第三十一話:目覚めし蒼き翼/虚飾 対 怠惰
更新が遅れております。
作家になりたいハルトです、来週の更新は特に遅れると思います。
面接試験が決まっていまして、面接練習などもありまして……characters file、世界観用語解説の方はストックをお作りしていますのでお待ちください。
では、三十一話どうぞ。
意識内より傷の痛みと決意で目覚めた蒼実。
身体は蒼き光に包まれ、何度も留めを刺さんと飛んでくる弾丸より身を守っていた。
正確には、守ってくれていた。
「フェリドゥーン……!」
その甲冑には数々の亀裂が入り、見るからに満身創痍という所にまで追い込まれている
。
それでも、ただ己が契約者を守る為だけに自己を犠牲とした行動は騎士にして、姉の思いそのもので。
何故か弾丸が飛んでくるのが止み、蒼光を解いたフェリドゥーンは力無くその場に膝から崩れ、それを消えないで、と抱きしめる妹。
「嗚呼、嫌! 嫌っ! 消えないで……! 姉さん」
「だいじょうぶ」
ノイズの様なものが混じる最後の言葉。
大丈夫、と何度も同じ様に言い聞かせる声は段々と掠れ消え。
契約族フェリドゥーンの身体は、粒子となりて彼女の虚を満たし消えていく。
「姉、さん……」
喉に何かがつっかえる様な痛み。
身体の痛みとは別に、涙が止まらない。
何も無い空を抱きしめる蒼実、それと引き換えに満たされる心。
そして同時に磔にされた男の左腕から離れていく白き両翼紋、それは蒼実の左首へ。
瞳は、意識内にて変化した際の様に過去を見ていた群青は蒼白き思いに照らされ、蒼縹と化す。
私はその場で立ち上がる。
身体の痛みは無い、誰かの為に在るが故。
虚飾など二度と張るものか、私には護るべきものが救うべき人達がいるのだから。
その姿はいつか、過去に手繰られ虚飾を演ずる人形に非ず。
姉の思いを、友を救うという思いを実像とした決意から生まれる姿であり、其の心の中には、種が撒かれ芽吹く心像、共に脳内に刻まれる複数の文字。
「越冬、想いを抱き、種を握る」
「枷さえ抱き、友が為に果てへ」
「我は虚飾に身を委ねし、蒼き剣の依代也」
瞑る目の中で、邂逅する。
虚飾の竜、白き騎士。
かつて厄災を振りまいた巨大な怪物は既にそこに居らず、その力は彼女の足元に広がる蒼き光の陣となる。
「想いは消えぬ、何人たりとも消す事は叶わぬ焔となりて」
「純真なる魂は罪を越える剣、此処に現れるは厄災を裁きし想いの姿」
「総てを抱き、翔べ」
「乖離─────!」
言葉は暴風の形を成して、今度こそ留めを刺さんと再度放たれた電磁砲の弾丸を弾き劣化させ、空へふわりと浮かせながら粉屑として霧散させる。
赤き空を突き破り、彼女を二度目の蒼き光が照らし虚飾も抱きて、その蒼翼は創り出される。
「乖離蒼翼/虚数嵐涯」
蒼く輝く翼は、かつて彼女を救った三神の乖離の禍々しさとは真逆という神々しさか。
そして、眼前に広がる海原へ人差し指を向け、乖離の力の一端が行使される。
「虚飾・転回」
虚飾の力。
過去さえ抱き飛翔せんとする彼女は、己の瞳より見通す全てを見た目だけの偶像と判断する。
海原に地平の概念を、生き物には人形としての概念を付与する。
あくまでも彼女の瞳より通ずるものであり、それらを周りの人間にしても、災獄にしろ捻じ曲げる事など不可能である。
「実像・展開」
瞳を瞑り、展開されるのは実像の、虚飾と対を成す未来を決意する力。
世界より修正されることの無い、過去の遍成。
削り抉られ戦いの跡残る地平を、草花が拡がる草原へ、砕け壊された建造物群をも過去を捻じ曲げ、実像として展開する事で修復する。
「Quuuuoooo……」
そして、眼前より響く声。
その声の意味、彼女は知る。
俗に言う脅迫、これ以上此方に危害を加えるのであれば自分の中にいる友人を殺すという類の物。
そんなものは知ったことでは無い。
私の友人がその程度で倒れるわけが無いのだから、と空へ逃げんとする黒鯨向かって。
瞬間。
彼女は蒼き雷へと包まれ音速による疾走の後、蒼翼を広げて飛翔し急接近、それに対してまるで大急ぎで対応せんと、弾丸をばら撒く黒鯨。
「遅い」
それを両手で握る刃で全ての弾丸一つ一つを、一切の迷い、躊躇いなど持たず、悉く斬り捨てながら空を蹴り更なる接近を果たす。
そして、黒鯨へと刃より放たれるのは虚飾と実像の式を踏み、涯てからの虚数の嵐。
「虚数嵐涯」
空振りか。
空中にて背面に身体を捻りながら放たれる刃は、黒鯨の肌を擦るが容易く抜けられる。
と思えばそこに発生するは空間の歪み、それは切り裂き開かれた虚数の海原へ繋がり現実へと滲み出す、虚数の染み。
それは風となり蒼き嵐となって、黒鯨を包み込み嵐は肉体を現実より削り、魂を虚数の海へ呑み込んでいく。
まさに無限にも、無にも止める事の出来ぬ涯てである。
残ったのは、巨大な水晶の様な核のみ、それに触れ取り戻したのは冷たい身体の花火。
