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勤労の転移者ども ~努力すれども頑張れども、さりとて暮らしは楽にならず~  作者: ぺるでらほにてん
エールデランドへいらっしゃい──転移とジオード、そしてダンジョン
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被災時の対応・其の五──前向きになろう

 基本的に転移は、転移元でどれだけ側にいようが、転移先で個別にジオードを形成して各々が隔離される。雪だるまのように重なり合うこともあるが、それでも内部は壁でしっかりと分割されている。その女性と赤ん坊は、そうして切り離されてしまったのだろう。そしておそらくは赤ん坊を助け出せる配置にあったのが、エルノだったのではないか。

「君が、どれだけ自分を貶めようが、俺はその言葉を信じない」

 息を呑む彼の頭に、コウイチは自分の額を押し当てた。

「母親が、手の届かないところで子供を亡くした、その気持ちがわかるなんて言えない。今の俺が感情移入できて理解できるのはエルノ、君だ。そして君のような覚悟は俺には持てない。カステヘルミじゃあないけど、エルノの選択は立派だよ、すごく。誇っていい」

「立派なわけ、ない」エルノは静かに、しかし強い口調で言った。「キルシが両手を差し出してきたから、隠せなかったんだ。ただ重たいだけになったレーヴィを、見せろと言われて断れなかった、それだけなんだ。レーヴィが動かないって訊かれても、なにも返せなかった。死なせただなんて決めつけられたら、もうそれで構わないって、思うしかなかった」

「エルノ」引き寄せて、抱きしめた。「一人だけ送られるのも、残されるのも辛い、そう言ってくれたね。キルシさんのことだったのか。その人のことが大切なんだな」

「……助けたかった、だなんて、言えなかった」

「じゃあ、伝えようか。一緒に会いに行こう」

「キルシは僕と会わない方が」

「俺が同情するのはキルシさんじゃあなくて、君だ。会いたいんじゃあないのか?」

「会って、また暴れられたら」

「何度でも機会を作ろう。どうしてもダメだと心が折れたら」

「……折れたら」

 エルノをそっと離して、彼の顔を覗き込み、精一杯の笑顔を浮かべた。

「居直れ。開き直っちまえ。充分にやったと自分を褒めろ。最悪、逃げても構わない。誰にも責めさせはしない。だけど君は逃げそうにないから、だったら遊びに向かおう、思い切り、疲れるまで笑い転げよう、力一杯、楽しいことをして気持ちを切り替えてから再チャレンジだ」

 真っ直ぐに彼の双眸を見つめて「俺が付き合う」と断言した。

 エルノはしばらく、きょとんとした顔で固まっていたが、ふと、笑みをこぼした。

「コウイチさん」

 その右の拳が、コウイチの胸元に、ぽす、とあてられた。

「やっぱり、ひどい人だ」


 毛布の上に寝かされた娘は、日本人のように見えた。

 資材の確認を終えたコウイチは、エルノと共にビルギッタの診察を受けていた。その傍に眠る彼女の制服姿につい、視線が向いてしまうのだ。感じるのは、懐かしさだ。つい先ほどまでこの娘はグローブに──地球にいたのだと考えると、なぜだろうか、顔を顰めてしまう。

「中国系はなんとなくわかるんだが」アルヴォが問いかけるのはコウイチだ。「日本人の顔はよくわからないな。まだ子供のように見える。コウイチとエルノも相当だが」

「中学生か高校生を子供と言うなら、まあ、そうでしょうけど」

 エルノも随分と若く見えるが、こちらにきて六年目というから二〇代には届かずとも、近い年齢ではあるはずだ。そんな彼がいるのだから、大人子供と区別する意味などないだろうと思うのだが──あれ? もしかして俺、エルノくんと同列くらいに見られてる?

「なんです?」目が合ったエルノが、シャツを羽織りながら首を傾げた。「一応、言っておきますけれど、僕、一九です。幼く見られるのはもう諦めてますよ」

「あ、よかった。ちゃんと俺の方が歳上だった。年下であの偉そうな態度は無いからさ」

「コウイチさんも大概、大人って感じはしませんけどね」

 そうなん?

 ヤミに送った視線が彼の後頭部を捉える。そっぽ向きやがったコイツ。

「それよりコウイチさん、なんだか彼女を見る目が、不快というか険しくないですか」

「いや、そんなことは」と否定しようとして、彼の視線に「ごめん、若干、よくわからない感情を持て余してる。なんというか、かつて普通に生活していた光景から、一部だけが切り取られてこうやって出てこられると、自分が随分とこっちに慣れたんだなとか、あっちに自分がいたんだなとか、そもそも『あっち』って言っちゃってるな俺、とかまあ、ごにょごにょと」なぜか言い訳が漏れる。

「帰りたいんじゃなかったんですか、まったく」

「痛いところは無さそうだね」ビルギッタが正面に回り、コウイチの目の下を引いて「目線だけ上を見て」と指示する。「口開けて──うん、腫れもない。違和感はすぐに言うこと」

 そういえば診察中だった。「ありがとうございます。了解です」

「じゃあコレ」と、ヤミが手帳をコウイチに突きつける。「日本語だった。読めないわ」

「学生証か。顔写真は確かに彼女だな」

 勝手に荷物を漁って個人情報を覗き見るのもどうかと思うが、緊急事態だということで許してもらおう。自分自身にも。

「名前は──木曳野(きびきの)ひたき、さん、だそうだ」

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