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彼は誰の紅 蒼く咲く凍りの花  作者: 新人小説家ハルト
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第三十八話:雨、終わらぬ戦いの様で

こんばんは。

新人小説家のハルトです、少しばかり……では無いですね。申し訳ありません、更新が遅れてしまって。


皆様のご期待にできる限り添えるだけの作品をお書きしたいので、しばしお付き合いのほどよろしくお願いします。

「……雨ですか」


京都攻防戦から約一ヶ月。

七月初頭のジメジメと湿度の高い気温の中、雨が降る。


私達第一部隊は第二、第三部隊と共にWOへ帰投することはせず、未だに治らない傷の療養の為、FL学園内の学生寮を借りて生活していた。


「……雨だな、蒼実」


窓際で外の雨模様を眺め椅子に座っていた私の対面に、珍しくアイスコーヒーを二つ持って座る三神 暁。


「暁……」


「なんだ」


ふと、顔を眺めてしまう。

別に気になっているとかではなく近くに居られると、何となく。


「いえ、珍しいですね、アナタがそういう気が利くなんて」


「皮肉か何かか」


機嫌が悪いのだろうか、と何となく声のトーンや顔の様子から考えてみる。

そういう様子ではなさそうだが……、と読書を始める彼の様子をマジマジと見つめてしまう私。


「その本、面白いですか?」


三神自身が答えてくれる訳でもない問いかけを何度か続けている内、急に。


「お前は、俺を人だと思うか?」


「急に、どうしたんですか?」


その顔は至って真剣そのもの、からかったような質問でもない。

心の底から来る悩みを初めて人に吐露するような、そんな雰囲気。


突然と来た質問に対し、私は冷静に答える。


「その左腕があってもアナタは人だと、私は思います」


瞬きする合間すらなかった。

椅子に座る姿勢から途端に私の方へ飛びかかってくる其の様は、まさに獣の如く。


椅子ごと腕を床に押さえつけられる。


ただ、彼の方から流れてくるものに気づくまでそう時間はかからなかった。

人前で見せたという点において今思えば、私が始めてだったのかもしれない。


「泣いているのですか、暁」


彼は何も言わない。

私は彼を見て、何となく自分と重ね合わせた。

最近夢に見るようになった、自分が幼い頃の記憶。


母に、弱さを隠す子だと言われた時の。


「大丈夫、私たちが居ますから……アナタは人だから、アナタは怪物なんかじゃない」


雨音で掻き消される小さな声を聞いて、私は彼を静かに抱き寄せる。


そう、彼も私と同じ。

弱さを隠そうと生きている同じ"人間"なのだと確信する。


時間は人の傷みを癒さない。

どれだけの時が流れても、体に着いた傷は癒せても心に刻まれたものは永遠に。





「……花火さん、珍しいですね」


FL学園内図書館。

三日月姉妹と花火 蓮華が本を手に取って、対面に座っていた。


花火が本を読んでいるのは珍しい、と言いたいのだろう。


「まぁ、ちょっとな」


「何だか隠し事〜?」


気まずそうな顔をする花火を、その隣に座り茶化す三日月 白。

花火はそれに対して苦笑い、半分の安堵も混ぜた顔をする。


「……どうしたんです?」


「いや、この戦いはホントいつになったら終わるのかなって……」


「終わりはしないでしょう」


即答。

三日月 黒は嘘を言わないから分かってはいたものの、直後に言われると意外に来るものがある。


「どうしてそう思うんだ?」


「…人類の歴史は争いの歴史、人は欲と我が強すぎる生き物です…という所でしょうか」


「災獄という脅威がいなくなったところで、利害の破綻が起こり、人同士の争いが起こるのは明白かと」


「はっ、そりゃ言えてるよな……」


歴史が証明している。

花火の嫌う正論、だがまさにそれが事実。


現在の世界状況も併せて言うのであれば、災獄という脅威に対し、人類は総力を上げて戦わなければならない。

それだけの敵が居るからこそ、今の状況と今の世界がある。


もしも、それらが終わったと考えれば、今度は災獄襲来によって被害の少ない安全な地の奪い合いが始まるに違いない。


「ですが、人の可能性という点も考慮すればきっと人は前に進めるハズとも私は思います」


「黒、お前……変わったな」


