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勤労の転移者ども ~努力すれども頑張れども、さりとて暮らしは楽にならず~  作者: ぺるでらほにてん
エールデランドへいらっしゃい──転移とジオード、そしてダンジョン
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意図せぬ虚偽、向ける懐疑・其の一〇──不正の海原

 ヨウアンのため息は幾度のものだろうか。吐き出す数と同数の問題が解消や改善してくれたならと切に願うばかりであるが、くたびれた長髪の強度が脆くなりゆくのみが現実である。やうやう薄くなりゆく生え際。少し光りて、ひはづなる髪の細くたなびきたる。

「──やはり、ばっさりやるか」

 ──抜け駆けだと!

 聞き取れてしまったらしいムーチェンの衝撃は、見て見ぬふりが最適であろう。

 前髪を撫でつけて気持ちを切り替え、ヨウアンが手を伸ばすのは机の上に立てられていた用箋挟(クリップボード)だ。束ねられているのは、支路発生前後より現在に至るまでの業務工程表である。確認すると確かに、ソアダが途切れなくなにかしら関与していることが見てとれるが、そもそもが常駐しているようなものだ。疑うのはいささか無理がある。

「そこまでわかっていて、なぜ要注意人物として報告しない」

「お気づきでしょうが」カリルトは、領主親子のそこはかとなくこの場にそぐわない鍔迫り合いのような緊迫感に眉を顰めつつも応えた。「疑う理由としては弱い。二人は業務遂行の要でもありますし、言いがかりのような容疑で拘束してしまえば現場が混乱することは疑いない。なにより核心は無かった。正直、彼女たちに工程表などを与えるティアハイムこそを疑うべきでは無いかとも」

「すると」情報を脳裏で整頓していたムーチェンが顔を上げた。「両者の接触は双方の意図であってほしくはあるな。ギルドからの指示は免罪符になりうる」

「指示が降りてこなきゃ、そら動きませんて」両手を広げて白々しく微笑するツグミ、を、シンイーが光の失せたアンバー色の双眸で射抜く。「働け」「働いてるってば」

「サコギが」ヨウアンは二人のじゃれあいに被せるように問う。「主犯でない可能性は」

「先ほどサコギがペグ、と呼ぶには装飾過剰で長大にすぎる部材を回収したとの情報がはいり、その線は切れました。伝言で回収を指示されていたのでしょう。《ウッド》は、とある作品の登場人物で、キーアイテムを奪う役割でしたから」


「奪ってないですよ」


 タカシの言葉は善意からである。当然のことだ。

 だが余計な発言であった。

「むかーし観たのは、奪ったって言うより、ふよふよ近づいてきたサークレットの支配にあっけなく洗脳された内容だったかと」

 本当に、心底、余計でしかなかった。

 カリルトの驚愕は如何程(どれほど)のものであったのか。わなわなと身を震わせ、ゆらりと腰を上げて、引きずる足取りで向かう先は、タカシのもとだ。

「──なんだと?」

「ああ、そうか。そうだわ」タカシと同じく記憶を遡っていたツグミが、左手のひらの上に右拳をポンと下ろす。「カリルト部長が転移してきたの、アニメが出る前ですよね。部長が言ってるのは小説版で、タカシくんのはアニメです」

《盗賊の技能をもって支配から敵を解放する最大の見せ場だぞ》

「カリルトさん、日本語になってます。落ち着いて」

《しかも自らの選択でなく、支配されただと?》

《いや、俺が生まれる前のアニメですから言われても困りますって》

「カリルトさんカリルトさん」

 ツグミは、どうどう、とカリルトの背を叩き、落ち着かせる声音で優しく言い聞かせる。

「──本当にいいとこ無くされちゃってました」

《リプレイならともかくアニメでなぜ変えたぁ!》

 憤懣やるかたない感情そのままに荒れ狂うカリルトがここに爆誕する。

《ツグさんアンタほんと鬼やな》

《ボクらしか知らないネタをバラしちゃったのタカシくんじゃん。だからつい》


 カリルトが息も絶え絶えに遠くで(くずお)れる(さま)は、ヨウアンたちに「なにを見せられているんだ我々は」と思わせるに充分である。

「……不正を語るよりも憤りが激しいのはどういう了見だ」とはヨウアン。

「転移者ですからね」返すのはムーチェンだ。

「それで」ヴェンデルが、何事もなかったかのように振る舞うその姿は、付いていけない者たちにとって癒しだった。「サコギの回収品は、もちろん持ち込み申請審査されているんだろうな?」

「されてるわけないじゃん」ツグミが、心外なことをおっしゃるとばかりに呆れ口調を返す。「見積書も納品書も計上原価も、なにもかもが一致していないままに業務が続いていることから、洞窟城領内になにを持ち込もうが素通りだってわかるでしょうに」

「いやまあそうなのだろうなとは察していたが、なぜ俺が責められるような構図になるんだ。ムーチェンさん、この状況の把握は」

「……しているさ。鉱床発掘資源はさすがに管理できているが、業務資材はなんら確認されていないも同義だ、ともね」

「先行回覧されているリストと──」

 ふらふら近づいてくるカリルトに、それまで黙ってムーチェンの席に座っていたイーヌォが「あ、復活した」と誰に伝えるでもなく呟く。

「おかげさまで」カリルトは非礼を頭を下げて詫びてから、言葉を続けた。「リストと、発送されてきた物品の受領内容は『合致していないもの』と、我々のみならず侵入審査の場でもまかり通る認識です。なにせ資材に添付された納品書すらあてになりませんから」

 ヴェンデルも他人事ながら、あまりの惨状に青褪めてしまう。採掘権をごっそり奪われた歴史は伊達ではなかったということだろう。「他国の固定資産も混在する洞窟城内で、よくぞここまでの無法を極めたな……ぜひ外部監査人に立候補したい。点数稼ぎにもってこいだ」

「ぜひ、やめてくれ」両手で顔を覆うヨウアンが切に願う。「なにか一つでも表沙汰になろうものなら、軽く見積もっても外交問題待ったなしだ」

「まあ、ちょっとは改善するけど」言いつつツグミは、ソファーに挟まれたローテーブルに積まれている書面を束にして持ち上げる。「部長、どれだけ償却し(焼かれ)ました?」

「売却もあるから、そこまで深刻になることはなさそうだ」

 急ぎの仕事は無いと言ったはずのツグミと、現場から遠ざけていたはずのカリルトが交わす会話が明確に仕事であることに、一同それぞれの口調の「働いていたのか」との言葉がツグミにのみ突き立てられてゆく。

「いや、働いてるってば。洞窟城がまるごと封鎖されるなんて機会、逃す手はないし。お国を問わず持ち込まれていた業務用資材の棚卸を強行してたよ。これで作業場の資産管理の土壌が整えられたわけだし、あとは納品書面と受領資材に合致していない品目を持ち込み禁止にするだけ」

 ヴェンデルが「儲け損ねたか」と肩をすくめるが、さほども残念そうでは無い。

「いや」しかしカリルトが首を横に振った。「そもそもティアハイムが差し戻した初回見積書を正式書面として回覧する許可を下したのは私だ。全ては業務委託依頼の遅延からのもので、その負荷をティアハイムに押し付けている実情に気づいてすらいなかった。このギルドの怠慢をどうにかしなければ元の木阿弥になるだろう」

「ダリオの言葉を鵜呑みにするから」

「数日中にビルギッタたちの納品書へと差し替えられることを期待した、というのは言い訳にもならないな。せめてティアハイムが改訂した発注書を回覧すべきだった」

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