第三十六話:剥離覚醒
またも遅れて申し訳ありません。
新人小説家になりたいハルトです。
さて、私そろそろ新社会人となる時期が近くなりまして小説やれ何やれ書いてる時間が少なくなってきました。
少しばかり不安です。
何事も成さねばならぬ、やらねばならぬ何事もなんとか言いますしやりますが。
改めてお伝えします、暫し更新の方は遅れますので、ご容赦頂きたい。
では三十六話、どうぞ。
「……ほう、悪くない」
獅子と対峙する少女を、まるで歌劇を見物する観客の様に見つめる尼剌部陀。
その変化、進化に気づいた様な顔をし、その場で一つ舌舐り。
乖離……いいや、二つの乖離の引鉄が弾かれたことによる、その先"剥離"。
器一つに、同量の液体が二つであれば分量を分け半分ずつ混ぜて入れなければならない。
「……南、力、借りっからな」
己の胸に拳を置き。
その目、虹彩異色と化す。
「接続、意識の座」
「乖離、人の理」
「異質たれ、我が力」
世界の中心にある底、又は際限。
人には見えず、例えその目に映ろうとも決して触れてはいけない。
認識してはいけない何か。
「抑止の枝たれ、我が五体」
現実という道理を砕き。
自身に降すのは、常に北風南と共に生きなければならぬというこの先の人生に刻まれた運命。
「剥離」
彼女を包む焔の嵐。
その肉体に収束するのは、全ての霊長を越えし人類という種の普遍的無意識による"力"。
「……巫山戯るなよ、小娘が」
完全に南を吸収した獅子は、感情を覚えたが故、敗北の一途を辿る。
眼前に立つ、人という可能性ばかりの運命に抗い、奇跡を起こさんとする往生際の悪い生物。
その奇跡にて己を越えるという愚行。
許せぬ、許さぬ。
存在そのものが醜い万物の霊長、ならばこの手で塵芥にせんと駆け出した獅子の巨躯。
此処で獅子は、三度の失敗を犯す。
一つ、己こそが王であるという傲慢極まる感情に自惚れ、流されてしまったこと。
二つ、南を完全に吸収し感情を覚えてしまったこと。
三つ、人の可能性を舐めきっていたこと。
「消え失せろォォォォォッ!」
その動きに対して花火は一切の動きを見せず、正面より対峙する様に右手に手刀を創りゆっくりと対象に狙いを定め、降ろす。
───その一撃、理そのもの。
日常という幸せを破壊したくない人類の総数。
それにより捻じ曲がり、消滅する日常には有り得ない異物。
そこには何もいなかった、という結果を先に創る一撃にて激闘は終幕。
一時の覚醒、一瞬にして使い果たす。
少女も同じく地に伏せる事となり、それを確認し近づくもう一体の姿。
「……さて、丁度良い器も見つけた事だし二度目の開演と行こうか」
笑みを浮かべる尼剌部陀の背後より飛び掛る影。
皆が倒れ伏せても、未だ唯一戦うことの出来る少年。
「奇襲なんて酷いじゃないか、実験体」
「黙れ、其奴らに手を出したら俺は貴様を殺す」
獅子の消滅と同時に磔より解放され、地面に叩きつけられた衝撃で意識を取り戻した暁。
奇襲を仕掛けるも見事に弾かれ、一定の距離を保つ。
彼は傷だらけだ。
鳩尾付近には穴が開き、肋骨すらも吸収されかけたせいか露出しかけている。
だが、"そんな事"などよりも目の前で戦った誇り高い人の思いを、容易く踏み躙らんとする怪物を打倒するのが先。
傷の治療はその後でも問題ない。
「……くは、笑わせてくれる、今更正義の味方気取りかい?」
「黙れ、と言った……俺は正義の味方でもなんでも無い、貴様らと同じ怪物だ」
指揮者気取りの化け物は、その場で刃を指先で停めながら本性を現し高笑い。
衣服を引きちぎり、新たに肩甲から二本の腕を生やし暁を吹き飛ばすことで更に距離を取る。
「くは……ハハハハハハッ!!笑わせてくれる、所詮は劣等と混ざってしまった半端者の考えだ、この状況で君だけに何ができる?」
