第五十話:因縁
皆さんこんばんは、日付変わる前となってしまいましたがお久しぶりです。
新人小説家のハルトです。
2ヶ月以上もの間、更新できずに申し訳ありませんでした。
楽しみにされていた方や、他の物書きさんなどをお待たせしてしまい、改めて申し訳ありません。
本日は、私の誕生日ということもあり、そろそろ更新をしなければな、と思いたって改めて更新の程をさせていただきました。
この物語の結末も、近々お届けできたならと思っております。
では第五十話、どうぞ!
罪との戦闘が始まって三十分。
喰われまいと刃を振るい続けているとはいえ、形を常々変え続ける微粒子サイズの蝿の群体に対しては、徐々に喰われるのに他ない。
肉体という枷に縛られた異端者は、十全な力を発揮出来ずにいるのだから。
「厄介な……!」
『アナタha ワタシタチ ni カテハシナイ』
群体ということもあって、既に個体という意志は存在しないのだろう。
ただ、勝てはしないと告げる声のカタチだけを再現している。
ルシアという存在がいた証明となっている。
『────キエ te? 』
幾度と刃を打ち合う合間に気付く。
群体のカタチが、ゆったりと剣を振るう巨人の腕となっていた、腕も剣も蝿で出来ている。
それに触れた時の結果は体感せずとも理解出来る。
死ぬ────確信した次の瞬間。
目の前を過ぎ行く様に飛んでくる赤熱した手甲……。
否、手甲と言うには余りにも大きすぎる拳が群体たる蝿を霧散させる。
『D a レ? 』
巨人を思わせる姿に形を変える蝿は、首を傾げながら飛んできた拳の先を視る。
その視線の先に立っている背中合わせの赤髪と青髪の少女。
「誰……? だってさ、もう意思なんか残っちゃ居ないんだろうな」
「……そうね、早急にカタをつけましょう」
俯きながら話す二人はすぐさま分裂し、飛んできた蝿の群体を避けて、挟撃にて潰しにかかる。
花火はいつもの手甲を纏い、拳を振るい。
蒼実の攻撃に合わせて、新装備の手甲型独立兵器が叩き潰すように振るわれる。
まるで呼吸や身体機能を共有しているかの如く。
全てに合わせ退きつつ殴る姿。
それは、もはや武神……強さに準えるのなら鬼神のに近い。
そして攻撃の起点となりうる蒼実も、花火から付かず離れずの距離で振るわれる刃の軌道。
一切の躊躇やブレが存在していない。
微粒子サイズとなった蝿一匹一匹、それを刺突で潰すのはどれだけの時間を鍛錬に費やせば、そうなれるのだろうか。
今の世界では、連携という分野において二人を越える者は存在しないだろう。
ただ……一つだけ気になったことがある。
当たれば死とも言える蝿の群体を前にして、緊迫状態でありながら花火は、口角を上げて笑みを浮かべていたこと。
何故、そう笑うのかと問わずとも直ぐに理解出来た。
「────────今なら、やれる」
翡翠混じりの赤い両眼が、煌めいた。
瞳が光の軌道を動きに合わせ、描く。
結ばれる阿弥陀定印、手甲型の独立兵器によって創られる光の輪。
起点に展開される願いの世界、陣の形成。
八転獄道と同じ力、契約族を失ったばかりの中で巻き起こった覚醒。
「剥離ッ!」
「天星・灼熱樹界焔嵐埜陣」
硝子の様に割れる世界、定印の輪から放たれる焔の輝きが新たな世界のドームを形成していく。
焼け続ける樹海が周りを囲い、水平線の果てまで広がる砂漠の上に咲く花畑に雲一つない晴天。
景色は矛盾に満ち満ちている。
陽炎に揺れる花火の影を他所に、驚く三神と蒼実の表情、それら全てがこの世界を物語っている。
「……行くぞ、ルシア、一瞬で終わらせてやる」
彼女の言葉と共に、花火の肉体は焔と植物に包まれる。
その体に芽吹いた植物は、まるで内包した本能を具現させる樹木の角となり、それらを焼き尽くす焔は彼女の肉体を巨大化。
その世界に響く「鬼」と化した花火の咆哮。
彼女は、蝿の群体へ無謀と言える正面突破で突っ込んでいく。
