白銀の騎士と王国の歌姫
僕の名前はアンドレ
ノガノス王国の騎士となるため、王国の騎士養成学校に通っている
今日は進路希望調査の日だ
王国を守る騎士といっても、役割次第で学ぶことが全然違う
僕の希望はもちろん親衛隊だ
親衛隊はその役割の重大さゆえにこの養成学校でも一定以上の成績を修めている人でないとなれない
しかし、親衛隊は王国騎士団の中でも最も志願者が少ない
自分のミスで王族に何かあろうものなら即刻死罪になることもあるからだ
それでも僕が親衛隊になることを選んだのは、アリア王女を御守りしたいからだ
アリア王女はノガノス王国の第二王女で、王国の民全員から好かれるほどにお優しい方だ
実は僕も以前、アリア王女に心を救われたことがあった
元々僕はこの学校では落ちこぼれで、何をしても上手くいかず、自暴自棄になっていたことがあった
そんな時、僕に声をかけてくれたのがアリア王女だった
それ以来僕は、彼女を守るため必死に勉強と修行を重ね、ようやく親衛隊の応募資格を得たのだ
先生「アンドレ、お前の今の成績なら王族の側近になることもできるが、本当に親衛隊でいいのか?」
アンドレ「側近…ですか?」
親衛隊は王族全員を御守りするのが役割だ
対して側近は特定の王族の使用人兼護衛として仕えるのが役割だ
側近は王族の最後の砦であるだけでなく、その王族の仕事のサポートもする
それゆえに親衛隊よりもはるかに高い成績を要求される
先生「実はドゥルク国王からアリア王女の側近を一人雇いたいとお話があってだな」
アンドレ「アリア王女のですか?」
先生の話だと、アリア王女にお仕えしていた側近の一人が、ご高齢を理由に退任したらしい
そのため、現在アリア王女の側近は14歳の少女一人しかいないらしい
しかし、側近は直接王政に携わることが多く、多くの者が辞退したらしい
そこで白羽の矢が立ったのが僕のようだ
アンドレ「分かりました。そのお話、お受けさせて下さい」
先生「分かった。ではお前は今日からA組に配属だ」
アンドレ「分かりました」
A組は側近を育成する超少数精鋭のクラスだ
側近の仕事は護衛だけではないため、クラスが分けられている
そして、これまでと授業の進むスピードもかなり違う
僕は荷物を持ってA組に移動した
リン「あら、アンドレもA組に来たの?」
アンドレ「あ、リンも来てたのか」
リンは僕の親友の日本人留学生だ
彼女は学年内ではトップの成績を誇る
それどころか最上級生ですら彼女には敵わない
つまり、今この学校で彼女に敵う生徒は誰一人としていない
リン「アンドレ、今日は日本語の勉強どうする?」
アンドレ「もちろんやるさ」
僕はリンから日本語を教わっている
ノガノス王国は外国との交流が盛んだ
その中でも特に日本とは親密な関係にある
王族の者たちも日本が好きで、たびたび日本を訪れている
それゆえに親衛隊と側近のクラスは日本語が必修となっている
僕たちがそんなことを話していると、急に周囲がざわつき出した
僕たちが廊下を見ると、二人の女の子が歩いていた
それはアリア王女と、僕の親友のアンジュだった
その前には先生が立っていた
先生「彼が先日ご紹介したいと申した者です」
アンジュ「ありがとう。下がってください」
先生「かしこまりました。では、何かありましたら外におりますので何なりと」
そう言うと、先生は外に出て行った
その直後、アンジュは僕に対して話しかけてきた
アンジュ「まさかアンドレがアリア王女の側近候補生だとは思わなかった」
アンドレ「数年前、落ちこぼれだった僕をアリア王女は救ってくれたんだ。だから今度は僕がアリア王女を守る番だと思って頑張ったんだ」
アリア「そう。では、アンドレ君。ノガノス王国第二王女としてあなたを私の側近に…」
