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勤労の転移者ども ~努力すれども頑張れども、さりとて暮らしは楽にならず~  作者: ぺるでらほにてん
エールデランドへいらっしゃい──転移とジオード、そしてダンジョン
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潜んでいた者・其の一──相互通信

 床にガッチリと固定されている簡易通信機を、コウイチは淡い光を放つ魔力結晶の壁を背に、じっと見つめていた。革布に貼り付けられた水晶膜が、複数の支柱で広がり緩やかに湾曲している。その姿は簡易椅子そのものだ。水晶膜に刻まれるのは魔法回路で、魔力の流れなのだろう光の糸がスルスルと流れ続けていた。

 ペグを握る手が床を黒板がわりに、その回路の模写をする。コウイチにとって魔法は門外漢ではある。だがギルドの下請けという立場上、商品に触れることは多い。中でも通信機はクランの常備品でもあり、持ち出す機会も少なくはない。不具合対応も、マニュアル対応程度であれば経験済みだ。だが身近な代物だからゆえ、まじまじと眺める機会はこれまで無かった。

 つと視線を上げた先には、坑道の奥で就寝するビルギッタとヤミの姿があった。二人にはメンバー全員の代謝を停滞させて、鉱物転化を遅延させるという役割が控えている。明日以降は二人の体力がそのまま生命線となるのだ。

 隔離された密室に複数名が閉じ込められている状況だから、衛生管理は最優先事項である。加えての代謝に手を加えるという荒技が待ち構えているので、坑内湿度の浄水機構の稼働を含む環境清浄化の徹底に、つい先ほどまで全員が作業にあたっていた。

 そこには言葉の通じないヒタキも参加しており、それが良かったのだろう、見ればヒタキがカステヘルミと楽しそうに談笑している様子がある。互いに自国語で話しているようだが、なんだかんだで会話が成立しているらしい。二人で胸の前に両手を合わせ、上に突き上げる仕草はなんなのだろう。

 ──あ、にょっきか。

 

「コウイチは、何をしているのかな」

 その声に顔を上げると、アルヴォの巨体が近づいてくる。隣にはエルノも並んでいた。ビルギッタとヤミが不在、女子二人がきゃいきゃいとはしゃいでいる、となれば男子で集まるのも致し方ないことである。

「人手が足りて仕事も枯渇しましたからね。ダンジョンの自浄作用の人体分解があるから長期耐久も考慮外だし──アルヴォさん、レッシナで設計していますよね」

「いちからの設計はほとんど無いかなぁ」コウイチの問いかけにアルヴォは、床に描かれる回路を一瞥して肩をすくめた。「簡易通信機(それ)くらいなら、魔法式をブロック単位で組み替えたり入れ替えたりで納品するよ」

「時間もあることだし、ずっと気になっていたことを確認したいなと思って、回路を模写していたんですけれど、もっとわからなくなってしまったんですよ」と、コウイチは床の模写をペグで示す。「外部設置の通信機を親機、こっちを子機としますね。親機からの信号を受信した途端、子機が送信機能を失って受信のみになるじゃあないですか」

 コウイチの隣に座ったエルノが「ああ、それ僕も疑問でした」と同意する。「親機の送信か子機の受信に不具合があるまま使われ続けているんじゃあないかなって。と言っても物が魔法の利器だから、そんなものだと言われたらそれまでなんですけれども」

「アルヴォさん、これ回路図と思っていいんですよね?」

「目に見える形にしないと扱えないから、電気を使うソレと約束事は変わらないよ。物理法則に準ずる部分だけ、という制限はあるけれどね」アルヴォが、コウイチとエルノの正面に腰を下ろす。根が指導員や教師のアルヴォであるからか、その雰囲気にコウイチたちも自然と教えを乞う姿勢となる。「魔法で生じた結果も、この世界では物理法則のひとつに数えられるけれどそこは目を瞑ってくれ」

 ──魔法が物理法則と言われてもね。

 コウイチは素直に聞かなかったことにして、質問を続ける。

「じゃあ、ここはどういうことなのかなと」

 模写に触れないようにペグで円で囲う。するとエルノが「なんか、同じ回路が二つ並んでるようにしか見えませんね、これ」と望んでいた言葉を口にしてくれた。

「そうなんだよ。稼働中の魔力の光追いかけても、片方しか使ってないっぽいなと」言いつつペグの先で通信機を指す。「同じ回路が二基掛けされてますよね。二局と言ったほうがいいのかな。もしかして送受信一局で済むところを、送信に一局、受信に一局使っていませんか」

 言われて気づいたのだろう。アルヴォは模写を眺め、コウイチの手からペグを受け取ると修正を入れてから、次いで実機に目をやり「本当だな」と自身の顎をさすり眉を顰める。

「受信するはずの一局目の回路を使っていない。二局目に切り替わっているのか」

「知らなかったんですか」

「不具合が無ければ、あらためて眺めることなんて無いからな」

「それで──なんとなくですが、回路の大半がハブかルータ機能のように思えるんですよ」

「言いたいことがわかってきたぞ」腰を上げたアルヴォが、コウイチから受け取ったままのペグで、やや離れた床を引っ掻き始める。「こっちに親機の送信回路を書いてみる」

 エルノも腰を上げて実機に顔を寄せ、魔力の流れを指で追いかけはじめる。

「コウイチさんの言う通りですね。ここからここ、まるまる同じっぽい」

「無線のつもりで眺めると嵌められるな……エルノくん、流れが途中で消える場所が二箇所あるはずだから、その部分と同じ回路の場所探してくれる?」

「書けたぞ」アルヴォの嬉々とした呼びかけが、エルノの返事を遮った。「通信は子機が発信電源を回して、一局目に返信するから」言いつつ、ずるずると直線を引っ張ってコウイチの模写に繋ぎ、直後に「──あ」と固まる。

 コウイチも、つなげられた箇所から指で回路を追いかけ「あ、じゃないですよ」と顔を引き攣らせてしまう。「これじゃあ、親機が送信した途端に子機でループしますよね。局ひとつ帯域占有して通信不能になったから、親機が自分の電源(魔力)使って別局に切り替え送信しているんじゃあないですか」

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