「我が演奏会の果てに、死ね」
「……誰が死ぬものか」
身体能力と秘めた力の優位関係においては、圧倒的に尼剌部陀の方が優位である。
が、暁はそれに見合うだけの可能性を今現在で引き出すことが可能である、それは何故か。
……見ていれば解る事。
ぶつかり合う体技と刃。
西洋剣など、とは違い。
暁や蒼実の持つ曲がる刃は正面から受け止めることではなく。
刃の曲がりに沿って、流し弾くという点に非常に優れている。
それ自体を握る存在の技量によって左右されるという点も合わさり、三神暁の可能性は一気に跳ね上がる。
「ハッ、半端者の癖に僕に着いてくるとはやるじゃあないか」
余裕気な表情を見せながら、移動を繰り返しては鬩ぎ合う四本の腕による格闘術と刃。
そこに混じる尼剌部陀自身の技術である曲がる脚技。
三神 暁はそれらを防御するので精一杯。
半端者、あの実験体とはいえ……今ここで仕留めておくに損は無い、と思考をする。
そして尼剌部陀は三神に敢えて隙を見せると同時に、肩甲にある三、四本目の腕にて印を創る。
「獄是極陣」
あの時、あの瞬間、八卿議会の一柱を消した陣を敷く。
血肉で創りあげた縄、鳥籠の様なものを描き、暁と尼剌部陀を巻き込む形で敷かれる陣。
「忉黒縄結解利陣」
現実が歪み、陣を敷いた周りのみだけが暗く覆い尽くされ外部からは完全に遮断される。
「解く前に、何か遺言は?半端者君」
周囲は暗く。
うっすらと筋繊維を解かれ、バラバラになった遺体と血煙が漂うばかりの景色が拡がっている。
「お前を必ず殺す」
「嗚呼そうかい、無駄だ、哀れだね君は」
手繰る指は、激痛と共に三神の筋繊維を一本、また一本と解いていく、傍から見てしまえばするりと抜ける糸のようなもの。
受ける者にとっては爪を剥がされるよりも、目玉を抉られるよりも、それ以上の痛みを伴う行為。
左腕を残し、大体の身体が無くなる頃
「生きてるかーい?」
完全に舐め腐ったような顔で、痛みのあまり気絶した三神を蹴り飛ばす怪物。
「ハッ、もう死んじゃったのかな、殺す殺すと意気込んでおいて口だけなんて、物凄く哀れだよ、君は」
敗北の二文字が脳裏を過ぎる。
此処で負けて、死んでしまったのなら彼奴らはどうなるのだろう。
人という種はこれを機に鏖にされるだろう。
脳内にノイズが走る。
古き記憶の残滓、植え付けられた痛みの記憶と移植された何者かの左腕。
一部の記憶を取り戻し。
───今、解き放たれる黒き腕の封印。
「……獄是極陣」
印を結ばず振るわれる獄の力。
人と災獄、二つを掛け合わせた半端者と言える存在には使えぬはずの陣。
その力を引き出しているのは、とっくに包帯が吹き飛んだ禍々(まがまが)しき腕。
瀕死から使える力は、せいぜい空間の半分を呑み込む程度のもの。
だが、今の彼にはそれで充分。
「暮六禍終・薄宵明災陣!」
暗き鳥籠を現す空間に対し、黄昏時でありながら夜明けが近づいていることを感じさせるもの。
尼剌部陀の陣の半分を呑み込み侵食、拮抗していく。
「それは……嗚呼、君はつくづく僕を苛立たせるな」
「……まだだ」
暗き者たちの戦いは、終わらない。
「苛立たせるな、その無駄な身体を解きたくなる」
覚醒た黄昏の一端。
人の夢想せし獄の一柱。
勝利へと喰らいつくのは、果たして。
to be continued
「次回予告」
花火の覚醒に促されるように発動した力の一端。
三神 暁。
人間と災獄の半端者であり、ハイブリット。
無雲・尼剌部陀。
災獄の上位存在にして、八転獄道の一体。
知るものと知らぬもの。
その記憶は未だ、取り戻せずとも。
今は、災いの力を借りながらも夜明けを切り拓け。
次回
「彼は誰の紅 蒼く咲く凍りの花」
第三十七話:黄昏と地獄と。
「痛みの記憶。」




