第三十五話:炎は燃ゆる
こんばんは。
約二ヶ月ぶりの更新となりました。
「彼は誰の紅 蒼く咲く凍りの花」、新人小説家のハルトです。
申し訳ありません。
言い訳させていただきますとクリスマスまで、常々執筆しておりまして中々に進捗も進まず。
云わばモチベーションの低下を起こしていました。
今月より改めて更新再開となりますことを、謝罪致します。
では、三十五話をどうぞお楽しみください。
受け切る、ただひたすらに。
正面堂々激突する花火は、獅子の猛攻に対して受けに回るのみ。
鎌鼬の刃か。
振り回される嵐の力は、時を進める事に速く研磨され鋭く鋭利になる。
合間に飛んでくる巨大な獅子の爪は、必殺の凶器と言っても差し支えない。
故に、今は受けるが精一杯の状態。
カウンターを入れようにも、風の防御陣とも呼ぶべきものに弾かれる。
「ちぃ……ッ!」
「どうした、人の子よ、その程度か」
余裕があるという漠然とした態度で花火を風の力で吹き飛ばし、両者間の距離が開く。
まるで期待外れであると言うような眼光、獅子はそれを花火へと向ける。
それに対する様に、花火も高まる殺意のみを込めた眼を鋭いナイフのように獅子へ向け。
「おお、なんとも恐れ多い、……だがなぁ、傷の一つも与えれぬ、か弱き拳に観られようと、な?」
まるで挑発するような逆撫で声で、獅子は傲慢に"嗤う"。
人の感情を北風を吸収する事により、学習したのだろう。
苛立ちと殺意のみで動く、現在の花火にとって全くそんなことはどうでもいい事ではあるのだが。
二度目の激突。
鎌鼬の発動するタイミングより体の重心を一呼吸の合間。
0.2秒以内に移動させ、一瞬の隙間を抜け獅子の爪とぶつかり合う拳。
火花が散らす拳の先にはヒビが入る。
此処で彼女は二つのミスを犯す。
一つ、何よりも正面よりのぶつけ合いという事において、絶対の自信を持っていたこと。
二つ、相手の力量を見誤り、感情のみで動いてしまったこと。
故に、敗北までの時は掛かることなく。
その狂気は、花火の胴体を斬り裂いた。
弾け散る鮮血、顕になる臓物、壊れ砕け散る拳と風により掻き消される焔。
そんな中で場面は変わり
「…中々、やるでは無いですか」
尼剌部陀とアイオーン。
鬩ぐ剣、敵ながら天晴というほどに確実に強く美しいともとれる脚技。
尼剌部陀の"波"の力によって軌道は直角を描き、空が蹴りの形をとって飛んでいく。
それはまるで迷いなく投げられる槍の如く。
それに対してアイオーンは素早く対応し、剣の柄で受け止めながら地面を、否。
空間を捻り切断するだけの空気圧を剣に発生させながら、隙を狙い尼剌部陀の胴体向けて放つ。
一撃必殺の剣撃と一撃連殺の脚技。
段々と加速し続ける其の戦いに決着は未だ無いが、互いの距離が離れ此処で事態が動く。
「獄是極陣」
その手の内に組まれる印。
両の手の人差し指の先を合わせ、一本の縄を描く。
それは獄の極地にして最奥。
人類の悪である力、黒縄地獄。
「不味い……それは!」
不確定の情報ながら、八卿議会の頂点が言った言の葉を脳内で思い出すアイオーン。
「…相手は、確実に殺す…否、殺戮の術に長けた何かを未だに解放していない、気をつけなさい、アイオーン」
何故、と問う前に彼女/彼は言った。
「ソレを放つ瞬間を違えてはなりません、相手のソレよりも速く、限りある力にて全力で阻止しなさい……でなければ」
此方が死ぬ事になる、と。
頬に冷や汗が垂れる、その一滴が地に触れた瞬間。
「忉黒縄結解利陣」
敷かれる血肉の縄で描かれたような陣。
瞬間、世界は暗転。
戻った時には、アイオーンの体は木端微塵に解かれた。
