第五十一話:誓
皆さんこんばんは、続けて五十一話を見に来た方も多いであろうため。
前書きは省略させていただきます。、
第五十一話、続けてどうぞ!
夜間の学園は静かである。
作戦用通信室内及び作戦会議室以外に残る生徒以外は基本的に居らず、自主的な目的や夜間任務のオペレートを務める最小限の生徒と各部隊専属の作戦立案者が残っている程度。
そんな中、私は専用の医療隔離室の扉を三度ノックし入っていく。
「蒼実 凍花ね、沖神学園長から話は聞いてる」
「後は宜しくね」
彼……三神 暁の隣でカルテを記入する女医が居た。
外に残った避難区域からの医師免許を持った人で、 外から人を雇わなければ、日々任務に当たる契約者の怪我人は増えるばかり……。
それでも少しずつ人手不足は改善してはいるのだが……、と女医が去った後に顔以外の全身に包帯を巻いた三神、彼が横たわるベッド横のパイプ椅子に腰を下ろす。
「暁」
名を呼べば、彼は身体を起こして此方を向いた。
三神しか居ない医療隔離室のカーテンは開けられており、節電のために電灯は消えていても、月明かりがよく差して、彼の顔がよく見えた。
「……凍花」
「身体の傷の方は、治りそうなんですか? 」
「ゆっくりと、先の戦闘でも包帯を着けてさえいれば余り痛まなかった……何よりも痛みには、もう慣れた」
一年前の頃よりも彼の表情と声は、比較的優しげに見えて聞こえてくる。
月明かりがそうさせているのか、はたまた別の要因か……私にはあまり、分からなかったが。
「暁、花火が言っていた……機神、という単語に聞き覚えはある? 」
「花火は、ルシアが機神のせいであんな風になったと言っていたのか? 」
「えぇ……その、やはり聞き覚えがあるの? 」
それから少しの沈黙の後、彼は語り始めた。
月に居る機神の事、己の親の事、災獄の事……そして、私だけに語ったこと。
「月にいる機神を止められるのは、俺だけだ」
曰く、彼の異形の腕は機神の一部であり宇宙空間においても彼は、地球に居る人間と変わらぬように生きられる生物でもあるという。
同時に一部であるからこそ、打倒できる可能性があるらしい。
「……どうして、それをもっと早く私達に言ってくれなかったんですか」
私は拳に力を込めた。
どうして教えてくれなかったのか、という悔しさからだったかは、あまり覚えてはいないが。
「機神のことを話した以上、お前達にいつ目をつけられてもおかしくはなかったからだ」
彼の眼に嘘はない、何処か無気力的な眼でありながら此方をしっかりと見据えている。
恐らく人に在る芯……ではない。
この戦いの先にある結末を覚悟している試が伝わってくる、言葉の重みも。
「一人で月へ向かうつもりなんですか? 」
「……嗚呼、俺一人で行く」
彼は私たちをついていかせることも許さずに、たった一人で機神に立ち向かおうとしているらしい。
けれどそれは、酷く悲しいものだ。
一人で行くには余りにも辛く遠い道。
だからこそ、此処で私が彼の手を繋いであげることなく、誰が彼の手を繋いであげられるのか。
「……三神 暁」
「私も、アナタと共に行きます」
彼の親にして全ての根源たる月の光。
それが、くっきりと彼と私の顔を映し出した。
静かに涙を流す彼の顔、対して微笑む彼女の顔。
侵食により、手を開き握ることすら叶わなくなった彼の異形の大きな左手、その手を小さな人の手包む彼女。
「……二人で、行きましょう」
「……何を言っている、今話したはずだ、一人で行かねばならない理由を、だから俺一人で……」
「だからこそ私は行くんです、アナタを一人にはしたくないから」
そんな二人の間に生まれた約束の名は、絆。
どんなに絶望的な状況であっても、彼と共に私は在る。
小さな涙を流す彼もまた、彼女の眼を見て彼女を護ることを密かに思う。
そしてまた、二人は想う。
この胸に秘めた感情を伝えるのは、もう少しだけ先でい……。
「……なぁ」
そんな、二人の独白を遮るような呼び声に蒼実はハッとして振り返る。
そこに立っていたのは、汗だくのTシャツと頬に貼った絆創膏が目立つ赤髪の少女、花火 蓮華。
こんな姿を見られた蒼実の顔は、段々と真っ赤に染まっていき花火の手を思い切り引っ張って直ぐ様、病室を走り去って行った。
「なっ…な…何でいるんですか! 」
「何でって……そりゃ、学園内のジム許可取って使って鍛えてたからだ、怪我も別になんともないからって言われたし……」
「それと、寮に戻る前に三神の顔も見に来たらよ、たまたまアオが居て三神とイチャイ……」
「してませんから……」
はぁ〜〜、と彼女の手を引っ張り、寮へ戻る途中長めで大きな溜息をする蒼実。
