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勤労の転移者ども ~努力すれども頑張れども、さりとて暮らしは楽にならず~  作者: ぺるでらほにてん
エールデランドへいらっしゃい──転移とジオード、そしてダンジョン
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意図せぬ虚偽、向ける懐疑・其の一一──互いの役割

 イーヌォに付き従うメイドたちに加えて男性がひとり。立ち振る舞いや着こなすフォーマルウェア、そして落ち着いた壮年たる面持ちから、誰もの印象に執事と残るのは致し方ないところではある。それはしかし見た目だけのものとヨウアン一家だけは知っているのである。

 彼の業務には確かにイーヌォの教育も含まれているが、まさか領主家の資産管理や人事権など持ち合わせてなどはいない。ましてメイドたちを率いているわけでは全くもって、無い。謂わば家事労働者でしかなく、その格好はコスプレであった。

 とはいえ素養はあったようで、知らぬ間にメイドたちを促し、場の全員の紅茶を、席を外していた者がいただなどと誰一人気づかせないままに準備しているのはさすがである。

 そんな彼からソーサーごとカップを受け取ったカリルトは、膝の上に支えたままツグミに向けて言った。「いずれにせよ、発注すら自社自給で賄おうとしたソアダが、ギルドやティアハイムに協力を求めない以上、新たな情報は得られない。動いたのもダリオだけだったしな」

「えっと、彼、なにをしたんです?」チェスターは戸惑っていた。なんだかもうお役御免のようだから帰りたい、との思いをその顔にまざまざと浮かべているのだが、紅茶を差し出されてしまったのだ。人数に勘定されているとは思いもよらない彼であるから、受け取った以上は腰を上げられなくなってしまったのである。「伝達係だったとか?」

「残念なことに」ちらとチェスターに目線を上げたカリルトは、小さな首の動きで彼の言葉を否定する。「──本当に残念な話でしかないのだが、やらかしをどうにかして現場で隠滅したかっただけのようだ。サコギたちは接触して早々、彼を自治体警察に押し付けている」

「お仲間ではなかったとなると」タカシが片手を上げると、それだけでメイドの一人が砂糖とミルクを差し出してくる。指の動きで砂糖を二つ、ミルクは少しと注文しつつ、顔はヴェンデルへと向ける。「連中がソアダにしかいないか、身内すら味方と見做(みな)していないってことに」

「なるな」ソファーセットを隔てた向かい側の壁から、ヴェンデルが同意した。「逆にしんどいことになったな。なにかしら動いてくれたら話は早いが」

「動かんよ。動けん、と言った方が良いかな」

 断定である。だから誰もが顔を見合わせ、「なぜ」との問いを顔に示した。

「ダリオに情報を与えた」顔を領主親子へと向けるのは、黙っていたことに少なからず気が咎めていた部分があったからだ。「洞窟城領と双王国を結ぶ主幹道路、そこに現在、メッゼリとアリュヤ双方の領国に協力を得た国家地方警察の検問が配置されています」

 そして予想通り、二人の顔は焦燥に染め上げられた。

「二つの領境と密接する洞窟城領区画内にて、かの連中が暴動を起こしたことで鎮圧の口実を得た国家地方警察は広域封鎖を宣言、言論統制を開始。複数名の首謀者が拘禁されたのは今朝方のことです」

「どこまでが真実だ」ムーチェンが感情を、口元を震わせる程度で抑えられているのは、あまりの出来事に思考が追いつかないからである。隣接する二つの領国が王室主導のもとで洞窟城領への行き来を制限しているのだ。その情報が領主の元に届けられず、いち企業でしかないギルドの知るところにある。これは異常事態だった。「昨日から先ほどまでの間に発注した資材は滞りなく納品され続けているのだぞ。この機に乗じた一部報道が暴走したとの情報すらある。まさかこれらも虚報だと言うのか」

 その言葉に返すのはヴェンデルだ。「情報戦は国家地方警察のお家芸ですからね。ただ、エーデルトラウト様ならやりかねないとは思うが──」

「ちょっと怪しいね」タカシが言葉を継ぐ。「むしろこのやり口はユキヒトっぽいか」

「だろうな」カリルトは同意しつつ、苦笑を漏らす。「彼の容赦の無さはよく知っている」

 ヴェンデルは天を仰ぎ、目線だけをタカシに向けた。コウイチが事故に巻き込まれたと知って取る物も取り敢えず現場に駆け出した彼を目の当たりにしたヴェンデルであるから、もう一人の親友のありようにはどうにも釈然としないものがある。

「あいつ、コウイチくんをダシにすることに躊躇はないのか」

「無いね」コウイチこそが、この状況をなぜ利用しないのか、と不機嫌になるだろうことをタカシは知っていた。そんなコウイチを誰よりも理解しているのがユキヒトである。「あの馬鹿どもは我慢ならないことに、俺が心配するからやめよう、なんてムカつくことを言うんだよ」

「お前、よく親友続けてられるな」

「あの、いいですか」チェスターがおずおずと手を挙げる。「今すぐにでもソアダ(うち)に業務停止指示を出して該当者を拘束したら良いのではないですか?」

「それができたら苦労はせんのだよ」苦々しく言い放ち、カリルトは膝の上に両肘をつき、組んだ両手に口元を当てた。「内部の何かしらの挙動で、外部にどのような無体が発生するのかわからんのだ。あいつらは愉快犯そのものだからな、身を潜ませるのならまだ良いが、なにをしでかすやら皆目見当もつかない。だから私は、国家地方警察が洞窟城領の統制権を掌握するまで動くつもりは無かった。領主殿を前に言うことでは無いがね」

 いや、言っても構わないからそれは協議が終わったすぐにでも聞かせて欲しかった。とは口にせず、ヨウアンの頭が抱えられた。「──カリルト、ひとつ訊きたい」

「なんなりと」

「もうひとつ記載されていたディードとやらは、ジオード発生を示唆していたりはしないか。わざわざ余剰重量の裏に書かれていたのだろう」

「注意を引かなければ回収も成りませんから、サコギの──許されざることですが秘匿名が記載されていただけだと考えていました。だいたいバーサーカー(オルソン)みたいなやつ(マヌエル)を側に従えているのだから百歩譲ってシーリスじゃないかと「あ、それボクが許しません」そうだな失言だ、許せ。しかし確かに、人ひとり分の重量とも取れるか」

「サコギは初めから、転移者だと断言していたな」とヴェンデル。

「すると」ツグミが、テーブルの上の書類を整頓しつつ、シンイーに顔を向ける。「サコ姐さんの手段にはコウイチたちの救出も含まれてると見て良さげっぽいから、シンイーちゃんは、いいと言うまで堪えてね。道具を回収しておきながら即座に撤退しない理由として、転移者の確保は納得だし、転移者を誘発する技術はある、として動いたほうがよさそうだ」

 ムーチェンは「よし」と自身に喝を入れ、姿勢を正す。「しばらくは忙しくなりそうだ。外交でできることはやらねばならんだろう。父さんは」

「心得ている。ムーチェンは騎士たちの統率にあたれ。私はルシュの連中と話してくる」

 各々は、そして動き出した。

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