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勤労の転移者ども ~努力すれども頑張れども、さりとて暮らしは楽にならず~  作者: ぺるでらほにてん
エールデランドへいらっしゃい──転移とジオード、そしてダンジョン
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恩恵に与る立場・其の七──遊戯

「あんたが軽はずみにばら撒いた神具のせいで、なにが起きたか理解してないのっ?」

 カルラの振り下ろす剣は、トヨフツが逆手に構えた刀の(しのぎ)に滑らされた。次の挙動につなげるため軸足を切り替えるのだが、体が剣に引かれて()()()を踏み、トヨフツの背後にまで移動してしまう。

 ──まただ。また、吸い込まれた。

 地を蹴り前方に飛び出して、彼の間合いから離れ振り返り、構えを整える。だが正面にある彼の姿は、刀をだらりと下ろして半身だけをこちらに向けるという、あまりに不用心なものだった。

お前こそ(いちゃけなが)理解していない(ごたむいとれん)ようだが(けどもぉ)、神は是()

「気取るだけならまだしも──」正面に剣を構え、柄を順手と逆手で握る。踏み出すと同時に順手側の拳を突き出して跳ね上げた剣は、トヨフツの脇に向かう。「自尊するのか!」

 だが彼の刀が乱雑にも見える挙動で下ろされ、鎬を中腹から(つば)まで広く使って回転する。剣の動きはそのまま傍へと移動する力に置き換えられた。と、同時に刃がカルラの肩口、その僅か上の虚空を貫く。

 頬のすぐ横に静止する刀の腹に、カルラは表情を失った。

 ふむ、とトヨフツは刀を上に振り上げるようにして肩に担ぎ、顎を撫でつつ言った。

代われとうるさい(ちゃべながあぐるしぃ)から(さけ)、ヒメに任せ(んぞ)

「なにを言って──?」

 ぐい、とトヨフツは一礼するように頭を落とす。直後には爪先どうしが擦り合うほどに距離が詰められた。反射的に重心を外に移動させたのは失敗だった。そう後悔した刹那、

 姿形が、()から()()へと変化していた。

「尊ばれてこその神ねんわ」

 幼いながらも妖艶な印象を与えてくる少女の顔が、鼻先に上げられた。その背丈はカルラの肩ほども無い。なのに自身の背丈半分にも届くだろう刀を軽々と振り回し、その(つば)でこちらの剣を、カルラの両手から弾き落とす。

「ヒメと呼んだって。獲物、そそと拾わんとかんよ?」華奢な体を包む長着を細帯で締め、腰には丈を切り詰めキュロットのようにした袴を穿き、足元は黒足袋に草履。烏の濡れ羽色の髪は長く、毛先は綺麗に整えられている。そんな可憐な容姿の彼女は、刀を片手に下げたまま、鞘を左手で腰から抜いた。「でないと、こうなれん」

 カルラは浮遊感に慌てた。ヒメの、軽い挙動で差し出した鞘が、カルラの腿の裏を掬い上げて、その場で宙転させたのだ。咄嗟に受け身を取り半身を起こそうとする、その眼前に剣の柄が()()と突きつけられる。

「もう一合、きまっし」

 ──馬鹿にして!

 舐められている、その事実に顔を赤く染めたカルラは、差し出された柄を、握ると同時にそのまま突き出した。だが、それもヒメの刀に軌道を逸らされ、トヨフツのときと同様に吸い込まれて、肘から地面に投げ出されてしまう。

 こちらの力をただ滑らせて逃している、それだけのはずなのに、彼女らの刀に触れると、誘導されるがままに姿勢を崩してしまう。腹立たしかった。だから、自分が吠えていることに気づけず、出鱈目に剣を振り回し始めた自覚も無かった。

「あー……かいしょんなくなってしもとる」

 横凪に迫る剣を(こうべ)()れるように深くかがみ込んで避け、鞘の先でカルラの足を開かせる。崩れる姿勢のとどめに、刀背(むね)で彼女を背から地面に組み伏せた。

「今日はここまで。次、また相手してあげるから、腕あげとき」

 睨み返してくるカルラは、しかし体から力を抜いた。確認したヒメが彼女の拘束を解き、離れようと身を起こして跨ごうとする。ヒメの視線がカルラから逸れる。

 それを待っていたカルラが、剣をヒメの膝目掛けて振り回した。

「──見え見え」視線だけを、ぎょろ、とカルラに下ろしたヒメが肘を上げる。

 と、同時にユキヒトが、二人の間に割って入った。ヒメを背負うように、彼女の握る柄を上から押して、回り込んでくるカルラの剣の腹を鎬に()()る。そのまま刀の刃を背後に回すと、剣の軌道がユキヒトとヒメの背後に逸らされ、カルラの手からすっぽ抜けた。

「やめておけ!」息荒くカルラに一喝すると、ユキヒトは背にあるヒメに「失礼」と一言添えた。彼女の手を包んでもろともに握る柄から、指を外すのに反対の手を必要とした。震え、こわばっていたからだ。「情けない様を晒して、申し訳ない」

「なぁも?」ヒメはニマと笑みを浮かべ、自由になった刀を鞘に納めてからユキヒトの二の腕を撫で、言った。「師はサコギやろ。いい線いっとるじ?」

「……え?」

 ヒメの口から出てきた名にカルラは唖然と、表情を失った。

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