第五十四話:"終わりへの旅立ち"
お久しぶりです、新人小説家のハルトです。
大体四ヶ月ぶりの更新となります、「彼は誰の紅、蒼く咲く凍りの花」。
諸々込みいった事情にて更新できずに居ましたのを先ず一点、申し訳ありませんでした。
次回作の案も既に考えてあり、当作品についてはこのまま最終回までしっかり書いてからまた時間を置いて次の作品に移ろうと考えております。
次回作についてもお楽しみにしていただけると幸いです。
では五十四話、どうぞ。
元をたどれば、最初はただ些細な出来事だったのだろう。
誰かが皆を幸せに、そんな可能性のある世界連れていきたいという願いがこの世界を作り出してしまった。
そう思っていたからこそ"罪"が、災獄が生まれ、月より来たであろう怪物は、このちっぽけな惑星に目を付けた。
そして私は、この願いへの決着を望む。
願いの果てに何も無くとも、私はこの戦いに意味があるとは思えないから。
そうして自らの日記に何かを書き綴る蒼実 凍花さんは、窓から差した陽の光に当てられ、より綺麗に見えた。
そんな彼女の前に居る"私"、この物語においては、ジャーナリストを志すだけの一般生徒である。
これは私という第三者の視点で見た終わりへ旅立つ方たちへの取材記録である。
*
case.1 蒼実 凍花。
私はお昼ご飯を食べ終えて、彼女の部屋の扉を定刻通りに開いた。
既に椅子を用意していた彼女と対面になるように座り、此方には気づいていない蒼実さんに呼びかけ、取材を開始する。
「どうして、まだ戦うのか? 」
私は、問いかけた。
新東京陥落から蒼実さんも生還、戦わない道もあったはずなのに何故それを取らなかったのか。
一般科に戻ってくる道も、あったはずなのに。
「そうですね、その……上手く言葉には、できませんが」
「彼……ううん、皆に平和な世界を見せてあげたくて、その時の景色を私も見られたら良いなって思っていますから、自らの手でそれは切り拓くと決めていたんです」
その言葉を聞いて率直に立派だと思った。
ただ最初に言い淀んだ、彼という言葉が気にかかった。
人類全体を示す言葉なら、皆と言うだけでよかったのだろうし……と、深く自らのメモ帳と睨み合う私を見て、きょとんとした顔をする蒼実さん。
そこから、私は問いかけた。
「ああ、彼とは誰を指す言葉なのか、って? 」
「そうですね、そう……ええと、余り深くは言えないのですが彼は彼なんです、誰のものでもない彼」
「誰のものでもない自由な彼は、私にとって大切な人ですから、だから、その……ですね」
顔を赤くした蒼実さんを見て私もポっ、とつい顔を赤くしてしまう。
つまるところ……将来を誓いあった存在が居るのだろう。
才色兼備、完全無欠のイメージがあった蒼実さんとは別の印象が知れてよかったな、と私は思い。
確りと一時間経った後に一礼とお礼の言葉を述べて、部屋を後にする。
*
case.2 花火 蓮華。
お昼時を過ぎて陽が傾いてきた頃、時間通りに学園内の休憩室に現れない彼女を探していると、ジムにて取材対象の彼女を発見した。
数百kgはあるであろうベンチプレスを持ち上げる汗だくの彼女。
此方を見て如何にも、あっ、と驚きを見せた後にそそくさとタオルを首にかけ、此方に足早に歩いてくる筋肉質な彼女こそ花火 蓮華である。
「いやぁ〜悪い悪い、つい待ってるのが退屈でさ! 」
大丈夫ですよ、と一声かけてジムの休憩スペースにて対面する。
燃え盛るような赤い髪、翡翠のグラデーションの入った赤い瞳は、不明瞭な言葉だが不思議な感じを思わせるのである。
そして、蒼実さんにした質問と同じ質問を投げかけた時。
特徴的な八重歯の見える笑顔から表情が一転した。
「……オレはさ、あんまりそういうのよく考えたことなくて、でも、やっぱこう戦う理由が大事だってのはわかっててさ」
「……だから、オレはオレのために戦うことにした、誰かの為とかそういうの向いてねぇんだ」
「オレはオレの為に最後まで生き抜いて、後の世界でゆっくり生きてゆっくり死ぬことにした」
やっぱ変かな? と続けて言う彼女の表情は、何処か普通の少女らしさを感じさせる。
変では無いです、と私は返し、その答えを書き記す。
戦場でいつの間にやら"鬼神"と呼ばれ始めた彼女とは違う。
ごく普通の戦いとなんかは無縁の少女の表情。
案外、そう呼ばれているだけで怖くはない人なのかも、と別の問いを投げかけた。
