第三十七話:黄昏と地獄と
こんばんは、10日ぶりほどの更新となります。
新人小説家になりたいハルトです。
X(旧Twitter)の方では、現在RTで皆さんの小説をお読みしています。
……読めない方もいたら、そこはごめんなさい。
最近は遅れてでも更新することに、色々理念という程では無いですがこだわりを持ち始めてます。
継続は力なり、って言いますからね。
では、三十七話どうぞ
一瞬にして解かれる肉体を気にはせず、地獄へ突っ込んでいく。
気が付けば、その体躯は完全に崩れさる。
だが、瞬きの間に再生"される"肉体。
「解いたハズだと言うのに……!」
その反応は当然の物。
陣を組み上げ敷く技術。
かの"底"を利用した基盤ですら劣っていない。
「……解いたから、なんだって言うんだ」
何度も解く、解かれる。
毛糸で編まれたセーターのように、筋繊維のほつれが身体から出るほどに。
だが、それよりも陣による再生効果の方が速い。
彼の敷いた陣は、真の力自体が不明ながら、一時的に死の回避という形でその力を顕現させている。
「……その程度の力で調子に乗るな!」
死を回避し、背後より刃で尼剌部陀の肉体を穿つ暁。
だが痛みなど尼剌部陀にとって障害にすらならず、心臓は未だ動き続けている。
暁が刃を抜くすんでの所で、肉体を急速に再生する尼剌部陀。
刃を胸に刺した状態で上半身を180度回転。
暁の顔面を同時に二つの拳で殴打、もう二つの腕で彼の両腕を掴み取り、陣空間内の遠くへ投げる。
そこで彼は、彼が冷静さを欠いた事を勘付く。
「ちっ……」
何故、それが分かるのか。
何故、そう分かるのか。
自分は今、問う猶予などないというのに問いてしまう。
そう胸に問う内に彼は、尼剌部陀は、暁と額をぶつけ合うほどに接近。
脚を砕かんと蹴りを放つ。
「貴様さえ居なければ、貴様さえ、あの時生まれなければ……!」
それは質量を持つ残像。
一撃の蹴りが余りの速さに残像を持ち、更にその残像がその場に留まることを知らず。
多重となりて相手へ飛んでいく。
一撃を防ぎ、次なる攻撃へ移らんとする相手を確実に死へ落とす。
「くっ……まだまだァッ!」
喉を枯らし轟く声。
ここまで怒りに吠えたのは、あの新東京の時以来だろう。
今ならば、今のこの時ならば掴める。
"乖離発動の感覚"、頭に現れるイメージ。
手首をナイフで切断し、露わになる生々しく脈動する血の管、そこへ手を突っ込み思い切り引っ張りあげる痛みの心象。
そして発動する紅き光。
「乖離───」
空間外にて呼び出された逢魔竜。
身体は崩れ、光へと新生。
陣にて遮断された空間を突き破り、暁は纏う。
「……まだ抗うか!暁ィッ!」
自分の名を怒りのままに叫ぶ尼剌部陀の姿を見て、一部の記憶を取り戻した彼は。
「死ぬまで、だ」
「馬鹿じゃないのか、貴様は」
その言葉を聞いた尼剌部陀は動きを止め、問答を始める。
「人の未来は既に"詰んで"いる、それが何故分からない!人類は、その未来と事実を何故受け止めない!?」
まるで未来を知るかのように。
まるで、自分達が人類の未来を救う者たちかのように叫ぶ尼剌部陀。
「お前の言った通り人は抗うからだ、どんな滅びが、どんな終わりが待ち受けていても」
「人しての死が訪れるまで、人は生にしがみついて抗い続ける」
確信に満ちた眼。
たったの二ヶ月過ごして、人に対して言える確信が一つ。
絆と信頼は、生まれついた才能や立ちはだかる壁すら壊して進む。
その解答を聞き、一度息を吐いた尼剌部陀は。
「だから、俺は貴様を殺す」
「ならば、私も貴様を殺し全て塵にする」
陣を自らの手で崩壊させ、人間で言う小細工無しの一本勝負へと持ち込もうとする。
それに合わせ、三神も己の陣と乖離すらも閉じ。
紅き光より戻った付き従う逢魔竜は、静かに口を開く。
「まだ、果てるには些か早いぞ、三神」
「……分かってる」
月が照らす。
戦いの傷痕、こびり付いた血や倒れ伏した仲間の背を。
「もういいかい、さっさとこの胸に刺さったものを返したいんだが」
