第四十二話:一年後、地獄の最北で。
こんばんは、数日ぶりの更新となります。
新人小説家のハルトです。
仕事を辞めてからの新しい職探しも、なかなか上手くいかず、正直精神的に参ってしまいそうですが小説を書くことだけはせめて続けていきたいと思います。
では新章第四十二話、どうぞ!
あの惨劇から、一年が経った。
災獄との戦いは一向に変わらない、情勢も言ってしまえば、あちらが有利。
単に戦場と戦術と世界の大きさが変わっただけであり……世界、と言うにはあまりにも小さ過ぎる。
何もかもが不足したこの世界にとって、災獄も犯罪者も余り変わらないものだ。
一年前、北海道内に避難してきた私たちは最北端にある学園ビフォーダウンでの、大規模な災獄侵攻に対して即時戦線に加えられた。
半年間にも及ぶ攻防の末、一部の都市を犠牲にしながら辛くも勝利を収めることが出来た。
それから、半年後。
人類最初期の災獄侵攻による地殻変動によって雪真っ盛りの一月、北海道旧札幌市内跡地。
「……隊長、其方に一体、逃げました」
淡々と状況を告げる聞き覚えのよくある声がノイズを混ぜて、デバイスから響く。
「彼らにも逃げる、という考えがあったのね」
応じて返す此方の声も、感情の籠らない酷い物だ、一年前の私であればもっと抑揚がある声だったのだろう。
建物の骨組みだけが見事に残り、雪だけが降り積る廃れたビルの街。
砕けた白骨、肉の着いた腐乱死体。
誰かだったものが転がる戦場の中。
旧道路に沿って逃げてきた小型の災獄を廃ビルの鉄骨から踏み付け、太刀の形をした兵器で、確実に弱点にあたる頭部を貫く。
いつも通りの仕事だ。
「……現時刻を以て作戦終了、旧札幌地区内に潜伏していた災獄は掃討完了」
「戦闘レポートと現地活動の報告書作成の後、学園長への提出を各自行う事」
"真っ赤な"血で濡れた手をハンカチで拭い、太刀は払って血を軽く落とす。
手入れ自体は、学園に戻ってからでいい。
「は〜い……めんどくさぁ……」
人一人にはあまりある程の巨大な銃……と言うよりも"砲"を持った私よりも少しばかり背の低い少女が近づいてくる。
「文句を言わないの、視紙」
彼女の名は曙 視紙 。
数ヶ月前に契約者になったばかりの新米。
契約族は不明、半年前に起きた災獄侵攻における戦災孤児……らしい、私も詳しくは知らない。
家族の事は一切思い出せないらしく、唯一覚えているのは単身出撃の私とは別の部隊が救出に来るまで、外套を纏った女性に守られていたこと。
「まだ、思い出せない? 」
「えぇ、思い出せるのは、あのローブの女の人の後ろ姿だけです、何か喋っていたのは何となく朧気ながら覚えてるんですけど……」
二人で、思案し語りながら歩く雪旧道路。
世界の状況は、悪化の一途を辿っているとしか 呼べないのが現状だ。
日用品全て、働き手、それら全てを管理する統治者不足。
現在、世界で最も偉いと言えばビフォーダウンの学園長と元学園長のルシファーくらい。
たった二人の統治者では、全てを見切れないのもまた事実である。
「あっ、そういえば今日のご飯、葡萄味のレーション……もう飽きましたよ、私〜!」
「文句言わない、これしかないんだから」
契約者の基本的な食事は、完全な栄養食たるレーションで基本的に飴のように果実系統に近い風味にされることが多く、質はまちまち。
レーションではなく、粉の塊……。
言わばブロックバーのような形も選択できるが、甘くも苦くもなく壁の様な味で味気ない。
学園内での生活が許されてる一般生徒は、何かふかした芋らしきものとサラダとパン、あとトウモロコシのポタージュ。
正直、一般生徒の方が羨ましい。
「なんか、悲しそうですね、隊長」
「気の所為よ」
半年前から世界情勢が悪化が原因で、学園側……つまりビフォーダウンの庇護下の強い、又は直結で管理される各地避難所では、日夜連日での盗難、強奪は当たり前になった。
物資と食料が豊富に置いてあるからだ。
現在では、契約者数人と一般的な兵器で武装した警備員達の交代制によって厳格な管理網が敷かれ、避難所全体が現物支給の形で必要に応じ、取引される。
一年前まで使用されていた紙幣や通貨は、使用出来ず、限られた物資から交換する。
言わば、物々交換式に変わっており、人類文明が廃れつつある証拠でもある。
「全く、嫌な世の中になったものね……」
「隊長が爆心地にいた頃は、まだ世界は広かったんですもんね、都会には大きなタワーもあったとか!」
「東京タワーの事?嗚呼、アレなんか、ただ高くて風が強い日は揺れて人の恐ろしさを増長させるだけの建物よ」
半ば、その期待を打ち砕くように。
二度とあれを見る事は出来ないわ、と言葉を付け足して塗装が剥げ錆び付いた装甲車へ乗って学園へと戻っていく。
*
「ご苦労だった、二人とも」
「……戦場で特に異常は無かったか?」
学園長が問う。