「ふーーーーん……世界が平和になったら、何したいかって? 」
「案外、普通の質問なのな 」
ずき、と刺される。
たしかに普通の質問かもしれ……いや、普通ではない。
これから戦いに行くのは、アナタたちなのに普通なんて言う方がおかしいと私は思う。
「どうせオレは負けないしな、そうだなぁ」
「とりあえず美味い飯食いに行きたいよな、肉とか魚とか……あと、本を読みにな」
さらっと言ってのける、オレは負けないという言葉。
彼女自身の持つ強さは、その自信があってこそなのだろうと席を立ち、ちょうど一時間を終えて一礼とお礼の言葉を述べた。
花火さんもまた、トレーニングへ戻っていた彼女の背を見てふと気づく。
本を読みに、という言葉。
彼女は、普段図書室などで本を借りても読まないタイプだったはずで、借りたとしてもよく期限切れだったりそもそも読んでいなかったり……。
……ここ数ヶ月の生活で、趣味も増えたのだろうとしておく。
*
case.EXTRA 三神 暁。
私は自らの部屋の帰路へ着く、代表的な彼女ら以外にも他の人への質問をしていたら時間を食ってしまった。
部屋の扉へ手をかけた時、節電で暗い廊下の奥から物音がする。
逃げる準備か、部屋に隠れる準備か。
余りの動揺から覚えてはいなかったが、その姿は、窓から差した月明かりが照らして直ぐに答えを見せてくれた。
「……確か、一般科の生徒か」
おぼつかない歩き方の彼の手には、いつもの夕食などで出る栄養ゼリーが入った袋。
味は微妙だが栄養価が入っているから、大体出てくるものである。
大抵の生徒が残したり、それを持っていく人は居ないものだから、廃棄されがちなものだと思っていたが。
私は、問いかける。
こんな夜更けにどうしたのか、と。
「……道に迷った」
そう言う彼の肩の包帯からは、彼の象徴とも言える異形の腕から生えた棘の様なものが飛び出ている。
私は、取り敢えず彼を部屋に招き、椅子を用意して電気を点ける。
彼の名は三神 暁。
異形の腕を持つ彼は、何処か他人に対して冷たい印象しか私にはない。
それ以外の情報は、不明。
「……それ、何かのメモか? 」
そうですよ、と答える机に向かってメモを書く私にぶどう味のゼリーを吸いながら、ふぅんと興味なさげに答えを返す三神さん。
私はつい夜更けのテンションからか、問いを投げてしまう。
「……なんのために戦うのか? 難しいことを聞くな、アンタは」
「俺は、元は自分の記憶を探す為に戦っていたのは……知ってるんだったか? 」
知っていると答えを返しながら今日のメモを振り返りつつ言動を書き記す私を見て、言葉を続ける三神さん。
「……その時の俺は、それしか頭に無くて、周りの事なんかどうでも良くて、周りのヤツなんかに俺の気持ちなんて分かるわけないって、自暴自棄になってて」
「記憶を取り戻した時、俺は辛くて、苦しくて」
「……上手く言葉にはできないんだが、皆にはそれら含めて感謝をしてるから、言わば恩返しのような理由だ」
意外だった。
東京にいた時の冷たそうな雰囲気を放っていた彼が、こんなに穏やかな微笑みを浮かべるものなのかと意表を突かれてしまった。
ぽかん、と口の空いてしまった私はそのまま続けて彼に問いかけた。
「世界が平和になったら? 」
「……そうだな、静かな場所で眠りたい、何も無い静かな場所で」
彼の穏やかな顔は他の二人とは違い、まるで人生の"先"を見ているような顔をした三神さんは、私が一礼を述べる前に立ち上がり。
「……すまん、邪魔をしたな」
そう言い、私の部屋から立ち去って行った。
まさか三神さんがあんなにも穏やかそうな雰囲気になっていたとは思わなかった私は、メモ帳に末尾を書き記す。
こうして、取材を終えた人達も明日には此処を去り、私たちの故郷へと帰るのだろう。
この戦いに、終止符を打つために。
to be continued……。
「次回予告」
数日かけて新東京に到着した蒼実たち、そこで目にした景色は一年前とは比較にもならない廃墟の姿だった。
雑兵の様に襲いかかってくる災獄を切り抜け、遂に元ワールドオーダー前に到着する。
そこで目にしたのは変わり果てた"仲間"の姿。
次回
「彼は誰の紅 蒼く咲く凍りの花」
第五十五話:新世界秩序(New World Order)①
「機神が描く、新世界秩序を」