「……誰かさんのせいで、人の可能性というのに魅せられてしまったと言った所でしょうか」


その誰かさんが、誰であるかは花火にとって検討がつかない存在である。

黒自身、このような恋慕に近しい感情を抱くとは思わなかったから。


「ん?どうした、黒」


「いっ、いえ……なんでもありません」


読書に夢中になっている花火を、つい眺めてしまう黒。

この気持ちを抑えられない訳では無いものの、彼女を見ているとモヤモヤしてしまうので困る。


暁と同じく、たったの二ヶ月しかこの人達との交流をしていないとはいえ、こうも気持ちが揺さぶられるものなのだろうか。


「なんか変だよ〜、黒〜」


「へ、変じゃないですよ……白の方こそ、いつも変でしょうに」


無邪気(むじゃき)に笑い合う姉妹を見て、かつての友人を思い出す花火。

もしも、自分が南を助けることが出来ていたのなら。


もしも、あんな風になってしまう前に本音で話し合えていたら。

何か違っていたのだろうか。




八卿議会、人ノ理ノ間。

新京都(しんきょうと)に待機している第一部隊らを水晶玉から眺めるクルアーン。


その横に立つ外套を被る彼又は彼女。


「まだ、正体を明かす必要はないでしょう?」


「そうだね、それもそうなんだけれど……ほら、下がうるさくてね」


一つ会話を交え、黙するクルアーンと外套者。

八卿議会員(はちきょうぎかいいん)が出払っている今であるからこそ、話せる会話とも言える。


「彼の様子はどうでしたか?」


「まさか、無いようにしたはずの心を身に付けているなんて思わなかったよ、いやぁ……子供の成長の速さは偉大だね」


へら、と口元を上げながら告げる外套者(がいとうしゃ)

それに対しクルアーンは、鋭い眼を向ける。


「そんな悠長なことを言う暇が、アナタにあるのですか?」


「無いけどね、子供の成長を見守るのは一応とはいえ親の務めだから、下がなんと言おうと私は満足するまで戻らないよ」


一つ、大きな溜息。

秩序卿(ちつじょきょう)ですら一瞬にして殺られた相手に対し、彼処まで戦える可能性(かのうせい)が芽生えたのだから当然の答え、とも言えるのだが……。


「ですが、アナタの役目は……」


「解ってる、だから協力して欲しいって言う申し出を今しに来たんじゃないか」


外套のフードを取り、その顔を(あら)わにする。

三神の育ての親と変わらない、エリアスもといミリアス・アールヴのもの。


何故、その顔であるのか。

何故、そうであるのか。


未だ、問うことは(ゆる)されない。


「……分かりました」


「ありがとう、クルアーン、あと少しだけ背中は任せたよ」


(かす)む姿を追うことはせず。

クルアーンはまた一人、水晶玉から弱さを抱え進み続けるもの達を傍観(ぼうかん)し続ける。


その姿を陰に隠れ見ている者も居る。

天頂卿(てんちょうきょう)ハデス、明星卿(みょうせいきょう)ルシファー。


「ハデス、貴様、アレが何か解るか」


「解らん……だが、"アレ"は我らが関わっていい事柄ではない」


両者、(しば)しの沈黙。

ハデスとルシファーからの視点では、人型に空間が捻れているのみ。


外套(がいとう)が一着、そこに浮いているようにしか見えなかった。

それ以降二人が言葉を交わすことはなく、両者対する廊下を歩いていく。


地球というこの惑星(ほし)

今、終末が迫っていることを二人は知る由もない。

ただ、逢魔の竜とその契約者を除いて。


to be continued。

「次回予告」


七月の終わり休養を終え、帰還した三神達。


北風 南を失った喪失感を背負い、新東京へ戻ってきた三神達が眼にした光景は、予想だにしないものであった。


次回

「彼は誰の紅 蒼く咲く凍りの花」

第三十九話:終末の序章



───そして、戦いの舞台は東北へ───


「次章予告」


墜ちる天の世、火の夜、運命に縛られる者。


轟く地の世、夜を駆ける黄昏、運命に挑む者。


黄昏の剣は承け継がれる。

未来(あした)は未だ暗く、夜明け前はまだ遠い。


そして、また一つ散っていく生命(いのち)


次章

「彼は誰の紅 蒼く咲く凍りの花」

第三章:人と天と災と/天墜(てんつい)


続四章、五章:黄昏(たそがれ)誰彼(たそがれ)/新東京陥落・世界の真実篇

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