第四十八話:母の戦い、子の戦い
皆さん、あけましておめでとうございません。
まだ一日前でございますね、年末でございまする。
新人小説家のハルトです。
色んなことしますよね、お年玉をあげる側なりもらう側なり、お雑煮おせち。
そんな中で更新致します、来年になっても「彼は誰の紅 蒼く咲く凍りの花」をよろしくお願いいたします。
紅色の光を纏い、飛行する意相者ミリアス・アールヴ。
数分足らずにて東京上空へと到着、同時に地平に広がる月の機神の眷属と化した我が子らを確認。
その言葉を聞くものが居ることが居ないと理解していても独り呟いた。
「……すまない、私の子らよ、今しがた楽にしてあげるとも」
そんな独白たる呟きの間に地平より放たれる小さな破壊光は、大群ともなれば一秒足らずで一万は優に超えて飛んでくる。
それに対して、ただ空中をのらりくらりと避けるだけのミリアスは。
「暦千無法総滅陣」
両掌をその場で合わせながら、数打ちゃ当たると言わんばかりの破壊光を呆れたように目で追いながら、母たる星の力の一端を見せん。
それは天を埋めつくしながら、空間を切り裂きながら現れる千を越える武具の数々。
人という歴史が紡いだ、力そのもの歴史。
神話、架空、妄想、空想、想像の類に関わらず射られる無限の矢。
「さようなら、我が子達」
天を仰ぐように挙げていた手を、軍隊に命令を下すかの如く振り降ろす。
その姿は、まさに災獄と呼ばれる雑兵からしてみれば、神と呼べる程のものであったろう。
そう、それが上手く行っていればの話。
数分後、地平に群がっていた雑兵の災獄共は、全て土煙と共に消えたと思い、その場から去ろうとするその瞬間。
───宙より穿つ、裁きの月が放たれた。
それは、一瞬の出来事だった。
腹の中央に小さな穴が空いたと思えば、背部より夜が明けたのかと勘違いしてしまうほどに眩い光が、槍となって降り落ちてきた。
成層圏から放たれたソレは、ミリアスの肉体を一瞬にして芥へと変えていく。
肉体という個を保てることなく、ミリアスは血煙と消えると共に地平に居る雑兵も全てが消えた。
静寂から空を隠していた夜闇が、暗雲が掻き消えていく……否、掻き消されていく。
二体ではなく、一体として再度成っていた機神の手によって。
そして地上から見えるは巨大な月、もう既に時は無いと言うように、月が既に肉眼でクレーターが捉えられるほど近しい距離に来ていたことを、ミリアスは肉体が消える直前に確認したのであった。
「ごめん……よ、暁」
*
一方で、三神は未だあの時の温もりを鮮明に覚えていた。
抱きしめられるということは幼少よりあったこと、だが然し、それでもあの時の其れは……。
「……三神」
そんなことを考えている余裕は無いもので、今現在俺は査問会に掛けられている。
「何故、脱走したの?」
「脱走、ではなく半ば強制的な転移だった、無実とはいわないが……この手錠外してくれないか」
三神の手首には、巨大な手錠というよりかは、無骨な手甲と言われても間違えうるレベルだ。
手首の辺りには片手五本ずつ、謎の液体の入った注射器らしきものが刺さっている。
痛み止めらしいが、本当にそんなものなのだろうか。
「蒼実さん、この証言に関してどうお思いですか? 一年前の裏切り者を信じるつもりで? 」
それらしき生徒が質問する。
査問会と言っても、実質的には刑罰を下す又は尋問を行う裁判に近しいものだ。
一年前、一番身近にいた蒼実が裁判長らしき生徒に詰問されている。
今この場で、彼女が話さなければきっと自分は処刑されることだろう。
どう言うかも、どうするかも俺の自由だが……。
「けど、彼はこうして戻ってきたはず──! 」
「だが、彼は裏切り者だ、その癖……医療室を抜け出したと言うじゃないか? 」
そう、この裁判及び査問は、此方に一切有利な証拠が無い。