血肉の一つすら残らず、そこにありしは身に着けていた衣服と剣と鞘のみ。
では、何処に消えたのか。
「それは簡単なことだとも」
愉悦を感じ、身を震わせる指揮者は歯を見せるほどに満面の笑みを浮かべ、首をあげる。
「私が消した」
八卿議会、一柱消滅。
八転獄道、未だ損害無し。
ゆっくりと後方へと踵を返し、獅子と花火の方へと歩き出す尼剌部陀。
この戦いに未だ希望は見えない……それでも。
「……嗚呼、死んだのか、オレ」
現実か、はたまた死の前に見える走馬灯か。
其処に眠っていた花火は体を起こす。
精神世界。
人の死生観にも寄るが、必ずどのような形であれ人の魂が行き着く場所。
「花火さん」
「南……」
背後よりする声に振り向き、その目に見たのは左腕が肉の塊の様に肥大化し、その形相は最早"狂気"に近い北風 南の姿。
……彼女の過去は、その罪に値するだけの傲慢であった。
単純な話、彼の性別では男である。
だが彼女自身の認識的には女である故に、WOの所属前は周りより迫害紛いの事を受けていた。
唯一理解者であると縋った両親にも、病気と称され幾度も医者の元へ連れてかれていた。
それが彼女にとっては苦しく、彼にとって傲慢……言葉にしたところで周囲より理解されぬと塞ぎ込み、それを自身の幸福として自惚れていた傲慢の罪。
「……醜い、よね」
残りの時も少なくして飲み込まれるであろう右手で、肉塊となった左腕を撫でながら俯いた顔でそう呟く南。
花火は気づく。
嗚呼、彼女は……彼は自分と同じなのだろう。
周りとズレているから、周りと同じでは無いから理解ず、突き放され、傲慢、怠惰という罪を抱いてしまった。
人であるからこそ、人のみにあるが故の心。
なまじ各々(まわり)の環境、思考があるからこそ解りあえない人の悪性。
「……辛かったよな」
「うん、確かに辛かったんだけど、皆と居た時間は楽しかったんだ」
二人はまるで春の陽気に満ちた散歩道を進むように精神世界内を歩き、立ち止まる。
「……私、もう助からないらしくてさ」
蠢く肉塊は確実に南の体を飲み込みつつあり、既に罪による吸収との分離は不可能。
救う方法はただ一つ、この手にて……。
「だから、最後に伝えたくて」
「何を」
答え聞く間もなく、瞼が開く。
破裂したようにぶち撒けられていた臓物は、何事も無かったかのように癒えている。
心の中には燻っていた物が風に揺られ、新たに入れられる燃料。
ゆっくりと立ち上がろうとする所に、此の戦いへの終止符を打たん、と。
接近してきた獅子の凶爪を"素手"で受け止め四肢の間を抜けるようにスライディングにて背後へと避けていく。
花火は脳内で思い出をぶり返す。
楽しそうに凍花の隣で笑う、そんな北風が憎たらしくてしか無かった。
その繋がりは、自分たちのものだけだと思っていたから。
だが心の中でどこか、分かり合いたかった。
本音でぶつかり合いたかったという炎が燻って仕方がない。
きっと北風もそうだったのだろう。
南にとって、周りより輝いていたであろうオレは憎かったハズなのだ。
それを最後に。
「……残そうとしたのに、オレは最後まで」
その言葉を喉に押し止めて、前方に立つ獅子へと目を向ける。
……炎は燃ゆる、燃え尽きることを知らず。
to be continued。
「次回予告」
嗚呼、何と運命は悲しきものか。
憎み逢えども、その本心を打ち明けるに至らずして、その魂は融解あう。
其の力、まさに烈風の中に燃ゆる焔。
総意を乗せし一撃は、絶望に終止符を打つ為に放たれる。
次回
「彼は誰の紅 蒼く咲く凍りの花」
第三十六話:剥離覚醒
「それは一時的なものであれど、彼女はその一端に触れる。」