アンジュ「アリア王女、ストップ!まだ決めるのは早過ぎます!適性の無い者を側近にするわけにはいきません」
アンドレ「ハハッ…さすがにダメだよな…」
アンジュ「ですのでアリア王女、側近として適性試験受験への推薦を進言致します」
側近や親衛隊になるには通常、いくつかの試験をパスしないといけない
しかもその試験の受験資格は指定された単位を取得しなければならない
ただし、例外として王族の推薦がある場合は単位が無くとも受験が可能だ
アリア「そうね。教頭先生を呼んでくださる?」
アンジュ「はっ」
そう言うとアンジュは急いで教室を出て行った
その直後、アリア王女は僕のもとに寄ってきた
そして耳元で「頑張ってね」と囁いてきた
これは頑張らないわけにはいかないな…
その数分後、アンジュは教頭を連れて戻ってきた
教頭「アリア王女、お呼びでしょうか?」
アリア「はい。教頭先生、私はノガノス王国第二王女として、ここにいるアンドレ君を側近の適性試験に推薦します」
教頭「ええ!?ですが彼の成績は…」
アリア「私は問題ないと判断しましたが?」
アンジュ「こちら、私達の方で調査した彼の記録になります」
そう言うとアンジュは教頭先生に1つの書類を渡した
そこには僕の素行や最近の成績に関する調査データが細かく記録されていた
まさかここまで調べられていたとは…
いやでも、将来この国を守る者の素行や成績を王族が調べるのは当たり前か…
教頭「なるほど…。確かにこの成績でしたら問題はないでしょう。しかし彼の過去の成績では…」
アリア「過去の成績は関係ありません。大切なのは今どうなのかです。たとえ過去の成績が悪かったとしても現在の成績が良ければ、今は兵士として優秀な人材と言えるはずです」
教頭「それは確かにそうですがそれでは他の生徒は不満に…」
アリア「推薦制度は王族が自らの直属の家臣としたい者を選ぶことができるようにするための制度です。私は彼を側近の候補に選んだのです。その人物を適性試験に推薦するのは制度の趣旨に沿っていると私は考えますが?」
教頭「それは…。………分かりました。彼の推薦のお話、承りました」
アリア「ありがとうございます」
アリア王女は正しいことしか言ってない
だからこそ今の教頭先生の詰め方は怖いと思った
しかし、そのおかげで今回は推薦がもらえたのだ
本来、僕の過去の成績を鑑みると一般募集は受けられない
それどころかこの適性試験の受験資格である科目の履修できるかさえ怪しい
そのくらい僕の成績は悪かったのだ
だからチャンスをくれたアリア王女には感謝しかない
だからこそ僕はその期待に応えなければならない
僕はリンと一緒に5日後に行われる適性試験のための特訓をすることにした
適性試験は剣術、武術、魔法の3科目で、現役の親衛隊と側近が試験官として相手となる
そして、合格条件は全ての試験において試験官を倒すことだ
僕は剣術と武術については自信があるが、魔法が苦手だ
それに対してリンは、剣術と魔法は得意だが武術が怪しいらしい
そこで二人でお互い足りないところを教え合おうということになった
僕たちは放課後になるとすぐに訓練場に向かった
そこでは親衛隊と側近が模擬戦をしていた
その光景を見て、僕はかなり驚いた
なぜなら、親衛隊と側近は互角の戦いを繰り広げていたからだ
あの二人も強いことは知っていたけど、これほどまでとは…
リン「アンドレ、私達も始めましょう」
アンドレ「そうだな。まずは基礎練習からしよう」
リン「そうね」
それから数時間、僕達はお互いに足りないところを教え合いながら特訓をした
そして、気がついた頃には外は真っ暗になっていた
僕とリンは急いで家に帰った
それからも僕たちは毎日放課後になると外が暗くなるまで特訓をしていた
