第三十話:虚飾・転回
皆様こんばんは。
夜八時ほどに更新致しました、第三十話と作家になりたいハルトです。
なかなか伸び悩み中です。
そんな悩みがありながらも、書き続けます。
本編をどうぞ。
一人、怪物の群れを駆ける影。
一人、化物を斬り捨てる蒼き光。
走る、ひたすらに。
その速さは目に追う事など許されぬ、と言う様に、足取りは疾く速い。
音速にすら達するか、二人の向く場も願いも過去も異なれど目的が一致した戦友であるから、今は手を取り合う。
そして……
「蒼実 凍花、日本海前に到着」
蒼実は波が荒れ狂う海の前に立つ。
災獄が出現したせいか、海は荒れに荒れている。
人を殺す程の高潮となり、風は契約者であっても力を抜けば吹き飛ばされそうなほど。
彼女の見すえる遠くに、そんな海を悠々自適と跳ねる黒き鯨。
身体には、その強さを張るかの様に装備されている近代兵器、火器。
実に500丁以上はくだらないか。
相手の瞳も此方を捉え、ゆったりなれども今にも殺すぞと言う眼光で、大っぴらな水飛沫を立てて接近してくる。
体躯は700mもある化け物だ。
東京スカイツリーなんて優に超える化け物をどう倒すか、など人類一人には荷が重い。
だが、それでも。
「戦闘、開始します」
黒鯨が跳ねる度に、段々(だんだん)と口を開いているのを視認し砲塔の発射を防ぐ為に
「フェリドゥーン!」
海面を蹴り、身体能力の上昇によって駆け抜けていく足が沈むよりも、相手の弾丸に当てられるよりも。
接近してくる私に対して、黒鯨の身体に搭載された数々の銃火器が向けられ無闇矢鱈に弾丸が放たれる、生ける要塞だ。
油断をしてしまえば、その弾幕に腹や足、頭を撃ち抜かれてしまいそうだ。
「…くっ…近付く隙が!」
三度目に跳ねた黒鯨の胴体に最接近し、刃にて身体を切り裂かんと振るわんとするも、途端に全ての銃身が私の方へしっかり捉えたか、向き直り再装填などすること無く弾丸を放つ。
それらを空中にて腰を捻り、躱しながら刃による防御を行いつつ海面への着地体勢を整える……これを既に何度かは繰り返した。
今でも花火は己が過去からの責め苦という所業を受け続けていると言うのに。
一方で、黒鯨核内部。
「……さむい」
元より目立つ存在の居場所は排斥されると決めつけていた花火は、それらを寒さとして実感し黒鯨がそれらを読み取ったことによる拷問を受けていた。
「過去に身を委ねろ」
「お前は乗り越えられない」
「お前は皆の中にはいられない」
何度も常に、人はそう言われれば壊れるもの、と黒鯨は人を喰らっていたから知っていた。
それが幸か不幸か、花火と似たような境遇の人間ばかりであったのだから。
それにこの寒さ、体内部は−10℃以下という中で死ぬのも時間の問題だ。
花火が完全に取り込まれれば……
「真の厄災が再誕す、と言ったところか」
世界の裏、果ての更なる果てに其の様子を眺める者が在る。
何者か等、今は気にする事は無く。
場面は蒼実と黒鯨へ。
「動きが段々と速く……!?」
戦いが続けば続くほど契約者と契約族への負担は重くなり、視線すら揺らぐ事となる。
一般人には不可能な海の上に立つということを、契約族の身体能力補正の上昇。
それら全てを限界点まで常に行使する蒼実。
彼女は現在、過度な疲労症状に襲われている、視線の先の存在が速く動いている程度に見える程には酷いもの。
彼女自身の動きも目に見えて遅くなってきている、契約族自体にもかかる負荷は相当なもの。
「…まず…」
一瞬フラつく体、沈みかける足を何とか支えるものの拮抗していた戦いを変えたのは、これが原因とも言える一つの砲撃であった。
「Quuoooo────────!」
口内を開けず既に砲塔のチャージを溜めていた黒鯨から放たれる一撃。
水面が一瞬にして蒸発を起こし。
高波を起こしながら迫る弾丸、その速度は徐々にミサイルの性質さえ学習したか。
放たれた弾丸は焔の推進力を利用、ミサイルそのもので加速し続けながら、私の胴体事連れ去り新京都都心部の建造物全てを粉微塵とす……。
見るも無惨か。
腹は抉れ、噴き出す鮮血、垂れる腸。
腕は衝撃で両腕共に折れた、契約族による加護があってもこの威力。
街ど真ん中、円型五kmは下らない大きさのクレーターが出来るほどだ。
意識が飛んでいく。
誰も救えず飛んでいく中、響く声。
誰の声かは聞こえない、鼓膜の中に砂か砂利かが入ったからか、耳が取れかけているからかは分からない。
「蒼実 凍花のバイタル反応低下、瀕死レベルです」
「損傷箇所、肩より下の両腕筋肉内部が裂け血管が破裂、骨が確認できます、両脚部の骨は粉砕骨折、肋が四本骨折、聴覚、視覚共に損傷」
