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勤労の転移者ども ~努力すれども頑張れども、さりとて暮らしは楽にならず~  作者: ぺるでらほにてん
エールデランドへいらっしゃい──転移とジオード、そしてダンジョン
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意図せぬ虚偽、向ける懐疑・其の九──疑い

 出張所内部の第二会議室が領主親子の勤務部屋であることは既に述べた。主要目的が会議であるから、これまで多少の緩みはあれど羽目を外すような雰囲気など漂うことはなかっただろうし、領国支配者の統べる空間とならばなおのことだろうことは、想像に難く無い。

 であるから護衛の騎士数名と、姫のお付きの執事やメイドたちを含む、カリルトとツグミを取り囲む面々が(かも)気不味(きまず)すぎる空気は、第二会議室に意志があらば「勘弁してくれ」とうんざりしたことだろう。(なだ)める者がこの場にいないことは悲しいことだ。

「日本語が読めることを隠していたわけでは無い」はしゃぎすぎたことを恥じるカリルトの顔は未だ紅い。言葉遣いも、気をつけてはいるのだろうが早口である。「だが知られていない方が都合は良かった。それは事実だ。だいたい私はスペイン語など全く理解できない、日本出身の日本育ちだ。両親はスペイン出身だが」

 ひとり自然体(マイペース)極まるツグミは、ニマニマと笑みを浮かべながら肩をすくめる。ソファーセットの片側に腰を下ろすカリルトの背のあたりに位置して、背もたれに両手をついて放つ言葉は鷹揚だ。「察してはいたんですよ。所作の節々に日本人が見え隠れしてましたもん」

 だったらそう言えよ。と考えたのはカリルト個人のみであった。あれほど見事に本性を暴かれてしまえば、他の誰がカリルトを観念させられようか。

「では」赤毛代表チェスターは、カリルトの正面から身を乗り出さざるを得ない。なにせカリルトがスペイン出身であると彼は、サコギから聞かされていたのだ。「サコギさんが時折、日本語で毒づいていた言葉も全て」

「絶対に明かしてやるものかと決意したね。当然、理解できていたよ」

「それで」咳払いで注意を引いた上でヨウアンが、口を挟む。その表情にはどうにも釈然としないとの感情がありありと浮かんでいた。状況が読み取れきれずにいるからだ。「その裏紙になにかしらの文字があったとて、ティアハイムの現場入りできない理由となるのはなぜか」

 応えるのはツグミだ。「洞窟城の庁舎に工事計画書と共に回覧された見積書に、ソアダへの伝言が含まれていたんですよ。本来ならこれほど露骨なものでなくてもペケ印で構わないとは思うんですけれどね。どうも仕込んだ輩は、余計な知恵を回したらしい」

「ソアダに、連中が?」ムーチェンに視線を向けるが、彼も首を横に振るだけだ。「先の話から想像するに、カリルト、君は大会議室入りする前にはそれに気づいていたと?」

「──崩落事故に関しては忠告差し上げては、いたのですよ」カリルトは、膝の上で組んだ手を何度も組み替えつつ、横目でヨウアンを見つめる。読み取れる感情は非難、によく似た遺憾のようななにか。「ひとつ、路床形成に第三者の意志の介入があり、その情報が自治体警察の耳に入っているか。ふたつ、今回の崩落事故で閉じ込められた被害者の救出協力、それ自体がなんらかの悪意に加担することになりはしないか。そう確認したつもりでした」

 暫時(しばし)の間、ヨウアンとムーチェンは疑問に顔を見合わせ「あ」とふたり声を挙げた。大会議室での、あの要領を得ないカリルトの言葉は、そんな意味に取れなくも無い。

「いや、わかりませんて」タカシが片手を何度も振り、理解不能を明言するのは当然だろう。あの状況下のあの文脈でそれを理解できたなら、もはやそれは読心術だ。

 ヴェンデルも同様に「明言を避けたかったのだろうことはわかるが、業務拒否の意図しか伝わってこなかったぞあれは」と頭を掻きむしる。

 加えてシンイーですらも無表情に言うのだ。「迂遠すぎる」

「わかっている」全方位からの攻撃に、カリルト自身も忸怩に耐えない、というか胃が締め付けられる思いだ。「慣れないことはするものじゃあないと痛感したよ」

 まったく、と毒づきながらヴェンデルが壁側に移動する。近くの壁は、領主親子の作業机の後ろか、カリルトが腰を下ろすソファーの背後となるから自然、カリルトの後ろにツグミと並んで立つこととなる。成人男性二人の圧に、正直、居心地が悪いカリルトである。

「第三者が意図した路床形成に関しては」腕組みして壁にもたれたヴェンデルは、ヨウアン領主に向けて言った。「ここが初めてでは無い。ダンジョンの拡張に指向性を持たせる実験だ。ダンジョンは確かに、神に類したアレらの気まぐれで与えられる恩恵ではある。だが、法の上では他人の土地に畑を作るのと変わらない。自分が与えたものだからと勝手に侵入して加工実験などやれば処罰を受ける、ということが連中、どうにも理解できないらしい。その実験で、強度不足による崩落や倒壊の事故も発生しているというのに、あの野郎ども、ひとしきり大喜びのどんちゃん騒ぎの末に蜘蛛の子を散らすように逃げやがる──案件に、国家地方警察は頭を悩ませていた」

「その情報はギルドも入手していました」カリルトも領主親子に向けて提言する。「作業員を派遣する立場としては関係者以外が、しかも愉快犯の類を現場に侵入させる事案に苦慮も出尽くしており、注視するしかなかった。そして本件ですが、支路生成が始まる以前から現在に至るまで、現場作業を継続し続けているのはソアダ、さらに言えばサコギとマヌエルだけ。加えてのソアダへの伝言となれば、疑うどころの騒ぎでは無い」

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