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勤労の転移者ども ~努力すれども頑張れども、さりとて暮らしは楽にならず~  作者: ぺるでらほにてん
エールデランドへいらっしゃい──転移とジオード、そしてダンジョン
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権利と権限・其の四──役割が邪魔をする

 当然のように断言するサコギに、タカシも流石に眉を顰めた。

 人が一人転移する都度に、五メートルのジオードが生成される。転移者の多いこの世界ではほぼ一般常識化している情報ではあるが、転移対象は必ずしも人間とは限らない。

「なぜ人だとわかる」問うのは引き続きヴェンデルだ。

「そのつもりで計画を練らないと見込み不足になる、ってこともあるんだけど」サコギは小首を傾げて顎に人差し指を当て、しばしの黙考ののち「おっきなワンちゃんかも」と茶化す。

 ヴェンデルがかぶりを振る。「閉じ込められた六名の救出は大前提だからな。現場が目星をつけているってのは収穫──」

 ヴェンデルの言葉が止まり、タカシも顔を主要運搬坑道に向けて腰を上げる。

 もともと慌ただしい坑道ではあったが、喧騒の気配に変化が聞き取れたからだ。

「時間切れかな」タカシは呟き、先に動いたサコギの後を追う。

 その声を聞き取ったヴェンデルも「さて、どうだろうね」と続く。

 主要坑道をヤグラ越しに確認すると、作業員たちが中央に向かってゆくのが見える。さらに出口側に目を凝らすと、作業を中断した者たちがぞろぞろと撤収する光景もあった。

「自治体警察のお出ましだ」

 ヴェンデルとしては、彼らが現れる前に姿を消したかったのだ。事前調査に侵入するとは申請を通しているが、統制権が自治体警察にある現在での無用の干渉は、避けるのが無難である。

 遠目には背広によく似た武装の自治体警察六名が、広い坑道の中央を割るように、足音も高く近づいてくる。そして支路の正面あたりで足を止め、声を張り上げた。

「全ての作業を中断しなさい。責任者は即時、大会議室に集合。他、作業者は各々の待機場所に向かうこと。なお洞窟城敷地内は厳戒態勢に置かれた。現時点より全ての者は、指示あるまで外出禁止とする」

 宣言ののち、さらに奥へと向かう彼らのうち、一人がこちらに近づいてくる。

 無意識にタカシは腰に手をやってしまうが、その時ようやく剣が抜き取られていることに気づいた。まさか、と脇に立つ巨漢にジト目を向けると、そのマヌエルがベルトが巻かれた剣を見せてくる。「……マヌエルさんだものな」ため息を漏らすしかない。

「国家地方警察がなぜ、ここにいる」

 その声にヴェンデルが「言われてるぞ」と軽薄に笑う。

 だからタカシは、前に出るしかない。

 自治体警察官は、鍛え抜かれた体を誇示するように胸を張り、こちらを威圧してくる。そんな男にタカシも真っ向から対峙した。

「事故または事件性があると判断された際には、独自判断にて二名までの初動派遣が認められている。まして本件はエーデルトラウト様の派遣許可を受けての情報収集活動だ。自治体警察にも侵入許可申請を回覧済みである」

「ヨウアン領主への文書提出はどうなのだ」

「緊急を要するため、ヨウアン領主へは追って直接受領いただく。また」睨み合いながら手のひらを真横に伸ばした。ずしり、と剣とベルトがマヌエルから渡される。そのままタカシは自治体警察官の胸元に押しつけた。「衝突して無闇な混乱を招くつもりは無い。貴公らの先の指示に従い我々もこの場に待機する。ただし、大会議室には同室させてもらおう」

 自治体警察官は、もぎ取るように剣を受け取り「いいだろう」と苦々しげに応える。そして鼻先をこすりあうほどに顔を寄せて小声で「なにやってんだお前は!」と嘆いた。

「悪いとは思ってるよ、ハオラン」険悪そうな気配をそのままに、タカシも心中で両手を合わせながら返す。「閉じ込められたのがコウイチだと聞いて、じっとしていられなかった」

「わかってるよ。だからわざわざ俺が出向いてやったんだろうが」

 自治体警察と国家地方警察の確執は筋金入りである。個人間では互いを慮ることもできる。だが、立場が組織となれば融通を効かせられない部分がどうしても出てくる。今回、初動派遣の事前調査申請は、それ自体になんら問題がなくとも、崩落事故当日であるから、入場できずに門前払いされてもおかしくなかった。

「まったく。ヴェンデルとカルラちゃんに委ねておけよ。そうしたら、ややこしい根回しなんぞせずに済んだってのに。お前、自分の出身地を忘れるな」

「ハオランが承認してくれたんだな。心から感謝するよ。やっぱりマズかったか?」

「閉じ込められた中に日本出身者がいるってだけで、上はピリピリしているんだ。そこに後ろ盾のある洗浄済みのお前がノコノコ顔を出しやがった」タカシの胸元に拳の先を置いて額を擦り合う。「お前を俺の手でどうにかしなきゃならなくなるってのはごめんだからな。せいぜいうまく立ち振る舞ってくれ」

 せーの、で突き飛ばされたタカシはよろめき、ヴェンデルに支えられる。

 背中越しに「撤収しろ!」と怒鳴るハオランの姿に感謝しつつ、タカシは彼とは逆の、日の差し込む方向へと歩き始める。「いずれ礼を返さないとな。なにを贈ろうか……?」

「息子さんへの贈り物がいい」ヴェンデルが腰に手を当て、言った。「先月、産まれたとさ」

「うっわ。なにを選べばいいんだよ、それ」

240323部分改稿

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