第四十一話:終焉
皆さん、こんばんは。
新人小説家のハルトです、約二ヶ月ぶり以上の更新となります。
色々あって恥ずかしながら4ヶ月程度で仕事を辞めることになりました。
そんなこんなあった為、暫く休養をいただいた所存です。
本日から出来る限りペースを取り戻して更新していきたいと思いますので、何卒よろしくお願いします。
「……そうね、あなたは何者なのかしら」
ルシアは三神の方を向き呟いた。
状況は硬直している。
ルシアの呼び出した契約族ウロボロスの中に隠されていた罪の一体と。人類の暴食を再現され、地球のSOSに反応して飛来した。
冥王の名を冠する星の意識が創り出した者、蝿の王グルゼ・バグス。
それを従える双鎌の承器の使い手である。
ルシア・エスペランタ・A・アテルマ。
それと対峙する形で正面に立つ、拘束具をつけたままの花火 蓮華と。
彼女の契約族、焔を纏いし機械仕掛けの踊子。
是継焔姫ヤルバ・ボルテ。
さながら、蟲の怪物とそれを従える魔王に対する勇気ある勇者と言ったところだろう。
「三神! 立たなきゃ、コイツらの目も覚まさせてやれねぇだろうが! 」
「……花火、駄目、今の彼は」
糸を失った操人形の様に、その場で膝を着き項垂れる三神。
彼は自分自身の真実を突き付けられた事によって、精神的なショックと動揺を隠し切れない。
生きる指針でもあった彼の記憶を求める旅は、これで終わった。
櫃さえ、契約族さえ居なければ。
彼女たちが戦いに巻き込まれる事はなかったかもしれない。
戦うのが、大人達だけで済んだかもしれない。
大人たちだけの犠牲で今居る彼女達の未来が守れたのなら、それだけで済んだはずだというのなら。
「……神威原」
「なんだい?三神、命乞いなら─────」
最後に、この言葉を聞く前に。
せめて三神の手を取れなかったのか、とあの時の私は心内で今でも後悔している。
「俺を、連れていけ」
「……三神さん、私も行きます」
三神のそれに準ずる形で、三日月 黒も神威原一同へ加わろうとする。
「────良いのかい、彼女たちを置いていっても」
「執拗い、今の俺に災獄と戦う意味はない……俺は俺が何者か知るために戦っていただけだ」
「自分の出自を知らないということは生きていることに意味がありません、それに……アナタ達と行けばきっと、私の出自も分かるかもしれませんので」
淡々と、二人はそんな答えを提示した。
それはつまり今の人類と敵対する道を往く事であり、それは。
「待ちなさい、三神、黒」
「その行動は、いつの日か必ず反撃に出る人類と敵対するという意味」
「……今のあなた達には、そうするだけの覚悟があるの? 」
蒼実は問い質す、信頼は既に捨てて。
今までの会話、これから先の世界の話を瞬間的に考え、問いを投げた。
それだけの話。
「嗚呼、覚悟はあるさ、少なくとも────」
「お前みたいに、覚悟が揺らいでいるわけじゃない」
なんて、大嘘吐きなのだろうか。
彼の目は言わずもがな、だが泳いでいる。
私よりも今にも泣きそうな目で、独り善がりな顔をして此方を見据えている。
花火はルシアとの戦闘に入ってしまったが為に、ここからは逃げられない。
三神も、三日月も裏切った。
此方には来ない。
ならば、残るのは私とアーサーのみ。
「……逃げよ、蒼実、三神、三日月共に裏切った今、貴様にできることは無い」
突然と顕現したバハムートが私に言った。
神威原兄妹も、まるで目的を果たしたかのような顔つきで今更、追撃してくることもないだろう。
「……逃げて、どうするんです? 」
「逃げれるだけ逃げよ、地上は恐らく……地獄の様な有り様ではあろうがな」
会話を続けるバハムートと私の間を遮るように、手錠に繋がれたままのアーサーが走ってくる。
「蒼実さん、行きましょう」
「花火さんはきっと、私たちの方を振り向きはしないでしょう」
手錠を繋がれたままの花火は、己が契約族共にルシアの呼び出した蝿の王と戦闘している。
花火の強さ故か、はたまたその内に在る北風 南の経験と知識などがあるからこそか。
此方を振り向かず、信じているかのような背を見せながら戦っている。
ならば。
「……私たちの負けであることは認めます、神威原兄妹」
「けれど、私たちはいつか戻ってくる、その事を忘れることは無いように、その裏切り者の頭ミソに覚えておきなさい」
満足気な顔の神威原兄妹への怒りを振り絞って叫んだ蒼実は、神殿の外へ駆け出し。