それを見て茶化すかのように……。
「してたしてた、なんならあのままキ……」
「してませんから! ! 」
夜間の廊下に響く、束の間の平和に響いた楽しげな声。
三神は静かになった病室で眠りに着く、明日がきっと今より良くなると少しだけ信じて。
***
「おはようございます、三神」
珍しく晴れた空から照らす陽の光が彼女の蒼く美しい透き通るような髪を照らし、顔をよく見せている。
こんなにも彼女は、綺麗だったろうか。
例えるのなら、路上コンクリートの隙間から咲き誇り続ける逞しい花の様でもある。
……ただ、逞しいという言葉は女性に似つかわしくないらしいので敢えて此処は喉に押しこんでおこう。
「何をボーッとしてるんです? 歩く……のは、厳しいでしょうから、車椅子押しますから」
「行きますよ、新東京奪還の戦略会議が始まります」
新東京奪還作戦デイブレイク・ワールド。
その為の戦略会議、数日かけて行われる超長期作戦。
新東京を埋め尽くす災獄が二千万体以上、八転獄道が推測八体と災獄の王らしき存在が一体。
対して此方は、一部隊五名で構成される人間たちが十三隊と複数の旧戦闘車両や地対地ミサイル兵器のみである。
その上、災獄には月に座す機神と呼ばれる存在がバックアップが着いている。
機神が居る限り、災獄をどれだけ全滅させても地球そのものの無意識下へ介入し、蘇生させられる。
はっきり言って、勝ち目は無い。
だがそれでも蒼実は、俺の手を握ってくれた。
……手を握ってくれたのは、凄く嬉しかった、なんて呆けているうちに作戦会議室前に到着。
「……こんな状況で東京奪還なんて、出来るのか、ただでさえ戦力差は一対一万くらいだと言うのに」
「それでも、私は行きますよ」
ジッ、と作戦会議室前で惚気ける二人を近くの壁から見つめる影、それはゆっくりと二人に近付き……。
「わっ! 」
「ひゃぁ!? 」
初めて聞く声で驚く蒼実、凄く顔が真っ赤だ。
彼女の首に掛けられる手、古傷まみれの其の腕は何処か見覚えがあるものだった。
「よっ、三神」
「花火か、蒼実の顔が般若の様になっているが」
「ちっ……驚かなかったのかよ、ん? 般若? んな訳……」
ふと顔を覗き込む花火、蒼実 凍花という存在が滅多に出さぬ顔。
恐ろしい所の話ではない、物凄く怒っている所の話でもない。
「ひぇッ、わかった! いや、聞いてくれ、油断した訳じゃなくて視祇が──────」
と言いかけの所に花火の背後からひょっこりと現れる視祇。
むす……と見た目相応の少女らしく頬を膨らませる姿は、なんだか愛らしい。
「花火さんが小型の災獄だからといって、一人で突っ込んで行ったからです、しかも射線に入ってばかりで……アレじゃ撃つものも撃てませんよ!」
「アァ!? そもそもだな、オレ事撃てって言っ……! 」
ああ、見逃す所だった。
蒼実が彼女らの頬を掴み取る瞬間。
対人訓練の際などに武器を弾かれた時、放たれる手刀以上の速さで掴み抓りあげた。
「いででででっ!?」
「いだいいだいいだいぃ!?」
般若というか、もうその顔は人間のものとは思えない。
蒼実が怒ると怖いことは理解していたがここまでだったとは、と思案する自分を他所に。
いつの間に背後から扉を開け、ルシファーがその様子を額に手を当て呆れるようで、何処か懐かしいような眼で見ていた。
「そもそも二人とも間違っています、戦略的には数が多いなと思った時点で、その場に居る味方の元まで撤退すべきです」
「後退後、両者背を合わせて接近してくる敵を殲滅した方が効率も後隙も欠点も補えるのに、敵に突っ込むわ、固定砲台として移動はしないわ」
「承器の重量は理由になりえませんからね視祇、それに花火、直ぐ見かけた敵に突っ込んでいく癖は直せと言ったはずですよね」
「「ごめんなひゃいぃぃぃい〜〜! 」」
何だか、昔に戻ったような気がしないでもない。
別に昔に戻りたい訳でもない、それでもなんだか微笑ましい光景。
それが在るべき明日を、これから守りに行く。
「お前たち、その辺にしておけ、会議が始まるぞ」
扉を開けて待っていた見守っていたルシファーは三神を含めた三人を作戦会議室に放り込み。
扉は、閉じる。
to be continued
「次回予告」
誓いを遂げた二人と、それに連なる仲間たち。
裏切りから始まり、願望を超え、覚醒を果たし。
今、彼/彼女らは故郷への道筋を辿る、終わりの物語を紡ぎ始める。
次回
「彼は誰の紅 蒼く咲く凍りの花」
第五十二話:新東京奪還作戦会議【前編】
「元八卿議会長、クルアーン=トワイライト……! 」




