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縁固結び

作者: 西順

 縁結びと言うとすぐに恋人が欲しいの? となるのは世の習いであれど、私の場合は違った。どうしても入社したい会社があったのだ。その会社は業界最大手で、選考倍率は500倍とも1000倍とも言われている企業だ。大手企業の選考倍率が25倍から上とも言われるので、超人気企業と言えるだろう。


 なので私は勿論SPIテストも、面接もきっちり対策済みだった。そんな私にあとひとつ欠けているものがあると言うならば、運だろう。


 私は昔から運が悪かった。楽しみにしていた遠足や修学旅行では熱を出して行けず、うきうきの初デートでは土砂降りの雨とともにフラれた。何もない所で良く転び、赤信号に引っ掛かってばかりだ。


 だからこそ私は神頼みをした。就活が本格的に始まる大学三年の三月までに、地元はおろか、国内の縁結び神社やらパワースポットなどに行きまくり、お参りをし、お守りにお札、絵馬に破魔矢と、買える物は何でも購入して、家の中は縁起物ばかりだ。


 さあ、ここまで対策したのだからもう怖いものはない。とばかりに臨んだ就活は、勿論望んだ第一志望の最大手に受かった。正に我が世の春。この時が私の人生の絶頂だった。そう、この時が絶頂だったのだ。


 分かるでしょう? たとえ業界最大手であったとしても、たとえホワイト企業であったとしても、社風にそぐわない人間にとって、その職場は地獄なのだ。


 神頼みに日本中を駆け回るくらいなので気付いているかも知れないが、私はどちらかと言えば陰の者だ。しかし私が希望し熱望した会社は、とても陽の会社だったのだ。


 朝の同僚との爽やかな挨拶から始まり、上司もとても明るく気が回る方々で、こちらが恐縮していると、元気がないぞ? と周りが気にしてしまうので、私は会社では努めて明るく振る舞っていた。


 その無理がたたったのだろう。私は一年で出社しないリモートワークに変えて貰った。それくらい融通の利く良い会社なのだが、上司も同僚もWEBカメラ越しでも煩わしかった。


 ああ、もう、決定的にこの会社は私の肌に合わないのだ。と得心した私は、退職願を会社に提出したのだが、上司が「まあ、待て」とストップをかけた。ここまで私の好きにやらせてくれた会社だったから、そんな会社が退職願を突っぱねるなんてある? と驚いたのだが、良くしてくれた会社なので円満退職したいと、私も強気に出なかったのだが、待てど暮らせど私の退職願は受理される様子がなかった。


 これは一体どういう事なのか? と疑問に思った私は、その時になって私の部屋が縁起物で埋め尽くされていることに気付いたのだ。もしやこの縁起物が会社と私との縁を繋ぎ止めているのではないか? と思った私は、全て残らず処分した。悪い事が起こらないように、神社に持っていってお焚き上げして貰った。


 それからだ。上司の態度が軟化し、私の退職に少し前向きに考えてくれるようになったのは。しかしそれでもまだ、上司は私を会社から離してくれなかった。これで足りないのか? 確かに私はこの会社との縁結びの為に、神社やパワースポットに行きまくった。その為に大学の三年間を費やした程だ。となると……。


 日本には縁結びの神社などがあるかと思えば、縁切り神社やお寺なんてものもあるのだ。成程、何年かかるか分からないが、国内の縁切りスポットに行きまくれって事ですか。はあ、やっぱり私は運が悪い。


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