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勤労の転移者ども ~努力すれども頑張れども、さりとて暮らしは楽にならず~  作者: ぺるでらほにてん
エールデランドへいらっしゃい──転移とジオード、そしてダンジョン
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潜んでいた者・其の四──余命宣告

「双方向通信は可能だと常々思ってはいました。ですが突然が過ぎます」取り乱していた態度を深呼吸で改め、口調を整えてダフニーは問い返した。「これまでの不便さを解消させたきっかけは、なんだったのですか」

 どちらかと言えば、全二重通信を阻害していた要因はなんだったのかを知りたいところであるのだが、続くアルヴォの言葉はダフニーを満足させるものからは程遠かった。

【なに、コウイチとエルノのお手柄でね。ちょいと見苦しい回路になったから、商品化には再設計が必要だよ。詳細は戻ってから詳しく教えるから】

 ──あ、これ、持ち帰られて結局、うやむやにされるパターンだ。

 ダフニーは唇を尖らせる。魔法具などの設計開発部門の無いソアダに就職してしまったのがそもそもの誤りだったのだ。それは重々に承知しており後悔もひとしおである。魔力を用いた機材に触れるせめてもの機会を求めたから、鉱業部門に在籍しているのだ。

 しかしソアダは、近年の作業依頼の減少に伴い基本業務を食材流通業に注力すると、内外に向け宣言してしまった。飲食店経営比率を拡大するとともに、一般向け販売に基幹事業を段階的に移行するのだという。

 そして、いくつかの部門を廃止するとの告知はすでに、ダフニーの元にも回覧されている。遠回しではあるが、身の振り方を決めろとの社命だろう。

 ──だったらいっそ、レッシナに異動しようかなぁ。

 筆記具の尻で頬を描きつつ、あらぬ方向を見上げて静かに吐息を漏らす。

 と、そこへ、

【ああ、ダフニーさんにコウイチからの伝言があるぞ】

 などと言われても、いちど腐った感情は切り替えられるものでもなく「なんですか」と応えた口調は険を含む。

【再設計は、全二重通信を形にした私と君の両名が中心となること、だそうだ】

「……へ?」

【君を開発に引き込め、とのコウイチの言葉だ。嘆願書も準備すると言っている】

「あたしが、開発」理解と把握がしばし乖離した。意味として解釈が成り、ようやくダフニーの満面に笑顔が浮かぶ。「えっ? は? ほんと? ほんとにほんとっ?」

【ああ、私も口添えする。チェスターに話を通しておきたいところだが──】

 胸の前で手を組むダフニーは坑内の天井を仰ぎ見て、コウイチへの感謝に頬を紅潮させ、

【──未来の話はここまでとして、現状の外部(そちらの)情報を教えてもらえるかな】

 瞬時に蒼白となった。冷水を浴びせられた気分とは、このことだ。

 ──そうだ……救出作業は、もう。

 ふと逸らす視線の先に、近づいてくる作業員たちの姿がある。すでにテーブルの向かい側で待機してこちらを観察している者もいた。これだけ派手に通信機の前ではしゃいでいたのだから、興味を持たれるのも当然だろう。そして相手が坑内のアルヴォと知ると、気まずさに誰もが沈黙する。

 浴びる注目の理由を察して、ダフニーは意を決した。

「──ソアダ作業員の過半数が、安全衛生基準の規定四日を超過しました」

 作業員たちが驚いたのは、相互通信が成り立っていたことだ。そしてダフニーの言葉に口をつぐむ。言葉を継ごうとする者もいたが、周囲に制されるか自ら飲み込んで静寂を選択する。

【引き継ぎは、無いのか】

「今回の事故を受けて洞窟城は、情報と人的流動を制限しました。新規人員を外部から招集できないのが現状です。残留は私、サコギそしてマヌエルと他四名を予定していますが」

【作業継続できない状況が、あると】

「はい」言葉を澱ませてはいけない。毅然とした態度を続けなければならない。「支路を封鎖した魔力結晶は、腐食性を持つ有機過酸化物に類した物質への転化を始めています。自己発熱分解に加えて爆燃性混合気の発生兆候も確認されました。二次災害回避を目的とする撤収指示が下れば、次の進入は第五営業日以降、つまり七日後となります」

 見限る。そう宣告したも同然である。ダンジョンの特性を踏まえるのなら、余命告知も同義だ。一方的な伝達にならずに済むのは救いなのだろうか。

【そうか。よく伝えてくれた。感謝する。情報は以上か?】

「……残念ながら。未確定ですが、洞窟城領内に国家地方警察の武装戦力が投入されたとの情報が入りました。統制権移譲は時間の問題です。おそらく坑内の全業務凍結が指示されます」

 救出作業に関する情報が、ひとつとして提示できない。

 ダフニーを見守る作業員たちも、黙って項垂れるしか無い。

 沈黙が続く中、

「どうしたの。こんなところにたむろして」

 とのサコギの声が割り込んだ。ざわつく作業員たちが左右に分かれることで、ダフニーの視界に彼女の姿が通される。その隣にはマヌエルも並んでいた。

「──サコ姐さん」胸を撫で下ろしかけて、安堵して良いものか躊躇った。絶望的な情報を捲し立てた末に、あとはサコギに丸投げするのは、あまりに不誠実ではないか。「実は、内部との相互通信が確立して」

「相互? 会話ができるようになったってこと?」

【ここまでか。頃合いなんだろうな】

 近づくサコギとともに、ダフニーはアルヴォの声に視線を向け、そして怪訝に首を傾げた。その発言の意味と意図が見えなかった。「どういう──」

【支路内部の情報を更新する】アルヴォの高らかな声が響き渡った。【要救助者は()()。パーティ五名と監察のコウイチが一名。加えて()()()()()()だ。転移者は一〇代半ばの日本人女性。負傷は無し。健康状態は経過観察中。繰り返す。要救助者は転移者一名を追加した七名──】

 場がざわつく。ジオードが発生したとの状況から、転移者がいるだろうことは予想の範囲内ではある。だが、どうして、ここで、今、それを連絡してくるのか。

「どうして今まで黙って──っ?」

 呟くダフニーを押し退けたのはサコギだった。なによりも勝る驚きにそちらを見れば、サコギの横顔が形相を浮かべている。口元は震え、乱れた髪は泳ぎ、力が込められた体はひと回り大きく膨らんで見える。そんな彼女は通信機ににじり寄っていた。

「サコ姐さ──」

「他には」低く静かな声が、サコギの口から漏れる。「転移者の女性の特徴は?」

【──転移者は一〇代半ばの日本人女性で健康状態は経過観察中。全員が負傷なし。終了】

「アルヴォ!」

 ただならぬ様子のサコギの背を、総勢が固唾を飲んで見つめていた。彼女こそが、誰かしらの転移を初めから想定していたのではなかったか。これまで素知らぬ顔だったのに、なぜ。

「答えなさいっ、そこにいる娘の特徴を、もっと!」

 双方向通信であり、サコギの叫びも届いているだろうに、アルヴォからの回答は無かった。

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