か? そうなのか?」
と、言うや否や、執事長が騎士の首に手刀を叩き込む。騎士は意識を失い、その場に倒れる。
「旦那様、なりませぬ。他言無用でお願いします」
「あぁ、分かっておるわ。外傷が無いのに、娘が死んでいた理由が今になって分かって来たわ。確かに"死の悪魔"の魔法で殺した死体と酷似しておる。やはり、娘は"死の悪魔"に……。おのれ、ドン家め。必ず復讐してやる。許さぬぞ。我が子の敵は必ず討つ」
「お気持ちは分かります。ですが、旦那様。相手はあの"死の悪魔"でございますよ。いかに我々の騎士達が優秀でも、さすがに倒す事は不可能かと……」
「だから、分かっておるわ。こちらも悪魔で対抗するのみぞ。四人目の悪魔を探し出し、我が家に取り込むのだ」
「四人目の悪魔? "洗脳の悪魔"でございますか?」
「そうだ。人の心を思い通りに動かし、死に追いやる、姑息で卑怯な悪魔だ。ヤツなら"死の悪魔"と対等に戦える。今すぐ、わが家中の者を総動員し、事に当たれ。良いな?」
「分かりました、旦那様。すぐさま探し出して見せまする」
そう言うと、執事長は足早に部屋の外へと出て行く。部屋には私と当主様、そして、意識を失って倒れている騎士のみが残された。
ダンスパーティーの時の記憶を私は手繰り寄せる。
あの時、ヴァシリーサお嬢様とドン家のお嬢様が対峙した時に居た、あの黒髪の色白な男。あの男こそが、"死の悪魔"だったのではないのか。私はそう感じ、思わず口にする。
「旦那様……いや、お父様。私、"死の悪魔"を見たかもしれません」
「何だと?」
当主様が目を見開き、立ち上がる。驚いた私は少し後ずさりをする。そして、ひと呼吸置いてから、ゆっくりと話し始める。
「"死の悪魔"は黒の短髪で、色白なガリガリの男だと思われます。恐らく、ドン家のお嬢様と常に行動を共にしているはずです」
「うむ、分かった。我がオガルコフ家の領地に足を踏み入れたならば、ワシの耳に入るように手配しよう」
こうして、私の感情が大きく揺さぶられる衝撃の一日は終わった。
* * *
王子様、来訪の日の前日の夜……。
「何、"洗脳の悪魔"が見つからないだと。ふざけるな!」
当主様の大きな声が、部屋中に響き渡る。例によって、私と執事長は当主様の部屋に呼び付けられていた。冷や汗を流しながら、執事長は言葉を必死に返す。
「も、申し訳ございません。なにぶん、"洗脳の悪魔"という魔法使いは、変わり者で気まぐれな性格らしく、消息が全く掴めないという事なので……」
「言い訳など、聴きたくないわ。どうするのだ? 明日、この屋敷に王子が来るのだぞ。そこをもし、他家の悪魔に狙われたら、どう防ぐんだ? おい、応えてみろ!」
当主様の罵声がまた、部屋中を駆け巡る。何も言えず、ただただ困った顔をしている執事長の姿が目に映る。
「我がオガルコフ家だけ悪魔の味方が居らず、唯一、単独で王子との会食の場が許されたのだぞ。他家から、どうぞ命を狙って下さいと言わんばかりのシチュエーションではないか。え、どうするのだ、執事長」
執事長は何も応えられず、怯えて小さくなっている。私はそれを見て、身体が固まっている。
命を狙われるのは、私なんですが、どうするんですか?
そんな不安な想いに一晩中、悩まされながら、翌朝の王子様との会食の日を迎える。
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