胎動の隘路・其の六──実力内でできること
250129加筆修正
ギルドの中央を縦断する通路は広く、そして明るい。
間接的に取り込んだ自然光によるレイリー散乱を活用することで、清涼感のある灯りを屋内全体に染み渡らせているからだ。高い照度を保つこの仕組みは建築技術の高さの証明であり、見る者によっては価値ある光景であるだろう。
開けた空間中央には、枯れた噴水のオブジェがある。遥か上空の吹き抜けを仰ぐほどに伸び上がるのは、携えた色とりどりの植物だ。その存在は雄大で美しく、見応えとして余り有る。
しかし近代社会から転移してきた者たちには、さほどの感銘も与えることが叶わなかった。転移者がひとりギルド職員のユキヒトは、ロビーチェアに浅く腰掛け、前屈みにぼんやりと、行き来する多数の就業者たちを眺めボソリと呟く。
「──ぶっちゃけ、ショッピングモールにいる気分だ」
マグを口につけたまま漏らした呟きは、転移者たちを代表する感想だろう。
年代的には八〇〇年前に落成したとされるから、近代建築を真似ようはずもない。はずもないと理解した上でなお、近代的も相まって類似が過ぎるのだ。公共施設として完成した建造物ではあるが、起工時にはどうやら神殿か寺院に類する祭祀施設として計画していたらしく、端々にその残り香のようなつくりが見え隠れしている。それがまた似てしまった理由のひとつであるのだろう。
「まあ、教会は人の好むデザインの集大成で、集客を目的とする建造物という意味では同じだろうし──」ふと正面に焦点を定めたのは、まっすぐに近づいてくる人物があったからだ。規則的に足を進める姿勢正しい立ち振る舞いは、訓練を受けた軍人然としている。ぱち、と視線が絡んだことで相手は、人好きのする満面の笑みで手を振ってきた。「──タカシもすっかり軍人になっちゃって」
こちらの頬にも笑みがこぼれてしまう。タカシが国家地方警察に入職してからは、疎遠というほどではないにせよ、頻繁に顔を合わせることはできなくなった。それも手伝い姿を見れば安堵に緊張は解ける。もとよりコウイチを含めた三名は転移前からの親友同士で、身寄りのないこの世界に共にやってきたのである。絆は強固と臆せず宣言できる。
「よっす、お疲れ」
「ああ、お疲れ」すぐ手前で立ち止まるタカシと拳を軽くぶつけ合ったのち、彼の私服姿に抱く疑問を、表情と首を傾げる仕草を添えて口にした。「今日は休み?──制服で庁舎をうろつかれても困るけどさ」
「プライベートでの来訪、一応ね。そうしておいてくれると助かる」
「胡乱な物言いだね」
「飲んでるそれ、なに?」こちらの手元のマグをタカシは覗き込み、ついと見渡す先の自販機に人差し指を向ける。「アレで買える?」
「ナッツ類を砕いて飲料にしたっぽい味のなにか。甘さ控えめで飲みやすいよ」
「おっと確定情報がなにひとつ得られないぞ──俺も飲みたい」
即座に自販機へと向かう挙動が、学生時代の彼に戻ったかのようで嬉しくなる。その背に向けて「最近、貨幣改鋳があったから気をつけてね。新しい小型銀貨は三枚で、古いやつなら二枚」
「それって事実上の値上げ?」タカシは、お手玉にしていた小銭入れを宙で掴み顔を歪める。取り出した小型銀貨二枚を指の背で器用に転がしながら「たぶん一枚に届かない、ちょっとした値上げなんだろうけど──貨幣の側を変えるなんてまた思い切ったことをするんだな、こっちは」と肩をすくめた。
「市場に出回る現金不足の解消だってさ。原因はもっぱら俺たちのせい」
「そらまた──妙なお話だこと」指の背で弾いたコイン二枚を宙で掴み取ったタカシは、唇を尖らせて親指と人差し指で擦り合わせるそれを見つめる。「俺らの稼ぎじゃあ日々食い繋ぐのに精一杯で、貯蓄に回す余裕なんて無いってのに」