アーサーはそれに追従する形で後方からついて走る。
彼らは追いかけてこない。
一人の契約者と一人の天止。
独りぼっちになった二人が、空と宙の境にある都市から飛び降りた。
灼けて赤くなった空を後目に、今は何も出来ない無力さをかみ締めて真実を抱え。
地獄となった地上へ墜ちていく。
*
時に、人の悲鳴が聴こえた。
時に、荒る焔と爆発音がした。
時に、咽び泣く人の声が聞こえた。
平和だった日常が崩れさる瞬間。
そういうものは案外、唐突にというやつで。
「裏腹……裏腹っ! 」
「……生きてますよ、何とかッスけどね」
一人の少女は、少年を背負って学園まで撤退する。
第一部隊が地上を離れ、約三時間後。
突如、地上に複数の獄門が確認され、行方不明になった第二部隊隊長と第三部隊を差し置いて。
地上に残っていた第二部隊の三人のみで数時間にまて及ぶ災獄との死闘を繰り広げていたのだが、戦いの中で第二部隊の契約者、裏腹 壱が負傷した。
「……死ねないわ! こんなところじゃ! 」
「わかってるっスよ、けど……! 」
八卿議会全員も東京全域に出向く形で応戦を続けていたが、過去における周期的に現れ、質の高さを優先、物量においては少数という形とは違い。
一体一体の戦闘能力の質と、獄門からの出現速度がこれまでとは比べ物にならない程のものである。
この状況を見兼ね八卿議会の一人として東京全域の統治と、学園を任されていたルシファーは、東京全域の放棄を行うことを宣言。
箱舟とも呼ぶべき十五台の装甲車に民間人と学園の生徒らを乗せ、道北への避難を開始することとなる。
一台あたり100人、15台1500人の小さく多い箱舟で、誰も彼もが我先にと思う中であるはずだというのに、我先にという人間は居らず、若年層の人間から順序良く装甲車へ乗せられていく。
「焦らないで!まだ余裕はあるから! 」
誘導する声は、名も知らぬ女性のもの。
契約者でも学園の関係者でもない、ただの一般人が赤の他人を思い誘導する。
誰かを想い、声を上げる。
誰かを救うが為、走る。
これは、人類そのものの英雄譚に他ならない。
人類皆が英雄になり得る資格を持つものだ。
特別な力がなかろうと、どれだけ平凡な人生だとしても、そんな人生に幸福すら与えられない人だとしても。
そんな彼らを墜ちる天界から、子供が憧れたヒーローを観るように紅色の眼を輝かせ、眺める。
誰かの英雄になるはずであった男が居た。
「……どうしたんだい?三神、地上にもう用なんて無いだろう? 」
「行こう、僕達にはやることがあるのだから」
複数の装甲車が、新東京都内から離れ。
装甲車が地面から舞い上がってしまいそうな程の爆風に当てられ、地表にあった全てを吹き飛ばされた数秒後。
目の前に広がった景色は、まさに。
「……世界の、終焉」
装甲車に乗っていた契約者、佐々呉 岬は呟いた。
その景色が、自分たちが招いたものなのかと思える様相だったから、何よりも自分たちの無力感に苛まれてしまいそうだったから。
未だ世間すら知らない怯える子供たちを宥める契約者の力がない一般生徒の姿が、とても酷く辛そうに見えた。
そんな景色が、彼女にとって鮮明に残って。
──空、希望となりうる可能性が墜ちる──
翼を失った天止と蒼い瞳を持つ少女。
その名を蒼実 凍花。
いつの日か、地獄に変わり果てた世界を取り戻す為、戦場を駆けた英雄にして。
世界を滅ぼした一人の"誰彼"を愛した女性の名前である。
「次回予告」
新東京陥落から一年後。
世界は滅びの一途を辿り続けていた。
人間同士の争いは絶えず、人類は一丸となって災獄という世界からの排斥機構に対して立ち向かえなくなる日々に。
そんな世界で、抗う少女は変わらずに居た。
その瞳の輝きが消えることは無く、ただひたすらに抗い続ける為に。
次回
「彼は誰の紅 蒼く咲く凍りの花」
第四十二話:一年後、地獄の最北で。
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「次章予告」
あれから、一年が経った。
世界は災獄という敵に対しての反撃に出る事すらも許されることなく、疲弊していた。
そんな世界の中で、未だに抗うものたちが居る。
災獄という敵の真意を、世界と対話する可能性を思案し、反撃の機会を窺い続けるものたち。
そして、全ての真実が明かされた時。
世界は、人類は、災獄は、彼は。
次章
「彼は誰の紅 蒼く咲く凍りの花」
六章:黒と白と鋼の誰彼。




