不備の隠蔽・其の三──報連相を受け取る側
「ち、違いますよ、ベネディクトからは納品が間に合わないとの報告こそ受けていますが、まさか彼に設計しろだなんて指示するわけないじゃないですか」
「では、どんな指示をしたのか教えていただけるかしら。だいたい納期に間に合うかどうかの判断は発注を受けたクランよ。ギルドじゃあ、ない」
そもそもベネディクトは、納品が間に合わないとの報告を誰から受けたのか。
普通に考えるなら発注書を発行したティアハイムだろう。だがそれは有り得ない。ベネディクトがダリオに相談を持ちかけた時点では、ティアハイムとソアダそしてレッシナいずれのクランも資材納期の調整や、発注から納品までのリードタイムの確認すら始められないからだ。
流れとしては、こうだ。
ギルドが見積書を発行。ティアハイムに発注書の作成を依頼。ティアハイムから返送されてきた発注書をギルドが受領。ギルドが商社を持つクランに発注書を回覧する。発注書を受け取ったクランはコウイチを窓口に業務を開始する。納期調整はここからだ。
ところがレッシナは初回から一貫して通信機器の発注を請けていない。発注書が回覧された時点ですでにギルドの余剰品流用支給が決定しており、サプライリストから除外されているのだ。納品が間に合わないなどと報告するはずがない。
「ベネディクトくんが、納品に不安のある物品を先行確認したのよね?」
素直に右から左に受け流せば良かったのだ。または先行確認の情報をコウイチに伝えさえしていたなら、市場在庫を探すことや、代替品の提案などクラン間のやりとりでどうにかできたかもしれない。ただ彼は新人で、良くも悪くも真面目だった。真っ先にリーダーであるダリオに報告、相談を持ちかけた、とはダリオ当人が認めている。だが、
「あなた──なにも指示していないのではなくて?」
対策案がなにも提示されなければ社内で、自分でどうにかしようとするだろう。他業務で余剰となっていた資材を転用したのもそれゆえだ。魔法の式に設計者名を残している彼だ。おそらくギルドに問い合わせたなら連絡票もあることだろう。
サコギは、書面をテーブルの上に叩きつける。「ダフニー、通信機の式を確認して」視線と共に指示を出し、マヌエルが掴み上げるダリオへと、ゆっくりと歩み寄った。
「ところで気になった、とはねぇ。いけしゃあしゃあとよくもまあ」
マヌエルの腕が、ダリオを壁に押し付ける。息を詰まらせるダリオの怯える顔に、サコギのにんまりとした笑みが向けられる。
「丸一日をふいにしたのよ。どう責任をとるつもり?」
「こ、こうして尻拭いに来ただろう!」マヌエルの腕に両手でしがみつくのは、おそらく捕まれた二の腕の側の肩が外れようとしているからだ。「だいたい、技術屋がひとり不在なだけで商品が確保できないなんて実態が知れたら、ことは会議の一つくらいじゃあ済まない。現場で対応が終えられるのなら、それに越したことはない。そうだろう?」
「それを隠蔽と言うのよ。この馬鹿」
ため息を漏らすサコギは気配に、ちらと背後を見やる。自治体警察──たしかハオランと言ったか──が駆け寄ってくる姿があった。
「しょ、商品を納品できなかったのはクランだ。余剰在庫の転用はベネディクトの勝手な行動で、まさか設計まで手を出すなどとは思わなかった。ビルギッタさんたちが通信機を持っていなければこの余剰品が使われることもなかったはずだ。使われるのであれば、機能を満たしにこうして現場にも来る。僕のどこに悪いところがある!」
もはや、自分でなにを口走っているのか、わかっていないのではないだろうか。彼に背を向けハオランに近づくと、サコギは肩を落として片手で顔を覆った。
「受け取りを頼むわね。機能を満たしていないと知っていた機材を納品、証拠隠滅にのこのこやってきたところを拘束しているの。自社の新人に犯罪を実行させた教唆の疑いもありそうね」
「唆してなどいない!」とは、聞こえていたらしいダリオの言葉だ。
「就業上、選択肢を絞られた新人社員がなにをしでかすか想像もしていなかった、だそうよ」
なんだかよくわからんが、とハオランは肩をすくめ、「引き渡しは了承だ」とマヌエルに近づいてゆく。「あとで調書はとらせてもらうから、そこは了承してくれ」
「わかってるわ」疲れた。どうしてこうもうまくいかないのか。「ダフニー、どう?」
「拡張返還式が漏れています。圏内範囲は五メートルです」おそらくは話しかける機会を待っていたのだろうダフニーが、即座に回答する。「降圧した動力源が別途必要になりますが」
「ボーリング機器にあるはずよ。魔力供給を横取りなさいな。でっちあげられる?」
「可能です」
ダフニーの歯切れの良い返答が心地よい。サコギは「頼んだわよ」と微笑を向けた。