「使わないのはエールデ住民」
「はあ?」
「俺たちは管理通貨制度の感覚で」素っ頓狂な声を上げるタカシに失笑しつつ、マグの中身を飲み干して空にすると自販機に近づき彼に並ぶ。「汚れていようがなんだろうが貨幣も紙幣も額面通りに使うよね。言えば、市場に出回る現金の大半がそればかり。先住民は純度が高くて傷の無い、綺麗な現金を出し渋るようになって、そのまま節約意識にすり替わったらしい。所得は安定しているのに売れない、その対策なんだと」
「それで価値を下げた貨幣を新規流通させて、手持ちの元ある貨幣を使えばこれまで通りの金額ですよと──旧貨幣全回収が成った暁に値下げされなきゃ物価上昇しただけにならね?」
「金融が動いていないわけがないから、調整はどこかで入るだろうけど」
「デフレもインフレも知っているようでよくわからん」
知った口で説明したものの、タカシのぼやきには同意である。これで金融がどのように改善するのか、自分達の生活がどう変わるのかまでに理解は及ばないのだ。
──就労している立場上、従順になるしかないんだけどね。
タカシの指がデナール二枚を自販機に飲み込ませるのを、なんとなくしばし動きを止めて共に眺めてしまう。
「──はい、ハズレ引いた。ユキヒト、悪いけどデナール一枚くれなさい」
「なにかで返せよ」言いつつ財布を取り出しながら、はたと気づいたことを口にする。「ていうか額面で購入しているわけじゃあないんだから大型銀貨一枚入れてみたらどうかな。使われた新型デナールが多ければ釣り銭一枚多く戻るかも。もしかするとだけどさ」
「二〇円だったのが三〇円になったけれど、一〇〇円入れたら八〇円返ってくるってこと? それってやっていいのかね」
「国が旧貨幣を回収したがっているんだから乗ればいいんじゃないかな。キャッシュバックキャンペーン中、今ならデナール一枚お買い得って思えば」
やっぱりよくわからん、と眉根を寄せるタカシの手が、自販機にグロートを入れる。
自販機内部から飲料が準備される物音が聞こえ始めた。
「今日の来訪の目的を聞こうか」釣り銭がじゃらじゃら音を立てて受け皿に吐き出されるのを屈んで取り出すタカシを見下ろし、訊いた。「暇を持て余してサボっていたところだから、ちょうど良くはあるんだけど」
「オフィスでダリオさんが吠えてたしな。こりゃあ逃げてるだろうと、こっちに来た」
「正解。仕事が干されてるような状況だと、あの声、聞いてられなくて。それで?」
自販機の腰の高さあたりでシャッターが開き、飲料が注がれたマグがゆるゆると現れる。
「こりゃあ設定が操作されてるな」手のひらでデナールを数え終えたタカシががっかりした様子で言った。「旧貨幣が一枚も出てこない。店先人力だと揉めそうな気がしないか?」
「転移者相手なら大丈夫じゃあないかな。俺もお代わり買うよ──あ、ごめん、小銭貸して」
「ご査収を」とタカシが、たったいま取り出したばかりのデナール八枚を乗せた手のひらを、うやうやしく差し出す。逆の手で、待機したままのマグを受け取り「それで、飲み終えたカップはどうすんの?」
「隣にある洗浄機に入れたらリサイクルされる」言いつつ手にあったマグを、手本とばかりに洗浄器の口に押し込んだ。「──査収の使い方おかしくないか?」
「さておき「おくのか」干されてるって言ったよな。ここ最近、ユキヒトの関与した業務が軒並み連中に連続して潰されただろ」
その言葉に、自販機の購入を進めながらも虚空を見上げる。国家地方警察の立場で現れたのなら、任意同行でも求められるのだろうか。出頭要請を出せば、逃げる気などさらさらないのだから、それでことが済むだろうに──非公式と言ったか?