適性試験の前日、僕たちが帰宅準備をしていると、教室にアンジュが慌てて駆け込んできた
アンジュ「アンドレ、リン、アリア王女見なかった?」
アンドレ「え?見てないよ」
リン「何かあったの?」
アンジュ「アリア王女がお昼から行方不明なの」
アンドレ「ええ!?」
アンジュ「私が少し目を離したばかりに…」
そう言うとアンジュはそのまま泣き出してしまった
リン「泣くのは後。今はアリア王女を探さないと」
アンドレ「ドゥルク国王とソフィア女王はこのことは?」
アンジュ「知ってる。リーゼロッテ王女も自分の側近に捜索させてる…。でも、どこを探していいのか分からないみたいで…」
アンジュは泣いていて声が震えている
僕とリンはアンジュの手を取り、落ち着かせた
アンジュ「ごめんなさい…」
アンドレ「大丈夫だよ。一緒にアリア王女を探しに行こう」
僕とアンジュは急いでアリア王女を探すために教室を出た
その時、一人の兵士がこちらに向かって走ってきた
兵士「アンジュ、城下町でアリア王女が魔物連れ去られるのを目撃したって人が現れた」
アンジュ「なんですって!場所は?」
兵士「ここから西の方角にある森の中だって」
アンジュ「分かったわ」
アンドレ「待って、アンジュ」
僕は一人で森に向かおうとするアンジュの手を掴んだ
アンジュ「放して!」
リン「私たちも一緒に行く」
アンジュ「何言ってるの!?あなたたちはまだ見習いでしょ?」
アンドレ「アリア王女は僕たちにとっても大事な人だ。そんな人が攫われたんだ。黙って見過ごすわけにはいかない」
アンジュ「でも…。………分かった。あなたたちも一緒に来て」
僕たちの意志が伝わったのか、アンジュは一緒に行くことを承諾してくれた
アンジュ「ただ、本来見習いを戦場に出すことは認められてないの。だからまずはドゥルク国王の承諾をもらわないと…」
アンドレ「よし、じゃあ急ごう」
僕たちは急いで城に向かった
玉座の間の前まで来ると、その前に兵士長と複数の兵士が立っていた
アンジュ「アリア王女捜索の件でドゥルク国王に謁見願いたい」
兵士長「何か進展があったのか?」
アンジュ「城下町の者より新たな目撃証言を得たので急ぎ報告したい」
兵士長「分かった。少し待て」
そう言うと兵士長は玉座の間に入って行った
そして少し経つと兵士長はすぐに戻ってきて僕たちを玉座の間へ招き入れてくれた
アンジュはこれまでに収集した情報を全てドゥルク国王に説明した
そして、僕たちをアリア王女救出のために連れて行きたいと話した
ドゥルク「なるほど…事情は分かった」
ソフィア「しかし、アンドレ君とリンさんはまだ見習いなのでしょ?それはあまりにリスクが高いわ」
ドゥルク「そうだな。捜索には手の空いてる兵を向かわせた方が良かろう」
アンジュ「いえ、相手の狙いはおそらく王族。であれば今、王族の警備の手を緩めるのは得策とは言えません。特にリーゼロッテ王女は、自身の側近たちをアリア王女の捜索に向かわせていますので最も危険です」
ドゥルク「うーむ…確かにアンジュの言う通りだ。もしその魔物の狙いが本当に王族であるならば次はリーゼロッテが危険に晒されるかもしれん」
その時、玉座の間の扉が勢いよく開けられた
リーゼロッテ「お父様、大変です。私の側近たちからの情報だと、敵の目的は我々を手にかけ、この王国を支配することのようです」
ドゥルク「なんだと…!」
アンジュ「ドゥルク国王、もはや一刻の猶予もありません。それにこの二人はアリア王女の側近候補に選ばれるほどの実力を持ちます。二人の実力については私が保証します」
ドゥルク「やむを得まい。それにアンジュがそこまで言うなら、あい分かった。二人を捜索に同行させることを認めよう」
アンジュ「ありがとうございます!」
