表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
勤労の転移者ども ~努力すれども頑張れども、さりとて暮らしは楽にならず~  作者: ぺるでらほにてん
エールデランドへいらっしゃい──転移とジオード、そしてダンジョン
23/96

記憶【エルノ】・其の四──叫び


 レーヴィ、どうしたの。どうして静かなの。なにがあったの。


 あれ?

 エルノは顔を上げた。レーヴィを閉じ込めようとしていた球体が、離れた向こう側だ。いつの間に移動したのだろう。壁に深くもたれて、両足を投げ出し仰向けに寝転んでいる。腕の中にはレーヴィが()()。両足が動かないのに、どうやってここまで。

 壁越しの破砕音が、力なく、しかし連続して続いている。

 ああ、キルシ。そんなに頑張らなくていいよ。レーヴィは、ほら、ここに。

 ……ここに。

 胸の上の存在が、重くない。ただの重量としか感じない。

 半身を起こそうとすると、レーヴィの首が背中側に倒れ込んでしまった。抱き直そうと首の後ろに手を回す。手のひらの上で彼の頭が、くらくらと頼りなく揺れる。

 だめじゃないか。教えてもらった通りに、ちゃんと抱っこしないと。

 キルシの咆哮が壁の向こうから響いてきた。なにをどうやっているのか、これまで以上の力で壁を壊そうとする音が、足元までも震わせている。


 ダメよ! いるんでしょう! 泣いていたもの!

 お腹空いたわよね!

 あ、ああ、ああああぁあ!

 可愛いあたしの赤ちゃん! 聞こえたわ! もっと笑って!

 声を聞かせて! レーヴィ! レーヴィ! レーヴィ!


 壁が振動するごとに天井からパラパラと、結晶の屑が落ちてくる。

 たぶん、キルシだけじゃあ無理だよね。手伝わなきゃ。

 あ、でも、足、動かない。レーヴィも支えてなきゃ。

 力なく、ぷらんと外側に広がる四肢を、彼の体の正面に折りたたむ。なんとなく、その小さな手を開いてみた。小さくて細かい指が、ぷくぷくの肉の感触が、冷たい。

 その手を離して、服の裾でレーヴィの顔を拭いてあげる。柔らかさが信じられない。

 こんな小さな体なのに、しっかりと人間の形をしている。

 なのに軽い。それなりの重量はあるとわかるのに、全然、重くない。

 さっきまで、つい今しがたまで笑って、泣いていたのに。

 頭を撫でてみると、ひどく細い髪の毛のすぐ下に、細かな垢がぷつぷつとあるのがわかる。指の腹で撫でると、ぽろっと落ちる。引っ掻いたらダメなんだろうな。あとでキルシに訊いてみよう。お風呂とか、さすがに僕じゃあ入れられないから。

 ここから出られたら、ヘンリクとキルシと父さんと母さんと、そしてレーヴィ……と

 ──レーヴィ。

 視界が唐突に滲んでゆく。溢れる声が抑えられない。嗚咽が止められない。


     ああ、ちくしょう。

       なんなんだよ、これ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