彼女の初速すら自分達は目で追い切れない程に速く。
手甲型独立兵器と融合を果たし、同じく巨大化した燃ゆる木々の爪を振るい。
数が減る気配の無かった蝿の存在そのものを強制的に世界に固定、傷を与える。
『I痛い痛i イタイイタイイイイイイッ! 』
悶え苦しむように飛び回る蝿の群体は、自分が倒されるはずは無いという絶対的な自信に満ち溢れていたらしい。
それは、人間であった頃のルシアという一人の少女であった時の願望の側面。
誰にも侵されず、誰からも愛され、何よりも己の理解者となる存在が欲しいというエゴ。
誰にも侵されず、という一側面のみを具現化させた結果が目の前の存在である。
機神はあくまでも願いを叶えたのだ。
その願いを理解しているのは、外から飛来した"己"のみであるという思考を植え付けた上で、ルシアを此方へ差し向けた。
「……終わらせよう、ルシア」
その姿から想像も出来ない優しき声で2m超の「鬼」は、全ての燃ゆる植物を拳に変え悶え苦しむ蝿に、嘆き苦しむ願いに。
終止符という名の拳を、たった一撃打ち込んだ。
その一撃が蝿と成ってしまった彼女の願望を現実へ引き戻す春風となるように、彼女もまた願って。
彼女という存在の胸を貫いた時。
戦いの終わりを告げる鐘の音と共に、世界が元に戻って行った。
「……ぁ」
─────倒れた少女は、己の顔を覗き込む輝きを見つめていた。
幼子がいつか聞いたであろう物語の英雄に憧れるような眼で。
「花火、さん」
「……なんだ」
蒼実と三神は、彼女ら二人の場所から離れて見つめている。
災獄の手掛かりが欲しいと思いながら。
機神の手掛かりが欲しいと思いながら。
聞くことは、違うと心が告げている。
聴くことは、なくていいと心が告げている。
「ワタシは、アナタにはなれなかった」
「……そりゃそうだろ、他人は他人に成れないもんだしな」
「だけどワタシは、アナタに憧れたのよ」
彼女の願望の答えとも言える存在。
それは今、目の前に居る。
この世界は偶然か、必然か。
誰かの願いは叶っても、誰かの願いは叶わない。
コインに表と裏がある様に、それは必定だ。
一方は醜く地を這いずり、泥を抱く。
一方は美しく空を飛翔し、星を抱く
「ワタシはアナタのことね、ホントうは……」
願望に歪んだ少女は、願望に歪まぬ少女の手を握って果てた。
曇天の空から降り積もっていく雪。
冷たくなった手を冷たくなった手で、彼女は非力を悔やんで握る。
いつか会った時よりも、今まで見てきたものよりも何処か安心している表情で少女は眠るのであった。
「……花火、私は」
「知ってる、こうなったのは此奴の自業自得だ、別にアオや三神が遅かったからとかなんて思っちゃいないさ」
戦いは終わった、願望の覚醒と共に。
願望は遂げられた、いつか在りし彼女の傍で。
久方ぶりに揃い並んだ三人の背、各々託された願望が見える。
帰路たる装甲車内での揺れが唯一、騒がしくしている中で気まずい雰囲気が流れていた。
学園での下車の後。
医療室行きの担架に視祇が乗せられた横で麻酔で眠るよりも先に花火は、蒼実に真実の一部を手に入れた事を告げる。
「声が聞こえたんだ」
「……ルシアをああしたのは、機神のせいだって」
「機神? 」
そう話をする内に運ばれる花火を目で追いかけつつ、初めて聞く言葉に顎に手を添える蒼実。
機神……そのままの意味であれば機械の神という意味ではある。
然し、花火が発した以上、適当なものとしてスルーするわけにもいかない。
そんな中で蒼実が出した結論は、三神に問うことであった。
to be continued。
「次回予告」
覚醒の咆哮によって、一つの願望への終止符は打たれた。
然し、未だに人類への光明は訪れず、月は静かに近づく中。
遂に蒼実は、彼に友の発した言葉の意味を問う。
次回
「彼は誰の紅 蒼く咲く凍りの花」
第五十一話:誓
「……機神、という単語に聞き覚えはある?」