ソフィア「三人とも、無事に帰ってくるのですよ」
リーゼロッテ「アリアのこと、絶対助けてちょうだい」
アンドレ「任せてください」
リン「必ず連れ帰ってきます」
そうして、僕たちはアリア王女の救出に向かうことになった
僕たちは準備を整え、城の門の前に集合した
そこには既に準備を終えたアンジュと数人の兵士たちがいた
アンジュ「それでは出発するわよ」
アンドレ「うん。行こう」
リン「はい」
こうして僕たちのアリア王女の奪還作戦が始まった
僕たちは馬車に乗り、西の森を目指して出発した
道中、僕とリンは少し話をした
アンドレ「リン、君はどうしてアリア王女のために命をかけて戦えるんだ?」
リンは少し考えてから答えた
リン「私はアリア王女の歌が好きだったから」
アンドレ「歌?」
リン「ええ。初めて会った時、アリア王女が歌う姿に心を奪われたの。それ以来ずっとアリア王女のファンになった。だから少しでも力になりたいと思ってるだけ」
アンジュ「そうね。私もアリア王女が大好き。あの歌声は人を幸せにする魔法のような魅力があると思うの」
アンジュはそう言いながら優しく微笑んでいる
アンジュは優しい性格をしている
でもその優しさは、他の人にも分け隔てなく与えられる
だからこそ、その人柄に惹かれて多くの人から慕われているのだろう
アンジュ「そう言うアンドレはなんでアリア王女の側近になろうと思ったの?」
アンドレ「僕の場合は…アリア王女には感謝してるからその恩返しかな?」
リン「あとはアリア王女が好きだから?」
アンドレ「ばっ…!」
アンジュ「まあ…アリア王女は誰からも好かれやすいからね」
リン「アンジュちゃん、アンドレの場合は一人の女の子として好きなのよ」
アンジュ「へー。じゃあ詳しい話、聞かせてもらおうかなー?」
アンジュはニヤリとした表情で僕の顔を覗き込んできた
アンドレ「もう…!ほら、そろそろ着くぞ」
僕は照れ隠しをするように窓の外を指差す
そして、森の入り口までやって来た
森は薄暗く、不気味な雰囲気を漂わせていた
アンジュ「この奥にアリア王女が…」
アンドレ「ああ…。慎重に進まないと」
僕たちは警戒しながら森の中へと足を踏み入れた
森の中に入ると、辺り一面に様々な種類の花が咲いていた
アンジュ「綺麗…。こんな場所があったなんて」
リン「不思議ですね。まるでこの場所だけが世界から切り離されてるみたい」
アンジュ「本当ね。でも今はそんなこと言ってる場合じゃないわ。早くアリア王女を見つけないと」
僕たちが進んでいくと、前方にある木陰で何かが動いたような気がした
アンドレ「やはり簡単には進ませてもらえなさそうだな」
僕がそう言い終わると同時に、前方にいた何かがこちらに向かって襲いかかってきた
リン「あれは…ゴブリン!?」
僕たちの前に現れたのは、緑色の肌をした小鬼の魔物だった。
数は5体。全員が武器を持っている
アンドレ「数が少なくて助かった」
リン「いや、まだいる」
辺りを見渡すと、リンの視線の先に5体、木の上にも8体はいた
アンドレ「くっ…!囲まれたか…」
リン「しかもかなりの数いる…」
アンドレ「アンジュ、魔法でなんとかできないか?」
アンジュ「無理よ。下手をすれば二人を巻き込むわ」
アンドレ「どうすれば…!」
その時、1体のゴブリンが剣を振りかぶって飛びかかってきた
アンジュ「危ない!!」
その時、僕の隣にいたリンが咄嵯に前に出て、迫り来るゴブリンの攻撃を短刀を使って受け止めた
しかし、その攻撃の威力までは殺せず、リンは吹き飛ばされてしまった
アンドレ「リン!」
僕はすぐさまリンのもとへ駆け寄った
リンは起き上がると、すぐに体勢を立て直そうとした
しかし、今度は別の2体が同時に斬りかかろうとしていた
アンドレ「リン、危ない!」