「ああ」そして察した。「ギルドに潜んだ情報漏洩者って疑いを晴らしにきたのか」
「そゆこと。形式、建前、儀礼的、どれでもいいが片はつけなきゃなんないわけ。王弟殿下がギルドに誰かしらを確認に派遣した、その事実が残ればそれで終わる話」
「それでタカシが来ちゃったらダメじゃあないかなぁ……」
笑いを堪えながら、現れた新規の飲料を手に「とにかくわかった。来客用のブースに向かおうか」とタカシを促しつつ歩を進める。「ちょっと聞きたいこともできたからね」
「王弟殿下の動いた状況を必要とするってのは、もしかしてまずい情勢だったりする?」
ギルド玄関先にほど近い、打ち合わせブースに腰を据えた二人である。発言の先攻後攻に軽い衝突があったものの、タカシに譲られたから問いかけを口にした。
「なにか、でかいことをやらかす前準備に思えるよ」
「察しが良くて、いっそ怖いわ」タカシはマグを口に運び、そのままの格好で応える。「やんちゃな連中を容赦なく引っ立てる光景を目の当たりにしても、至極当然と受け止める世論の浸透が、満足する値に到達したと団内通達された」
「抗議活動だろうが愉快犯だろうが、十把一絡げに一斉摘発できる環境づくりが終えたってことか──具体的にはどう決めつけるつもりかな」
「有象無象の実行犯たちを一括りに、活動家集団に仕立て上げるんだと──お、この味わるくないな。缶とか瓶で売ればいいのに。持ち帰れないじゃん」
「マグの消耗が激しかったり、返却されなくなったら、結果的にそうなるんじゃあないかな。ほら日本でも、瓶が回収されなくなってリサイクルが破綻したラムネの話があるよね」
「あれはビー玉なんておまけ仕込んどくのが悪い──で、被害者と加害者の篩い分けを総当たりで処理しているのが今ここ」
「随分と危ういことをやるね。ひとつ間違えると連中に名分を与えることになるってのに」
「虚構の誇張で誰もが論争、魑魅魍魎の出待ちに恐慌」
「無闇に怯えて日々焦燥──と、なるのを心配しているんだよ」失笑しつつユキヒトは、しかし胸中で国家地方警察の舵取りに感謝していた。いざ風評に晒された際には、この小芝居が保証になるのだ。「それにしても今回の国家地方警察は、随分と踏み込むんだね。あれか、連中が騒ぐ都度の対処負担に、いいかげん耐えかねたか」
「正解」
タカシは上から掴んだマグを持ち上げるようにして、人差し指をユキヒトへと向けた。
「被害にあった現場は当然として、業務の潰れたギルドにも補償を下ろしてるだろ。これがまた結構な支出でね。加えて都度に削がれる人員負担もバカにならないときたもんだ」
だろうね、とユキヒトは飲料を喉に流し込む。犯行現場に居合わせれば捕物があるだろう。ことが終えた後も実況見分調書の作成が待ち構えている。犯罪被害実態調査に至ってはそれこそ人海戦術で地域住民に聞き取りに向かわなければならない。
「バカがひとり出てきたなら、そいつを支えるバカも潜んでいるだろうし」
「そこで世論誘導」タカシの上半身が背もたれに倒れ、椅子を軋ませた。「情報戦の始まりとなるわけだ。勤労している納税者は、その生活態度を根拠に対話が成り立つ。当然だ。ところが活動家は、自己表現に傍迷惑で突飛な行動を用いて大声で妄言を喚き垂れ流す知恵遅れでしか無い。相手をするだけ無駄で益などないぞ──と、まあ、道徳というか倫理なんだかは、浸透しつつある」
「俺らの地球で、美術品にペンキぶちまけて環境活動とかのたまう連中がいたけど、アレに仕立てようってことか」
「あれもなぁ……周囲と同じことすらできない連中が、周囲と同じことをしても勝てるわけがないから不公平だとか捻くれて、嫌がられる行動で歪んだ承認欲求を満たしているところに、その行動は正しいことなんだよと、君だからできることなんだよと、君が発言者となってみんなにわからせてあげるんだ、ほらコレ──てな感じでバケツいっぱいの塗料を手渡せば」
