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勤労の転移者ども ~努力すれども頑張れども、さりとて暮らしは楽にならず~  作者: ぺるでらほにてん
エールデランドへいらっしゃい──転移とジオード、そしてダンジョン
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至る軌跡・其の六──暗躍する者

 主要運搬坑道をしばらく奥に進むと、ゴツゴツとした岩肌が露出し始める箇所がちらほら見受けられるようになる。補強壁面の修繕が追いつかないほどに、ダンジョンの自己生成が活発な領域である。脈絡のない地質構造を生成保持する性質が、流れ盤状態を幸いにも免れて安定しているからこそ自壊せずにいるわけだが、甘えて岩盤の点検や観測の周期を緩くするなどあろうはずもない。だから壁面に注意を向ける行動は、坑道作業者であれば自然なことだった。計画業務から外れた場所であっても目を向けてしまうのは作業者の性と言って良い。

 見つめる先は壁であって、観察する人ではない。

 しかし、それを理解しているサコギでも、普段持ち歩かぬ長物を肩に下げたままの坑内徘徊に、緊張するなとは無理な話だった。

「大胆にも程があるわよ」

 指定された場所は幅が広く高さもある、見通しの良い主要運搬行動沿いの壁面である。しかも、それほども視線を巡らせるまでもなく坑道入り口が、二〇〇は離れているだろうが、目と鼻の先と言って良い距離に見えるのだ。

「本当に、こんなところでやらかすの?」

 ふと入り口方向から補強を順次進める作業者の姿に目をやった。壁にペグを、腰の高さあたりで打ち付けているのはなんの目的だろうか。安全帯をつなぐ親綱固定にしては低く思える。

「日取りと時間」マヌエルは言いつつ、壁面に空けられた調査孔の保護剤を外す。「鉱床分布から、ここをおいて他にないとのことだ。掘削孔に二メートル以上押し込むよう指示がある」

 サコギは肩から皮筒を下ろし、神具を抜き払った。ペグにしては大きく、なにかしらの道具と言い張ろうにも、羽か鱗を思わせる派手な装飾が邪魔をする。この見た目にも理由があるのだと信じたいところだ。「──ただの趣味なら殴ってあげたいわ」

「姿が隠れてしまうのだからどうでもいいだろう。孔に配置してしまえば神具が──」

 マヌエルの言葉が終わるのを待たずに、サコギは神具を削孔(さくこう)に、力任せに投げ込む。予想していたよりも深く掘られていたのか、突き当たりにぶつかる音は無かった。

「二メートル程度で安心できるものですか。それで、始まるのはすぐ?」

「道の生成程度であれば小一時間で兆候が見られるらしい。今回は、転移条件誘導に特化させた都合で一〇日以上はかかるとのことだ」

 訊いたのはこちらだが、へぇ、としか返せない。見上げると、首をほぼ真上にまで傾けてようやく彼方に天井が見える。もしここが崩れでもしたら、奥地や他階層への影響はどれほどのものになるのか。「立場じゃあ、ない……か。捜査の手は」

 との問いかけは、マヌエルが立てた人差し指で制された。見れば補強工事の作業者がすぐそばにまで迫っている。壁面表面に浮かんで波を描きながら進む光球は、表面の剥離(浮石)などを確認する打診判定だ。その挙動を見ながら作業者は噴霧器で簡易指示を描く。それ自体は見慣れたものだったが、続いてのペグの打ち込みがよくわからない。

「ちょっと教えて」興味が勝るサコギが問いかけた。「そのペグと親綱は、なに?」

「近いうちに観光客を入れるらしいですよ」応えるのは、打診判定を壁に走り書きする作業者だ。壁にペグを固定する作業者は無言で、大きなコンパスのような機器を手に業務を続ける。「壁に直接触れさせないための柵の役割です。ダンジョンの自浄作用確認の目的もありますね。最近、ちょっと無視できないくらいの産出量変動が見られたようで」

「気になるわね……ああ、邪魔しちゃってごめんなさいね。ありがとう」

 こんな代わり映えのしない光景など、代金を払ってまで見たいものなのだろうか。サコギは顎に手を当て首を傾げつつ、坑道中央付近まで足を運び「なんの話をしてたっけ」と問う。