「これではもう……」
意識はギリギリ保ってはいる彼女を見て、オペレーションルームのオペレーター達の言葉は消える。
そもそもが話、700mの鯨の怪物へ契約者と言えど一人で挑ませたのが間違いだったのだ。
場面は変わり、激闘を繰り広げる三神と獅子。
爪と刃が鬩ぎ合い、互いに息を吸う暇など無い剣戟。
「退ケ」
先に動いたのは獅子。
退け、という言葉の前に三神は抗うすべなく吹っ飛んでいく。
その距離は軽く500m、獅子にとっては一瞬の距離、三神にとっては詰めるのも精一杯と言った所。
それを視認した獅子は
「カソク」
亜光速という瞬間速度による移動を行い。
地面へ叩き付けられ、衝撃で浮いた三神の体を己の肌すら貫く巨大な牙で引き裂いた。
斬り裂く様に、骨をしっかり潰す様に。
抉れる腹、裂ける喉、穿かれる顔。
意識を失った彼は、未だに乖離の力を発動する事は叶わず。
獅子が創り出したと思わしき人骨の十字架へと磔にされ。
「三神 暁 生体反応ロスト……?」
数分後にオペレーションルームでは死亡が確認されようとしていた。
「まるで確証が取れていない様な言い方だな」
「いえ、それが変なんです、教官」
恐れからか冷や汗をかくオペレーターの一人へ、訝しげな様子で目を向ける。
「変、とは?」
「ふむ……もしや、心臓、脳内機能自体は止まっていないのに生体反応自体はロストになっているのかな?」
横槍で入る言葉は、外套者のもの。
部外者立ち入り禁止な上に扉にはロックを掛けていたはずのオペレーションルーム。
だが何故か、彼/彼女はそこに居た。
「何故此処に!?」
「なんでもいいだろう? 私が入らないにせよ、この状況が変わるなんて事はきっと無いだろうし」
「貴様の様な身柄不明の存在が此処に居ては!」
耳障りかのように教官の唇へと人差し指を当て言葉を止め。
自分の耳へと左指で栓をする彼もとい彼女。
「それで? どうなの?」
「あっ、はい……確かにその通りなんです、心臓脳内共に機能は満たされているのに生体反応はロストになっているんです」
「ふむ……嗚呼、いや成程、それ放置でいいよ」
軽く、まるで当たり前であるかのように口から出る言葉。
「え?」
「彼、生きてるから」
その言葉の真意を理解することはまだ、叶わない。
場面は蒼実の意識内へ。
(辛い、痛い、悲しい、寒い)
彼女の前方に広がる光景、いつかの惨劇と背後には平和な景色、姉と手を繋ぎ帰った冬の夜。
私が裸足で花を赤くしながら、座るのは月に照らされる、廃れた駅のベンチ。
何方へ向かおうと、過去へと戻ってしまう帰路。
前へ進む道は見えず、残っているのは……否。
「見えないんじゃなくて、目を背けてるだけだよ」
意識内にて何方にも進めず、ベンチに蹲る彼女の横に座る彼女に似た、姉が一人。
「凍花は優しい子だもんね、知ってるよ」
冬の夜の駅、白い吐息は誰のものか。
凍った花の種を左手に握る、姉のもの。
「……だから怖いんだもんね、過去を乗り越える事が」
過去を忘れる事、それが怖くて堪らない事が彼女自身も分かっていた、過去を忘れてしまえば自身が過去より解き放たれる。
自身を解き放てば、人としてのミスは増えるし自分の見せる行動や言葉が友人を不快に思わせてしまうかもしれない。
故に、過去という鎖で縛り外見や言葉で偽る虚飾で居れば良い、と。
「それは違うよ、凍花、姉さん知ってるの」
「凍花の周りには、そうやって人としてのミスとかを叱ってくれたり凍花自身を受け止めてくれる人が沢山、居るって事」
白い吐息は微かに霧の様に薄れ。
その姿は、ゆっくりと変化していく。
「だから、自分で自分を縛り付けるのなんて辞めて真っ直ぐ前を向いて、偶に立ち止まったりして皆と一緒に歩きなさい」
「皆、私も一緒に近くで見守ってるから」
その姿、新たなる契約の際に相まみえた。
悪竜殺しのフェリドゥーンそのものであった。
物言わぬ騎士されども……その温かさはいつかの姉、そのもので霧となって消えていく。
姉が遺してくれた最後の希望を右手に握り。
その心、虚飾と実像を決意する凍てついている暖かき彼女。
ベンチから降りて駅を出て寒空の下、三つ目の帰路へ歩く、その少女は既に過去に震える少女は居らずその瞳は群青から、水縹へ。
to be continued。
「次回予告」
蒼き光、伝え承がれる意思。
新たなる乖離の光
禍々しき紅き黄昏
対を成す
神々しき蒼き光翼
飛翔する果ての力。
嗚呼、世界よ。
彼女らの安寧を祈りたまへ
次回
「彼は誰の紅 蒼く咲く凍りの花」
第三十一話:目覚めし蒼き翼/虚飾 対 怠惰
【汝、授けんとすは虚飾の翼……そして蒼き光】