その時、誰かがリンとゴブリンの間に入り、攻撃を受け止めた
アンジュ「リーナ!」
リーナ「アリア王女の件の偵察の帰りに三人が襲われてるのが見えたの。間に合ってよかったわ」
リーナさんはそう言うと、リンを庇うように立ち、二体を相手取った
アンジュ「二人とも大丈夫?」
アンドレ「うん、ありがとう」
リン「すみません、助かりました」
アンジュ「二人が無事ならそれでいいわ。それより今のうちに逃げるわよ」
僕たちはリーナさんの援護を受けながらその場を離れようとした しかし、周りを見ると先ほどよりも多くのゴブリンに囲まれてしまっていた
アンドレ「これじゃ逃げられない」
アンジュ「こうなったら戦うしかない。私とリーナで一体ずつ相手をする。アンドレとリンはサポートに徹してくれる?私が合図したら一斉に攻撃よ」
アンドレ「分かった」
リン「了解です」
僕たちはアンジュの合図の下、一斉にゴブリンたちへと突っ込んで行った
しかし、倒しても倒しても次々とゴブリンたちが現れてきた
アンジュ「これじゃきりがない…」
リーナ「仕方ない…。ここは私が食い止めるから三人はアリア王女のところへ」
アンドレ「でもそれだとリーナさんが…」
リーナ「私なら大丈夫。だから早く!」
アンジュ「わかった…。お願い、無茶しないでね」
リーナ「ええ。任せて」
そうして、僕とアンジュは二人で森の中を突き進んでいった
しばらく走っていくと、少し開けた場所に出た
ゴブリンたちも追ってくる様子はなかった
おそらくリーナが奴等を足止めしてくれているのだろう
リン「少し休憩させて…。走り続けで疲れちゃった…」
アンジュ「そうね。少し休みましょうか。私、ちょっとお花を摘んでくるわ」
そう言うと、アンジュは茂みの奥へと消えて行った
僕とリンが休んでいると、そこに大量のスケルトンが現れた
リン「ちょっ…!こんな時に!」
アンドレ「とにかく戦うぞ!」
僕とリンは剣を抜き、スケルトンと対峙した
しかし、リンはさっきのダッシュによる疲れのせいか、動きに精細さを欠いていた
アンドレ「くそ…。このままじゃ…」
僕は必死に打開策を考えながら戦っていた
すると、アンジュが戻ってきた
アンジュは戻って来た瞬間、魔法でスケルトンたちを一掃した
アンジュ「もう…。何やってるの?」
アンドレ「ごめん…。リン、大丈夫?」
リン「なんとか…」
アンジュ「リンが回復するまでしばらく休憩しましょう」
リン「ごめんね、アンジュちゃん…」
僕たちはリンが回復するまで休憩することにした
アンドレ「アンジュ、それ何飲んでるの?」
アンジュ「これ?スピリットポーションよ。さっきのゴブリン戦とスケルトン戦で魔力使い切っちゃったから…」
アンドレ「まあ…あれだけ大魔法ばっかり使ってたらね…」
アンジュ「何言ってるの?あれは学園で習う中級魔法よ。まさかアンドレ、魔法の授業サボってたわけじゃないでしょうね?」
アンドレ「いや、そんなことないけど…(そんなこと言ったら殺されそうだな)」
アンジュ「だったらどうして…」
アンドレ「いや、ほら…僕は騎士志望だし、魔法より剣術の方が得意かなーなんて…」
アンジュ「ふぅん…」
アンジュは何だか疑っているような目で見つめてきた
アンジュ「まあ…剣一筋で行きたいならそれでも別に構わないわ。ただ、魔法を使えるに越したことはないわ。いざという時のためにもね」
アンドレ「確かにそうだよね。でも僕の魔力だと初級魔法がギリギリ使えるくらいで…あ」
アンジュ「やっぱりアンドレ、魔法の授業サボってたのね」
アンドレ「いや、だからサボっては…」
アンジュ「あの学園のカリキュラムなら、授業を真面目に受けていれば、どんなに魔法の才能が無くても中等部に入る頃には中級魔法使えるだけの魔力は育つはずよ。それだけの魔力が育ってないということは、アンドレが魔法の授業をサボってたっていう証拠よ」