彼の名は、沖神 胡桃。
御歳五十歳の契約者の指揮官であった人であり、先の災獄侵攻に際して作戦中に亡くなった前任の学園長、沖神 桃湖の父親だ。
享年二十歳、彼女の最後は十歳程の子供を庇っての事だそう。
「異常、とは?」
彼は資料を眺めつつ、私の問いかけに何処か普段よりも厳格な顔付きで答えを返した。
「近頃、戦場内で黒い鎧を纏う"魔神"と噂される契約者が目撃され、部隊の作戦行動を阻害する目的で行動していることが見られている」
私達二人にのみ渡された"現場"の写真と、複数回に渡る謎の鎧を纏った契約者の調査書類。
「先日、邪魔立てするのみであった魔神によって、災獄殲滅作戦行動中の第十一部隊を通信支援する為、現場に待機していた生徒が殺害された」
「学園内の作戦会議室からオペレータが作戦行動不能と判断、連絡したものの既に遅く、撤退予定の第十一部隊全員が災獄によって捕食された」
淡々と並べられる事後の言葉の羅列を受け取りながら、頭に浮かんだ疑問を喉の奥に押し留め。
学園長が私に対し手渡したファイルの写真を見て近頃、魔神と呼ばれる契約者の正体を理解する。
「あか、つき……?」
写真に写っていたのは、見覚えのある鮮血に染まった竜の翼と黄昏色の粒子。
「暁って、あの裏切り者の……?」
この学園内に元からいる彼ら共に私達にとっても、一年前の東京崩壊の原因となる内の一人。
もしも裏切ることが無かったのなら、彼の契約族によって脱出できる人間も居たかもしれない。
「……彼が、どうして生きているの? 」
つい外れてしまった敬語に、私は唇を噛む。
悔しさだったからか、悲しさだったからかなど覚えてはいない。
「君の元同僚……花火君は覚えているかね? 彼女も先日、ここビフォーダウンまで"徒歩"で救援を求めに来て、現在は医療室にてリハビリを続けている」
その上で花火の無事を聞いて、途端に泣き崩れる私を他所に視紙が問いかける。
「その、花火さんと魔神に何の関係が? 」
「花火君は、ここに来る最中で彼と戦闘を行った例を持つ一人だそうだ」
「満身創痍の中でありながら、彼の身に付ける鎧に傷をつけ、撤退させることに成功した」
「そして、その中で呼び出した逢魔竜バハムートに似た竜と言い、恐らく花火君との戦闘後に第十一部隊の装甲車を強襲したと思われる」
執務室内の椅子から立ち上がり、曇り空の白雪と廃墟に満ちた外を眺めながら、学園長は要件を話し出す。
「このファイルを渡したのは、他でもない君たち二人に、彼の捕獲又は介錯を頼みたいからだ」
その言葉を聞いた途端にハッとして、膝を着いていた私は即座に立ち上がり、学園長に鬼気迫るように詰めよる。
「何故です!? 彼は……」
「彼は既に人を殺したのだ、それに加え一年前、君たちを目の前で裏切ったのは誰だ? 彼自身の意思だったのだろう? 」
「……彼の、三神の意思で行われた事です、ですが! 」
反論の意思を見せ鬼気迫る様子で近づいた私の肩に、手を置く学園長。
その表情は、酷く割り切ったものだと気づいたのは次の言葉を聞いた時に。
「……捕獲が困難な場合、君に殺害を命じる、これは若者を諭し導くだったはずの大人として、契約者という反撃の狼煙を集める学園長として……最大限出来る譲歩だ」
目に光は、灯っていた。
ただそれでも、学園長という立場と戦場で死んだ自分の娘と似た立場の年端もいかない若者を、もうこれ以上死ぬ姿は見たくない。
ある意味での懇願であった。
全てを話した後に、沖神学園長は手を離しまた静かに椅子に腰掛ける。
その表情を見て、私は資料を手に取って選択した。
「……了解、旧契約者第一部隊、部隊長蒼実、部隊員視紙、以下二名、任務の承諾を完了しました」
願い(それ)に応え、敬礼と一礼の後に学園長執務室を後にする。
無論、足取りは速く。
医療室に居るという花火に会いにいく為というのもあるが、この時の私は何かに凄く焦らされていたのかもしれない。
───今、私達は何も知らなさすぎるから。
彼の真意も、半年前の侵攻の際に行方不明になった第二部隊に加えて、世界の統治者であった八卿議会らの所在も。
何も知らないから、今は立ち向かう。
敵なのかもわかりはしない、地球の救難信号から生まれた防衛機構に。
to be continued。
「次回予告」
世界は畝り、捻り、変わり続けていた。
まるでお前達は巨大な生き物の上に、改めて居るんだと言う主張を聞かされたかのように。
地獄から生まれた災いは、惑星らが地球という生物に捧げた人類という敵を排斥する為の防衛機構。
そして、のうのうとした顔で生きていた私達こそが地球という存在にとって敵であったこと。
それら全てを知りながら、これからの私達は未来について話し始める。
次回
「彼は誰の紅 蒼く咲く凍りの花」
第四十三話:世界の話、そして……。
「総てを撃滅せし黄昏が、来る。」