「活動と声明になんら関連性が見出せない狂人の完成と相成ると。で、王弟殿下はロクホウの愉快犯どもを、そいつらと同一視させたいと──エグくないか?」
「そうかな?」
タカシの反応は取り繕うような様子が無い。容赦が無いなと感想を抱いたこちらが間違っているのかと悩むほどに。だが、現場にあれば、こうして話を聞くだけではわからない部分も多々あるのだろう。ユキヒトはそう納得して小さく息をついた。
「聞く限り、長期戦を前提としているように思えるんだが──焦りが見えるのは気のせいか」
「それに答える前に──洞窟城の現況調査依頼はユキヒトが担当?」
「いや、出身枠で引っかかるから辞退せざるを得なかった。王室法案に引っかかったコウイチが現場に出ると、もう少し早くわかっていたら根回しもできたんだが……」
「誘導があったと、エーデルトラウト様は見做したよ」
暫時、息を呑んでタカシを見つめた。だが、言われてみれば確かに、と思うところもある。
「ギルドに依頼が回るより先に、レッシナがコウイチありきのパーティ編成選考を終えているのは怪し……くはあるが」しかし疑うにして論拠に乏しい。「空振ったとしても依頼より先に動くのは珍しく無いし、ギルドが前情報でクランにお願いすることもある。だいたい、見積もりを出させること自体、言えばタダ働きしてもらってるのと同じだからね。疑い始めるとキリがない。それに堂々と人事に介入しているだろうアルヴォさんを、なぜ今も泳がし続けている?」
「ひとつは、捜索押収許可なんざそうそう出るものじゃあないから。そしてもうひとつ、洞窟城領で起きた新規支路生成なんて絶好の機会に連中が反応していないから。理由はこの二点だね」タカシは、飲み干したマグに名残惜しそうな視線を送りつつ応える。「目的を果たした黒幕と、利用されただけの実行犯があるのは間違いないから、前者はもう動くことはないだろうけれど、後者は隙ありゃ人の褌をガメようってなさもしい輩だ」
「つまり──王室法案で選ばれた日本出身者が現地入りするのをトリガーに、なにかやらかされると見ているのか。そして王弟殿下としてはやらかしてほしい、と」
「だから下手に捕物ぶち上げて警戒されたくない。潜伏されたら困るし。言えば、何事も起こさないようなら、騒動をでっちあげる準備もある──メッゼリ領とアリュヤ領が同時に事犯対策推進要項改正法を施行しただろ」
「お陰で洞窟城領搬送路が治安悪化で潰れたよ。コクネセからの内陸水運切り替えにクランはどこも手一杯だ──そういうことか。順当に追い込んでいるのに、総王国内で警察が動けば、困ったちゃんたちに無用の警戒を抱かせることになる」
「そそ。ダナーリーは情報漏洩てな手助けがあったから更迭に動けたけれど、ダリオさんで仕切るってんじゃあ──」
「その気はなくとも、水漏れ甚だしい人だしな」実のところ、ベネディクトの補佐の申し出はしたのだ。しかしダリオは迷惑とばかりに顔を顰め、はっきりと拒絶したのである。「下手な手出しは裏目に出ることうけあいだよ」
「必要となっても介入できない?」
「余計なことをするなと嗜められてる。手助けはしたいよ──だけどね、カリルト部長が不在になった途端に」
「あの吠え散らかす騒動なのね」自然と二人のため息が同期する。「後輩に嫉妬、先輩方に反感てな感情はわからんでもないけどさ。ユキヒトならうまくやれたんじゃない?」
「どうやって」
「そこは、ほら、煽てたりして気分良く踊らせるとか」
「面倒なことを言わないでほしいな、仕事に介護を持ち込みたくない──なあ」ユキヒトもマグを空け、あらぬ方向を見つめながら問う。「本題はこっちだろ。騒動が起こると確定している現場にコウイチの出向が確定している、「なにか手はないか」」
ユキヒトの言葉に、タカシの声が被さる。