アンドレ「うぐっ…」
アンジュ「全く…。そんなだと適性試験も合格できないかもしれないわね。もし合格できたとしても、そんな状態のアンドレをアリア王女の側近に迎えたくはないかな…」
アンドレ「それは困る。絶対に嫌だ」
アンジュ「じゃあ今度からはちゃんと授業に出なさいよ」
アンドレ「うん、わかった」
アンジュと話しているうちにリンが回復した
アンドレ「リン、大丈夫?」
リン「うん、何とか。ありがとうアンジュちゃん」
アンジュ「いいのよこれぐらい。それより、そろそろ行きましょう」
アンドレ「ああ」
リン「?」
アンドレ「リン、どうしたの?まだ疲れてる?」
リン「今、歌が聞こえなかった?」
アンジュ「歌?何も聞こえないけど」
リン「そうなの?でも確かに歌が…」
アンドレ「待って、アンジュ。確かに聞こえる」
アンジュ「え?」
リン「しかもこれ、アリア王女の声よ」
アンジュ「本当!?急いで向かいましょう!」
僕たちは歌声を頼りに森の奥へと進んでいった
しばらく進んでいると、再びスケルトンの群れが現れた
アンドレ「またか…!しかもさっきより数が多い!」
アンジュ「仕方ないわ。ここは私が食い止めるから、アンドレとリンは先に行って!」
リン「で、でも…」
アンジュ「私を信じて。大丈夫よ」
リン「わかった…。でも、無理はしないでね」
アンドレ「行こう、リン。アンジュ、頼んだよ」
僕たちはアンジュを残し、歌を頼りに奥へ進んで行った
しばらく進むと、突然開けた場所に出た
しかし、そこで急に歌が聞こえなくなった
アンドレ「あれ?おかしいな…」
リン「アリア王女に何か…きゃあー!!!」
アンドレ「リン!」
リンは崖から足を滑らせて落ちてしまったようだ
アンドレ「待ってろ!今助けに行くから!」
リン「私は大丈夫。アンドレは早くアリア王女のところへ向かって!」
アンドレ「そんなのできるわけないだろ!すぐに行くぞ!」
リン「さっき足を挫いたみたいで動けないの。だから先に行って!」
アンドレ「くっ…!」
僕は来た道を戻り、アンジュと合流した
アンジュ「アンドレ、なんで戻ってきたの!?」
アンドレ「リンがこの先の崖から落ちた。幸い足を捻挫しただけみたいだけど、今のリンは魔物の格好の餌食だ」
アンジュ「分かった。こいつらを片付けたら私はリンを助けに行く。だからアンドレはアリア王女のもとに向かって!」
アンドレ「ああ。頼む!」
僕はアリア王女を探すため、さらに森の奥へと進んだ
すると、再びどこからともなく歌声が聞こえてきた
その歌声を頼りに奥へと進むと、古びた西洋建築の屋敷が出てきた
そのテラスには僕たちが探していた人物が立っていた
アンドレ「アリア王女!」
アリア「アンドレ君!?どうしてあなたが!?」
アンドレ「話は後です!今そちらに」
アリア「ダメ、逃げて!」
アンドレ「え?」
その時、一人の男が目の前に現れ、僕に対して剣を振り下ろしてきた
僕は間一髪のところで剣で受け流した
アンドレ「くっ…」
男「今の攻撃を受け流すとは、なかなかやるな」
アンドレ「貴様、何者…!」
男「それに俺が召喚した大量の魔物たちを全て退けてきたのは君が初めてだよ」
アンドレ「魔物を…召喚した?」
男「この森には元々魔物はいない。全て俺が召喚し、長年にわたって育ててきたのさ。全ては王国を滅ぼすためにな!」
アンドレ「なっ…!一体何のために」
男「俺の家族は皆、王国によって殺された。あのドゥルクに殺されたんだ!ただ平和に暮らしてただけの俺たち一家を皆殺しにしたんだ!だから俺は決めたんだ。奴が大事にしてる家族を!そして王国を!この手で滅ぼしてやると決めたんだ!」