尼剌部陀は薄ら笑いを余裕があるのか、未だに浮かべながら先に受けた刃を胸から抜き取り、彼へ投げ渡す。
そして己の心臓、"七つ"を剥き出しにする。
「……次の風が吹いた時が、決着の時だ」
「随分とロマンチスト地味ているな、暁」
二人は、刃の届く距離に立つ。
三神は刃を左腰に添え、錆び付いて分からぬであろうはずの棟区へ指を。
一方で、尼剌部陀はただ立ち尽くす脱力。
数分、数十分の時が過ぎ。
両者の合間を風が通り抜けた。
「……やるじゃないか、一振で僕の心臓七つ全てを斬り裂くなんて」
錆び付いた刃は見事に七つの心臓を斬り裂いた。
然し尼剌部陀は元より、一切脚を動かすことはしなかった。
「何故、脚を動かさなかった」
理解出来ない。
この化け物は、自分にその刃を振るわずして、あの戦いを行った後に己を殺させたのだ。
尼剌部陀は血を吐き、すぐ近くに伏していた花火の隣へと大の字で倒れ込む。
「理由なんて解らないさ、化け物と成った自分が恐ろしかったのかもしれないし、単に興味が湧いたのかもしれない」
「興味だと?」
尼剌部陀の眼。
子供が己の理想を夢見る瞬間のような、憧れや満天の星空を眺める時のようなソレ。
「そう……これから起こるかもしれない、さいこうの喜劇を……」
自分があの時見た、記憶の断片や人類の未来についてのこと。
それらを問う前に、尼剌部陀は黄昏色の粒子となって消滅した。
「何を気に病む必要がある、三神」
「何も、気に病んでなんかないだろ、バハムート」
逢魔竜は感じる。
三神自身の身体が既に限界に近いことを。
そして、その身体を使い果たす機会が今、まさに間近に迫っていることも。
「……そうか、貴様、身を使い果たす覚悟だけはしておけよ」
そう言い残し消える逢魔竜を余所目に、デバイスへ戦闘終了の報告を入れ。
ただ一人、学園へと歩いていく。
A.M.04:00頃。
新京都攻防戦決着から数時間後。
「三神 暁」
「白刃、起きたか」
驚愕した様子と倦怠感の残った眼で、此方を睨む白刃を見守るように座る暁。
「此処は?」
「保健室だ、戦いは終わった、花火のおかげで」
「……そうか」
安堵と悔しさ混じりの顔をする白刃は、ゆっくりと痛みが残る上体を起こしながら。
「俺はお前への評価を違えていたのかもしれない、改めて謝罪する、三神」
心の底からという表情で此方に頭を下げる。
獅子が進化する直前の波涛にやられ、気絶する瞬間見えた三神と尼剌部陀の戦いの様子。
「謝らなくていい、人間誰しも恨みがある存在に対して、ああ接するのは当然の事だ」
「いいや、俺は恨む対象自体を履き違えて……」
言葉が詰まる。
三神の顔を見て、その言葉を吐く前に白刃は意外なものを見たというのと同時。
三神への偏見が言葉交わさずに改めて払拭される。
「泣いて、いるのか」
そう言われるまで、三神本人も気付いてはいなかった。
悲しいなどという感情の起伏は感じられない、ただ其の眼から粒が何度も零れ落ちてくる。
「人でもないはずの男が、こんな……」
「いいや、お前は人だ、三神」
そう自分は、人ではない。
数時間前に左腕の力を解放して以来、二の腕までであった侵食が肩まで拡がっている。
きっとその涙は、人としての感情をいつか失ってしまうというものから来るものなのだろう。
「三神……」
「俺は、怖いのかもしれないな、白刃」
それに合わせるように震える手を見て、肩を抱き屈む。
怖い、恐ろしい、人を傷つけるかもしれないのがここまで怖いとは思わなかったから。
希望となりうるものなのか。
はたして、その力は一体なんのために。
to be continued。
「次回予告」
戦いが終わり、一時の平穏が訪れる。
また一人、友が死に。
また一人、そのまた一人と死んでいく。
空は陰鬱な雨模様。
この戦いの終着点は何処にあるのかと悩む者達。
己の運命に縛られることを恐れる者達。
嗚呼、どうか空が蒼く晴れやかになる事を願う。
次回「彼は誰の紅 蒼く咲く凍りの花」
第三十八話:雨、終わらぬ戦いの様で