王室法案による選出に日本出身者が選ばれたことは、すでに報道で流布されている。業務対象の変更が現実的な対応ではあるが、ギルドに依頼が回る前に施工体制台帳の体裁が整えられてしまっているのだ。
だからユキヒトは、業務が回覧されると同時に自分が参加できないと判断したのだが「──こうなると、早まって業務を手放したことに後悔しかない」とテーブルに突っ伏してしまう。
洞窟城領の自治体警察が無能とは言わない。だが洞窟城領には、職に就く意思の無い者たちがこぞって侵入して徒党を組むのを、半ば黙認している実態がある。ゆえに、ことロクホウの活動に関しては国家地方警察に動いてもらいたいのが本音だ。
「ムーチェンさんたちは、いい人なんだけどね──」こうして知恵を借りに来ているタカシも同じく、領主家族への信頼を踏まえた上で、治安の面で信用が置けないのだろう。「──やらかされたところで、エーデルトラウト殿下は動けない」
「なぜわかる」
「資材の輸出入が滞って生産が停止、納品の見通しが立たずに在庫品の代替品提案に連日追われるようになれば、連邦か帝国でなにかあったくらいは思うよ──連邦の背面で自治体警察が統制権を国家地方警察に渡そうものなら、帝国と協調した両面作戦と捉えられかねない。だから王弟殿下は動くことができない」
いざとなれば騒動をでっちあげると言うが、王室が許可するとは思えない。
──しかし、動かざるを得ない状況であれば限らない。
「……国家地方警察の立場のまま洞窟城入りは可能かな」
するとタカシはやや顔を顰め「なんやかや理由をつけりゃあ初動派遣の名目で上がりこめるとは思うけどね」と身を乗り出す。「こんど、王弟殿下は王室に殴り込みに向かうと言っていた。俺も同行する。その時に申し出てみるが──タイミングは」
「コウイチの現地入りより若干、遅れるくらいがいい。タカシ自身に向かってもらいたい」
「俺でないとダメな理由が欲しいかな」
「現在、現場で業務従事しているのはタカシの古巣だ。連中の一味が潜んでいようが、タカシを知る作業員たちが連中の牽制に一役買ってくれる」
「確認しておくぞ」タカシの視線は、半ば睨みつけるそれだ。「どう都合良く利用されようと、コウイチの身の安全が優先されるなら構わない、それは共通認識でいいな?」
「構わない。国家運営を担う方々と渡り合えるなどと、思い上がりもいいところだ。理想は、連中にバカをやらせない、やらかされてもボヤ程度で食い止めたい、そして信頼できる組織に避難誘導の確保をお願いしたい」
「その三つの了承はいただけると思うが──」タカシはマグを振って見せてから腰を上げた。「猿の手だからな。後悔する覚悟はできたか?」
「した」ユキヒトも腰を上げ、タカシの背を叩く。「頼むぞ」
「頼まれた」
歩き出しながら二人は、拳をぶつけ合った。
「若いよ」
パーテーションを挟んだ、隣のブースである。二人の気配はすでに彼方にある。
ツグミは、ずず、とマグから飲料を啜りながら、水面に映る自分を見つめていた。
盗み聞きするつもりは正直、あった。正式依頼は未だとはいえど業務参戦が決定している現場の話題なのだ。しかも片割れは国家地方警察の騎士号持ちとなれば、聞き耳をたてるなという方が無理な話だ。
「こういった場所で、大々的に口走るなんて、詰めが甘いどころじゃあ、ない」
さて、コウイチの親友二人は、王室法案そして業務命令がまるで拒否権の無い代物のように受け止めていたようだが、そんなことはない。そもそもティアハイムがまだ受領していないのだから、拒否するもなにもないのだ。指示書が回覧されて、レッシナの施工体制台帳の作業員名簿にコウイチの名が記されていたとしても、なにを他社の社員を名指ししてくださっているんだ、と書き換えるのもありである。
「要するに……自治体警察から統制権を移譲させるネタ作り、か」
こん、とマグをテーブルの上に置いたツグミの、なぜか、頬には笑みが浮かんでいた。
「──さて、どうしてくれましょうかねぇ」