アンドレ「何を言って…。そんなことをすれば国家反逆罪で処刑されるって分かってるのか!」
男「もとより俺は一度死んだ身だ。死刑なんて怖くねえんだよ!」
アンドレ「こいつ…イカれてやがる」
男「何とでも言え!お前もここでくたばれ!」
そう言うと男は再び僕に向けて剣を振り下ろしてきた
僕は間一髪で攻撃をかわした
しかし、避けた先にはゴブリンがおり、僕はゴブリンによって殴り飛ばされてしまった
アンドレ「ぐっ…」
僕は何とか立ち上がったが、ここに来るまでのダメージもあり、既に満身創痍だった
アンドレ(まずいな…。このままだといずれ殺される)
男は勝ち誇った表情を浮かべながら、ゆっくりと近づいてきた
男「残念だが、これで終わりだ」
アンドレ「くそ…!」
男は僕に向けて剣を振り下ろしてきた
その時、再び歌声が聞こえてきた
アンドレ「アリア王女…」
僕はすんでのところで自分の剣で攻撃を受け止めた
男「なっ…!どこにそんなチカラが」
アンドレ「…るものか…」
男「は?何を言って…」
アンドレ「アリア王女が応援してくれてんだ!こんなところで負けるわけにはいかねえんだよ!この剣、アリア王女のために捧げると決めたんだ!」
僕は周りにいる魔物たちを一掃した
男「なっ…!魔物たちを一掃した…だと!?」
アンドレ「これで終わりだー!」
僕は男に向けて剣を薙いだ
男「うわぁー!!」
僕の攻撃は男の体を切り裂き、そのまま屋敷の壁に激突させた
アンドレ「はあ、はあ…終わった…」
アンジュ「アンドレ!」
アンドレ「アンジュ…。リンは…」
アンジュ「大丈夫よ。それよりもあなた、ボロボロじゃないの!」
アンドレ「ああ。でもアリア王女は無事だよ」
アリア「アンドレ君!」
アンドレ「アリア王女…ご無事で何よりです…」
アリア「アンドレ君…本当にかっこよかったわよ。アンジュ、アンドレ君を助けてあげて」
アンジュ「分かりました」
アンジュは僕に回復魔法をかけてくれた
アリア「アンジュ、アンドレ君は大丈夫なの?」
アンジュ「あくまでも応急処置です。すぐに病院に運んで治療しないと…」
男「逃がすわけないだろ!」
アンドレ「なっ…!」
アンジュ「させない!」
アンジュが男に攻撃魔法を放つと、男はさっきよりも凄い勢いで壁に打ちつけられて倒れた
アンジュ「急ぎましょう」
僕はアンジュとアリア王女に担がれて洋館を離れた
しかし、アリア王女が無事だったことに安心してしまった僕は、そのまま意識を失ってしまった
目が覚めると、そこは病室のような場所だった
どうやら僕はベッドの上で寝ていたようだ
僕が起きたことに気づいた看護師さんらしき女性が声をかけた
女性「あ、起きたのね。気分はどうかしら」
アンドレ「ああ、まだ少し痛みますけど、問題ありません」
女性「それは良かった。でも無理しない方がいいからしばらく安静にしてなさい」
アンドレ「はい…」
リン「アンドレ!」
アンドレ「リン…無事だったんだな」
リン「アンジュちゃんが助けてくれたおかげよ。それにしてもあなたが無茶するなんて珍しいじゃん」
アンドレ「ははは…。今回はちょっと危なかったな」
リン「ほんとよ!まったく…」
アンドレ「心配かけて悪かったな」
リン「別にいいわよ。それより早く元気になりなさい」
アンドレ「そうだな。ところであの後、一体どうなったんだ?あの男は…」
リン「あの男?」
アンジュ「あの男は国家反逆罪で王国騎士団が逮捕して、一昨日処刑されたわ」
アンドレ「一昨日?」
リン「あなた、2ヶ月もの間、目を覚まさなかったのよ」
アンドレ「2ヶ月…。じゃあ適性試験はもう終わってるのか」
アンジュ「そのことなら安心して」
アンジュはあの後の話をした
僕とリンは、あの日の戦いの功績から、適性試験は合格ということになったらしい
