春夏冬秋の悩み事5
「とりあえず風呂入ってきたら?」
「いっ、一緒……?」
「違う」
ウルウルとした瞳に、同性ながらグッとくるものがあった。跳ねた髪の毛も相まって捨て猫のように見えなくもない。
しかし、彼女は人間だ。今は汚い身なりをしたただの美少女だ。
「えー」
「私、汚い子とは一緒にいたくないし、ていうかアンタが抱きついたせいで少しベタつくの」
キッパリと断ると不服そうに口を膨らます。
触れた腕とかが粘つく。気持ち悪い。
ハンカチで拭くも、なんか落ちてないような気がしてならない。
「なら、ね?」
「ね、じゃないのよ。あーあ、何しに来たか忘れた」
不毛なやり取りの多さと、思ってたんと違うが多すぎて困惑しすぎた。
ズキズキと痛み始めた頭を抑えて白雪を見ている。
きっと、睨んでいる。
「会いにいてくれたんじゃないの?」
何かを察したのか、真面目なトーンで聞いてくる。
そう。こんな感じのヤツだった。
今の白雪は口やかましい、苦手な人種へとなってしまっていたが、元々はどちらがいいと言えば暗く、気を許さない限りはほぼほぼ喋らないようなヤツで、時々目をそらさせない、そんな声で聞いてくるのだ。
「そりゃ、そうなんだけど。そうじゃなくて……理由を忘れた」
「いいよ、そんなの。顔を見せてくれただけで、私に言葉をかけてくれただけで嬉しいもの」
私がモゴモゴと明確な訳を話せなくても、微笑み、慰め、心からの笑顔を向けてくる。
白雪が不安定に見える。
それは、根暗だけど真面目で間違ったことが嫌いなあの頃を知っているからだろうか。
目の前の白雪は私の知らない白雪で、思わず口に出た。
「ねぇ、なんで不登校してんの」
言ってからハッとなる。そんなの決まってるじゃないかと。
来なくなった時期と、あの事は前後するから。
「……」
「……私のせい?」
「そうだよ」
あれだけ目を逸らさ無かった白雪が初めて苦しそうに目を背けた。
無神経にも言葉を重ねる。
意固地で、最低な話し方。
私のせいだと言われても、胸につっかえるだけで、何も言葉は紡げない。
「そう言ったらどうするの?」
「どうもしないけどさ……」
弱々しく言うのが精一杯だった。
「なら、気にしなくていいよ。関係ない事だから」
「…………っ!」
突き放すような言い方は、かつて聞いたことがある。
あの時は私が似た言い方をした。
そうか、突き放されるって苦しいんだな。
ぎゅっっと心臓がつぶされるような感覚。
ダラダラと粘ついた汗が湧き出す。
分かった。ショックな事が起きると喋れない。
私は白雪に未練があるのだろうか。友達だった頃を引きずって居るのだろうか。
まぁ、そうだろう。じゃなきゃ、こんなにも苦しむ理由もないはずだから。