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勤労の転移者ども ~努力すれども頑張れども、さりとて暮らしは楽にならず~  作者: ぺるでらほにてん
エールデランドへいらっしゃい──転移とジオード、そしてダンジョン
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はぐれた先で出会った人たち・其の四──外部との連絡手段確保

 エルノが設置しようとしている機材は簡易通信機だ。サプライリストには含まれていないが、コウイチの最終発注書によって正しく納品された商品である。通常、クラン所有を持ち込むか、現場貸し出しを使用するものだが、今回は発注書作成に携わったアルヴォの要望により新規の購入と相成った。費用も依頼者のムーチェンの承認を経て追加計上済みである。

 機材は小さな三脚に布がまとわりつく形状をしている。正しく展開すると折りたたみ椅子に似た代物になる。小さすぎるゆえ、実際に座ることは不可能だが。

「閉鎖空間内で通信可能、というのが、魔法のある世界なんだなと実感するよ」

 ヤミは接着用具を片手に持ったまま、逆の手で魔法の式が刻まれる水晶膜をかざして、感心する口調で言った。水晶膜を簡易通信機の主要部である革布に固定するのだ。接着は樹脂を加熱溶融して冷却で硬化させる、いわばグルーガンそのものだ。

「ほい、布固定完了」とエルノに革布を手渡しつつヤミは立ち上がり、大きく伸びをして腰を逸らした。「つーても受信機設置通知以外は、こっちからの一方通行てのが肩透かしよな」

「生存報告と座標通知だけでいいんだ」アルヴォが、魔力鉱石化した壁面を工具で確認しつつヤミに応える。通常の崩落と異なる、表面がコーティングされた状態である。だからと強度があるわけではない。そもそもが岩盤内鉱石組成を大幅に変化させる支路生成があった上で、ジオードによる大規模な鉱石転化が加わっているのだ。どこからごっそり落盤するかわかったものではない。「こちらの座標を固定できれば、外から通信準備を整えられる」

「設置して送信していても座標って検出できないものなんすか?」

「さっき自分で答えを言っていただろ」壁に走る亀裂を指先で追いかけ、天井付近に目を凝らし眉根を寄せる。少々向こう側に窪んでいるようだ。落盤の兆しである。「電波の通信でも可視光線でも最低二点は必要なのに、魔法なんて謎な技術で物理空間無視した通信を成り立たせているんだぞ。送信起点からしてがあやふやだ。これがネットワークアクセスに類する技術なら隣接ノード間の通信遅延測定あたりで座標探査も可能だろうが──ヤミ、ここらは立ち入り禁止で。ごっそり落ちてきそうだ」

「了解。トラジマ引いときます──魔法つっても案外不便すね」

「なに贅沢言ってるんですか」エルノが、通信機を固定する穴を床に空けながら、失笑気味に口を挟んだ。「連絡手段が確保されていることに感謝しましょうよ。ダンジョンの仕組み上、アンテナも通せないんですから」

 語尾が微妙にくぐもったことで、アルヴォとヤミも、近づいてくるコウイチたちに気づく。側にはブカブカの作業着を着たヒタキ、そしてカステヘルミも付き従っている。

「僕は生憎と携帯を持っていたことはありませんが、電話しながらお互いの場所を聞いていたんじゃあないですか?」ちょっと外します、とエルノは設置をヤミに託した。

 どうせカステヘルミが駄々をこねたに違いないのだ。彼女は、相手との相性が悪かったり苦手だったりすると途端に仕事ができなくなる。だからいつまでもエルノが共に組まざるを得ない。森林保護間は立場上、初対面ばかりの集う席に単独で乗り込むことばかりだ。世話をしてくれる相手がいつもそばにいるとは限らない。これからも彼女は相手に譲歩か、そこまでゆかずとも理解してもらおうとするのだろうか。

「エルノくん、済まない。時間をもらえるか」

 コウイチの声にはかすかな疲れがある。申し訳ないなと思うのは、もはやカステヘルミの世話の責任が自分にあると諦めているからだろうか。

「……いつも相手に踏み込みすぎるんだよ」エルノは前置きもなく直接、カステヘルミと向き合い言った。「もう引きずっていないから、手伝いなよ」

「しゃべっても……いいんですか」

「仕事だろ。失言があったらその都度、叱るから。それで、手伝えるの」

「て、手伝えます!」

「ということで」コウイチに向き直り、エルノは微笑を浮かべた。「お手間を取らせました」

「あ、待ってくだ、さい」カステヘルミが一歩踏み出し、エルノをまっすぐに見つめる。「ごめんな、さい。エルノ、あたし、余計なことばかり、言っちゃって」

「うん。次も怒る」

「ぅえ……は、はい。不束者ですが、はい、よしなに」

「わかってるのかな」

 コウイチへの問いかけだ。するとコウイチはエルノの肩に手を置いた。「思うところは多々あるけれどね。こういう子だってことは把握できたよ。なにかまたあったら、今度は俺から相談させてもらうからよろしく」

「こちらこそ──じゃあカステヘルミ、こっち」

「はい!」


《まったく、社会経験は向こうのほうが長かろうに》

 腰に手を当てて息を吐き、エルノに付き従うカステヘルミを見送るコウイチが、こちらに向き直る。その顔には多少の疲れが見受けられるが、一仕事終えた感がある。

「待たせたね。さて順に説明──なにその目」

 ヒタキは口元を拳で隠し、半顔の流し目でコウイチを睨め付けていた。口元を隠す理由は明快だ。状況に、不謹慎ながら笑みが漏れてしまうからだ。

「コウイチさんて、罪な人ですよね」

「……………………はい?」

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