何せ、転移術なんてものはこの世に一つか二つ片手で数える程度しかない上に、其れの使用者もあくまで推測や予想の類に過ぎないのだ。
「……その問答、学園長権限により待った、とさせてもらおうか」
そんな中、横槍とも言える形で其の問答を止める生徒の中から抜けてきた頭一つ大きな影がある。
学園長 沖神 胡桃だ。
「彼は、戦力という中で比較すれば君たちよりもずば抜けて強い、それ故に敵側の捕虜として何なら戦場で死なせても、と使い道がある」
「ですが……! 」
「ですがもへったくれも無い、これは学園長としての命令でもあるのだ、従わぬのなら外に出てもらおうか」
「……わかりました、では、これにて閉廷いたします」
そんな権利の行使によって助けられた自分は、改めて第一部隊へ戻ることになった。
黒鋼の鎧で顔を隠さず、また仲間として受け入れられるかは……と誰かが医療室の扉を叩く。
自分はあくまでも被疑者。
所謂、加害者な訳でこうして個人用の医療室に手錠を繋がれて拘束されている、そんな奴に会いに来る珍しい人。
大抵、察しは着くが。
「開いている」
「三神、久しぶりですね」
人として未成熟ながら大人びた気品をその身に纏い、入ってきた蒼実 凍花。
戦っていた際に感じたのは、そういうものなのだろうか。
「……ああ、一年と数日ぶりだな、一人か? 」
「えぇ、花火と新しい新人の子は二人で任務に当たってます、私は、あなたに面会という形で会いに来ました」
私は、何だか気の毒だと思った。
彼は裏切り者だったが、こうして戻ってきてくれたのだからそれで良いのでは? と思ってしまうが、そうは行かないのが今の世の中だ。
「その、体の方は……?」
「明確な不調は無いが、全身の傷が未だに痛む」
「……そうですか、無理して復帰しなくても」
彼女は、気の毒そうな顔で目を逸らして言う。
人を心配する時、目を逸らすのは昔からの彼女の癖だ。
自分がまるで悪いことをしているような気にもなったような、そんな顔。
「いや、俺は俗に言う捕虜だ、故に出ない訳には行かないし、選択肢は無い」
「ですが─────!」
その時、目障りな音で鳴り響く校内放送。
それは厄日へ向けての始まりの鐘、虎視眈々と此方を捉えた終わりの始まり。
「第一部隊長 蒼実 凍花は第一部隊捕虜、三神 暁を連れ至急、作戦用通信室まで来てください」
「……三神、行けますか?」
「ああ、だが……歩くのが遅い、故に車椅子を押してくれ」
そしてゆったりと三神が車椅子に乗った直後の事、蒼実が呟いた。
「飛ばしますよ! 」
「あ? えっ……待て、少し待て、緊急事態かもしれないが、それは────!」
一瞬の出来事だった。
加速が着くまで僅か二秒以下、顔が正面から見れば凄まじいことになっている。
学園校内とはいえ風が顔に当たり、全身が痛むが蒼実は多分この後文句を言っても、呪詛のことは伝えていなかったから仕方ない。
早い、早い、廊下を曲がる瞬間に床から一瞬火花が散った気がする。
作戦用通信室まで僅か、二十秒足らずで到着。
「三神……?」
「……し、しぬ」
あまりの速さに物凄い顔になっているし、苦悶の表情に満ち満ちている三神を覗き込む蒼実。
顔面蒼白とは、まさにこの事である。
そして三神は呪詛のことについて語れば、蒼実はこれから気をつけると謝罪の意を見せながら、作戦用通信室の扉を開いた。
これから来る、脅威を未だ知らずに。
to be continued。
「次回予告」
災獄の手によって攫われてしまった視祇と花火。
願望による対を成す花火と、もう一人。
劣情、嫉妬、憎悪、嫌悪。
負に入り乱れた戦場が、赤き少女の覚醒を促す。
そして、機神の力の一端さえも其処に現れてしまう。
次回
「彼は誰の紅 蒼く咲く凍りの花」
第四十九話:機神・介入。
理性は既に、破綻している。