「ガルデあたりで見失わせることに成功したようだ。いずれにせよ、新規の支路生成が始まれば注意はここに集まるだろう」

ソアダ(うち)は中継されただけの被害者を貫くわよ」神具を仕込んだ壁面を一瞥すると、サコギの足は主要坑道の奥に向けられた。「仕事に戻りましょう。みんな待ってるはずだし」


 双王国ガルデ側のギルド(デルグ)に傘下企業の社員が訪れることは珍しく無い。まして人材支援を主業務とするウーゾ(クラン)所属社員となれば、ギルドに出向して業務に従事する者も多い。だからウーゾ所在地勤務のフェリクスはギルドの馴染みであった。

 デルグで勤務するベネディクトも当然、彼の姿は見慣れたものである。だからロクホウの活動を堂々と行なう彼には正直、呆れた感情を抱いていた。

「図太いなと思いますよ」

 喫煙所で隣り合い、ベネディクトがそちらも見ずに言えば、フェリクスはむしろ喉を鳴らして笑うのだった。

「これでも気配りには長けているからね」タバコの伸びた灰を、離れた灰皿目掛けて人差し指のひと弾きで飛ばす。「君も大概、大胆じゃあないか。おかげで、ことが起こる日をあやふやにできたよ。いつ、が見えないと明確な抑止行動に出られないのが公務員の弱点だからね」

「レッシナにダミー回した直後にダナーリーへの踏み込みが入りました」ベネディクトの指先にあるタバコが足元に灰を落とす。それを踏んで散らせると視線をフェリクスに向ける。「連中の火遊びに本腰を入れた、というには動きが機敏に見えますよ。転移誘導だと漏れてませんか」

「漏れていたとしても信じはしないだろうが──」

「──ああ、花火にはそれほども価値がないんですね」

 カマをかけたつもりだった。だがフェリクスは珍しくも表情を失い、すぐに自身でその頬をぱしんと叩いた。「いや、失礼。見くびっていたつもりはなかった」と笑う。

「君の言うとおりだ。実験のなんらかの成功はあってほしいが、無かろうが、なにかを仕出かそうとしたとの証拠が洞窟城に残れば、それで構わない」

 やっぱりか。ベネディクトはタバコを灰皿に投げやった。灰皿の水に火種が、音を立てて消える。「目的は、訊いても仕方ないんでしょうね」

「洞窟城領が緩衝国家だとは知っているだろう?」フェリクスは胸元から葉巻を一本取り出すと、シガーカッターで両端を切り、ベネディクトに差し出した。「仮想敵ではあるが友好でありたい連邦に、駐留認可という餌を与えたいらしい。得られる報奨は知らん」

 葉巻を受け取ると、マッチの火で先端に焦げ目を作りながら「そんなんでよく危ない橋を渡りますね」と呆れ顔を向ける。「……従わざるを得ない相手ってやつですか」

「理解者を得られるのはありがたいよ」フェリクスは、ベネディクトが葉巻を口に運ぶのを満足げに見つめ、その場にかがみ込んだ。「今回はおおごとだ。そういった意味では、いくらコウモリの私でも迷いがあったよ。だが、君がうまく流通を隠匿してくれたから、打てる手が増えた。本当に感謝している」

 ──感謝、ねぇ。

 葉巻の甘さに「嫌いじゃあない」と呟きつつ、フェリクスの正面に回る。

「失敗作とやらが手元にあるんですよ。アレの詳細はご存知で?」

「手放していなかったのか──悪いことは言わない。とっとと流してしまいなさい。アレは転移誘導だけを取り出す目的で開発されたらしい危険物だ。あまりに簡素に過ぎる起動条件だから、あとで注意喚起として書面を回す。だが自分で扱おうとはするな。絶対にだ」

 言い終えるとフェリクスは立ち上がり、喫煙室から出ていった。

 となれば、長居しているベネディクトも退室しなければならないだろう。

「ダリオさんがうるさいからな」

 葉巻を恨めしく見つめ、捨てる勇気も出ず、ベネディクトは吸い続ける。

 ダリオが怒鳴り込んで来たのは、二〇分後のことだった。

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