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勤労の転移者ども ~努力すれども頑張れども、さりとて暮らしは楽にならず~  作者: ぺるでらほにてん
エールデランドへいらっしゃい──転移とジオード、そしてダンジョン
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意図せぬ虚偽、向ける懐疑・其の八──切り札

「欠勤、ねぇ」

 ツグミの、ベネディクトに抱く印象は悪くない。空回りは目立つが一生懸命で、不備や失敗に向けても学ぼうとする意欲を失わない、そんな好青年であった。時折、その場しのぎの言葉が口をついて出てしまうのは、好まれようとする意識の強さゆえだろう。しかしそんな部分も「若いな」と温かい目で見守ることができたのである。

 仕事ぶりに不慣れな部分が目立ったが、最終形を示してやれば、途中経過も含めてしっかりこなしてみせる実力を有していた。ただ、逆に言うと、答えが提示されなければ、不明点をアレもこれもと抱え込んで足踏みを続けた挙句、立ち止まってしまうタイプでもあるのだ。

 だからダリオの下で働いていると聞かされた時は、長くないなと正直、思った。

「人様の職場のことに口を挟みたかないけど、潰すくらいならうち(ティアハイム)にくださいよ、彼」

「ただの休養だと言っただろう。それにダリオには再三の警告をしている」

 潰す、に対して即座に名前が出てくる時点で駄目ではなかろうか。

「こないだそちらに向かった時には、なんら変わってなさそうでしたけどね」

「ベネディクトにも、知識不足を埋めずに確認せず突き進む、悪い部分はあったのだ」

「『わからないことをそのままにするな』『何度でも訊きに来い』からの、『何度も言ったと思うが』『なにを今更のことを訊いているんだ』なんて怒声を浴びせられたら、理解できなくても自分の席に持ち帰って仕事を再開しますよ。萎縮した感情が強すぎて、座った途端に聞いたことを忘れますけどね。そうなりゃダリオに直せと言われた箇所はそのままに、今できそうないらんことを始めちゃっても仕方ないって、部長もおわかりでしょうに」

「待て……それは、いつだ?」

()()が受け取った見積書があんまりな出来だったから」手元で振られる書面こそが、まさにソレだ。「そちら(ギルド)に保管の仕様基準を再確認するついでに顔を見に行ったら、それでしたよ」

 カリルトは、頭痛を堪えるように左手を自らの額に押し当てる。「最近じゃあないか」盛大に息を吐き出すと、項垂れたまま言った。「私の落ち度だな。指摘に感謝する」

「実のところ勧誘してみたんですけどね、頼りなく笑うだけでしたよ。もう、たぶん無理ですわ。もし戻ってきたらうちへの異動、真面目に考えてください」

「了解した──まさか要件はベネディクトのことか?」

 黙ってことの成り行きを眺めていたムーチェンが、机の上の書面を確認する。「ティアハイムの追加発注書がまだのようだが」

「ああ、追加発注は無しで。崩落現場から遠ざけられてるボクら(ティアハイム)には、急ぎの業務なんてありゃしませんからね。ありもので充分な状況なんですよ」

「遠ざけられている?」書面から顔を上げ、ムーチェンは顔を顰めた。「ソアダと協力するよう指示が下されていただろう。カリルト、どういうことだ」

「要件はまさにそれでしてね」ツグミは見積書に視線を落とした。眺めるのは裏面だ。「裏をとりに足を運んだ次第でして──部長、そちらでは発注資料に裏紙を使う習慣が?」

 ぴくり、とカリルトの片眉が上がる。

「破棄が決まっている書類だからな。回覧書面としては、しかし、良くはない。注意しておこう」

「はあ、そうおっしゃる」

 ツグミの、へら、と笑うその様子にムーチェンとヨウアンは顔を見合わせた。業務遂行に支障が出ていることと、裏紙を使用した書面となんの関係があるのか。

「ところで部長?」わずかに声高に、かすかな笑いを含ませて、ツグミは問いかける。「チェスターくんの計算が間違っていると知ったのは、いつでした?」

「か、会議で使用される情報は、開始前に全て目を通すようにしている。裏の文字など気づきもしなかった。それがどうした」

「文字、なのか、それは」いつの間にかツグミの隣に並んでいたムーチェンが、彼の手元の裏面の文字に眉を顰める。「ペンの試し書きのようにしか見えないが」

 ムーチェンの感想に、カリルトがわかりやすく凍りつく。

()()、なんすよ。さてタカシくん、これ読んで」とツグミが書面の裏をタカシに示した。

 突然の矛先に戸惑いつつ、ツグミに近づいて見積書の裏を確認すると、二箇所に走り書きがある。咄嗟になんと書かれているのかわからなかったのは、あまりに馴染みがありすぎた文字だったからだ。「《ウッド》? カタカナなんて久しぶりに見たな」

 カリルトが、ついと顔を背けたのは、ツグミの凝視から逃れるためだ。

「その筆跡に見覚えはある?」カリルトから目を離さないままタカシに問えば、

 タカシは首を横に振った。「ユキヒトの文字じゃあないですね。ギルドに今いる日本出身者はあいつだけのはずで──もう一つの文字は《ディード》、なぁんか思い出しそうな」

「ちなみにね、ディードと書かれた表側には余剰重量となる食料の記載があるんですよ。ウッドの裏は、はいタカシくん、どぞ」

「ペグですね。これ、なんです?」

「知らん」カリルトは俯いたまま否定した。「その落書きがなんだというんだ」

「文字だとわかった上で、読めてもいるんでしょ?」カリルトの座るソファーの後ろに回り込んだツグミは、顔を近づけて、小声で言った。「なにに、気付いたんですか?」

「話が見えんな」

「あー、そんな態度ですか、そうですか」

 体を起こしたツグミの顔には、影のあるニタリとした笑みが貼りついている。

 楽しんでいるのが明らかな様子に、シンイーがイーヌォの前へと移動する。

「姫、見ちゃ、だめ。(けが)れる」「うん」

「なんとでも言うがいいわちくしょう。領主どのにムーチェンさん、今から日本語使いますんで聞かなかったことにしてください。ちょいとチューニングしますんで、お耳汚し失礼」

 ちゅーにんぐ、とは。

 その場にあるすべての視線が集まる中、ツグミは咳払いを一つ。

「あ、あー、ああー《うちゅ、うちゅうせ、うちゅうせいき》」

《──宇宙世紀?》タカシが本当にきょとんとする。

 カリルトは、彼の意図をようやく察した。「待──」

 ツグミが放つ渾身の一撃。


      《常春の島、ロードス》!

         ((マネ):永井一郎)


 カリルトが盛大に噴き出した。なにが起きたのかわからない面々の中で、タカシ一人が手をぽんと打ち鳴らし「ああ」と納得する。「そういや同じ人だ、それ」


《おま! それ卑怯ぶふぅっ! 常春てマリネラじゃんか!》《呪われた島でしょアッチも、ある意味で》《うげっほけほげふげは!》《この声出せるとですね、池田秀一いけるんですよ「完全な作戦にはならんとはぁ」》《うぉマジだ、怖!》

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