死んでいる訳ではない、それでも極度の低温状態であることに変わらず。
俗に言うお姫様抱っこで、ゆっくりと滑空の様に落ちていく形ながら地上へ戻り、蒼き翼は粒子となって消えていった。
「花火……」
建造物群の戻った場所に佇む蒼実。
傷は乖離の覚醒と共に癒えており、少なくとも覚醒の余波と言う奴か、重度の倦怠感と疲労感に襲われている。
勿論の事、傷が癒えようとも身体の痛みは消えぬ。
クラっとする頭を抑え、倦怠感に耐え足を引きずりながら学園へと歩みを進めていく。
その道筋に小型の災獄は無いが、静かに憤慨しながらも地上へと降り来る影。
無雲・尼剌部陀。
「……やぁ、こんばんは、良い夜であったのになぁ、なぁ君よ」
「アナタは?」
警戒心と臨戦態勢を何時でも取れるようにと、眼は空より降りて来た存在へ向けながらも、疲労感と倦怠感によって額に汗が垂れる蒼実。
それを見て、ケタケタと笑い声をあげる尼剌部陀。
「嗚呼! 嗚呼! 失礼した……私の名は無雲・尼剌部陀、八転獄道が内の第五獄」
目を丸くする。
その姿、何処か蛇を彷彿とさせるもので全身が鱗の様な肌、まるで自身が指揮者と言うか。
人間の真似をする様な姿で、それでも八転獄道なのかと圧巻。
だが圧、その圧は恐ろしく冷汗が止まらない。
「……して、お嬢さん、何故、演者を私の作品を連れているんだい? まだ喜劇は終わっていないのだが」
「花火はアナタの物なんかじゃない!」
「そうか、それでだからなんだと言うんだい? 私の喜劇を崩さんとするのならば……タダではおかないが?」
ゾワッと背筋に走る恐怖。
否、畏怖と言うべきか、その眼はまさに真の怪物に相応しいもので蒼実は蛇に睨まれた蛙か、足が竦む。
「おや、おやおやおや? まさか人の作品を盗んで咎められることに対しての怯えかな、それは? ならば結構、返してくれ給えよ」
「ち、違う……」
「何が違う? 何がおかしい?嗚呼……いや、そうかそうか、君は私に恐怖しているのか! ならばいいとも、乖離とやらを用いて私を殺して見ればいいともさ」
見透かされている力。
いや、当然だろうと、この戦いの原因を作ったのは恐らく目の前の怪物なのだから。
心拍数の上がる心臓をどうにか抑えながらも、花火を出来るだけ戦いに巻き込まれないよう。
安全な崩れてこないであろうと予測する瓦礫群に制服の上着を敷き、その上に寝かせておき私は帯刀している刀の柄に右手を添える。
「成程……さて、では死ぬといい」
薄ら笑いを浮かべていた目の前の尼剌部陀は私の瞬きに合わせて、背後へと移動する。
速度なんてものは測りようがない。
何せ、見えないのだから。
「我の速度にすら着いて来れないのか、なんて情けない、これでは喜劇の登場人物にしては分不相応だ」
背骨が一瞬にして粉となる音……。
否、音なんてものすらも無く粉砕。
叩き込まれる爪先蹴り、全身に走る激痛。
「さて、お嬢さん、まだ続けるかね? 」
「まだおわ……」
「終わりだとも」
終わらない、と立ち上がらんとするも既に目の前には薄笑いを浮かべる怪物の姿。
二度目の音。
肺が潰れた、潰されて何かの刺さる音。
息を吸う感覚自体が元より無かったと言うような程の威力。
脳震盪と言うよりかは、頭部の損傷故に考えも余り回っておらず、私はコンクリートの地面に無惨にも、擦れ跳ねながら吹き飛ばされていく。
「はぁ〜〜……人の作品を盗んだ癖して倒れないでくれないか? 罰は受けるものだろう? 人とはそういうものじゃないかね!」
500m程、蹴りのみで離された私に意識はほぼ無い。
倦怠、疲労、肺損傷と背骨を粉砕されたという事実と激痛……結局の所は救えずに終わってしまった。
近づいてくる足音、恐らく怪物のものだろう。
嗚呼……死ぬんだな、と確信した時、何かと何かが弾け砕け畝り、ぶつける音。
「正義のヒーローとは言いませんが、八卿議会より参りました、アシャラウド=アイオーンと申します」
何とか私は目を開けて、そこに広がるのはコンクリート地面がまるで海の波のように覆り、螺旋を描きながら抉れたもの。
そしてその先に、吹き飛ばされた怪物と剣を右手に握る何処か中性的な見た目の男性の姿。
「中々に痛いじゃないか」
そう言い立ち上がる尼剌部陀に対し、アイオーンは。
「意外と弱いんですね、指揮者という立ち位置の癖して災獄の統括すら出来ずに呑気に見てた指揮者には程遠い、傍観者の癖して」
「それは、煽りというヤツかね」
「まぁ、そうなりますかね」
糸目の男はそう、ヘラヘラとした様子で語る。
無論の事、それに対して尼剌部陀は……。
「ならば……殺り逢おう」
「大歓迎です」
to be continued。
「次回予告」
果は遠く。
終は遠く。
何もかもが遠い。
夜明けはまだ先に。
新たなる胎動、獄の果。
目覚めんとす、真の厄災。
次回
「彼は誰の紅 蒼く咲く凍りの花」
第三十二話:黒縄、秩序/炎の葛藤
「鯨は死んだ、されども獅子は黄昏へ」