元々あの試験は、王族に何かがあった時に守ることができる最低限の実力があるかを見る試験だ
つまり、あの戦いでアリア王女を救い出した僕にはその実力があると認められたのだ
そして、戦いぶりについては目の前で見ていたアリア王女が証言してくれたらしい
リンについては、救出されて王国に戻る道中、僕たちは魔物に襲われたが、魔物たちは全員リンが一掃したのが功績として認められたらしい
もちろんそれもアリア王女が証言してくれたらしい
アンジュ「あ、そうそう。二人とも退院したらお城に来るようにってドゥルク国王が仰っていたわよ」
アンドレ「え?国王が?なんだろう…」
僕はとりあえず退院するまで大人しく横になっていた
数週間後、僕たちは無事に退院することができた
僕たちはアンジュに連れられ、その足で城まで向かった
そして、そのまま玉座の間へ通された
ドゥルク「アンドレ、そしてリン。アリアを救ってくれたこと、心より感謝する」
アンドレ「いえ、そんな…。僕はアリア王女を助けたい一心で…」
ドゥルク「そこでだ。まずリン。ぜひ君にはアリアの側近になってもらいたいのだがどうだろうか」
リン「え?私がですか?」
ドゥルク「どうかな?」
リン「お気持ちは嬉しいですが、私は留学生の身。いずれは日本に帰らなければなりません。ですので…」
ドゥルク「ふむ、そうであったな。では、アリアが日本に行った際の側近として働いてもらえるかな?」
リン「そういうことでしたら謹んでお受け致します」
アンジュ「ではアンドレがこちらでの側近に?」
ドゥルク「いや、こちらでの側近は改めて選ぶとしよう」
アンジュ「なぜです!?アンドレは今回の戦いでは一番の功績を挙げて…」
ドゥルク「アンドレ、アリアの婿になる気はないか?」
全員「え?」
ドゥルク国王の一言に、全員が驚いた。
ドゥルク「アリアは君のことをとても好いている。私としては君にアリアを任せたいと考えている」
アンドレ「そ、それは…」
アンジュ「ちょっ、ちょっと待ってください!」
アンジュは慌てて話に割り込んだ
アンジュ「アリア様はまだ14歳ですよ!早すぎます!」
ドゥルク「何を言っている。結婚など早いうちにした方がいいに決まっているではないか」
アンジュ「ですからと言ってまだ成人にもなっていないのに…」
ドゥルク「ならば、二人が18歳になるまでは婚約ということにすれば良い」
アンジュ「それならまぁ…いいでしょう」
ドゥルク「アンジュも納得してくれているし、どうかな?」
アンドレ「ですが…」
ドゥルク「これはアリアから言い出したことだ。それに、君たち二人は相思相愛なのだろ?」
アンドレ「は、はい」
ドゥルク「なら問題ないだろう。アンドレよ、こんな機会は滅多にないぞ。これを機に想いを伝えてみてはどうかね」
アンドレ「考える時間をください。急な話で僕も少し混乱しているので…」
ドゥルク「もちろんだ。これは君の人生に関わる話だ。ゆっくり考えるがよい」
アンドレ「ありがとうございます」
僕とリンは玉座の間をあとにした。
僕は部屋に戻ると、ベッドの上で横になった。
アンドレ(まさか、国王からあんなことを言われるとは…。確かに僕はアリアのことが好きだけど…)
リンが僕の顔を覗き込む
リン「大丈夫?」
アンドレ「正直まだ混乱してる」
僕はリンに心の内を打ち明けた
確かに僕はアリア王女のことが好きだ
しかし、この歳でいきなり結婚なんて言われても実感がわかない
それに、相手はこの国の王女である。
身分差というものを考えれば、付き合うことすら難しいかもしれない
リン「そうね、確かに急すぎるわよね」
アンドレ「ああ…」
するとリンは優しく微笑みながら言った
リン「でも、あなたはちゃんと考えた上で返事をした方が良さそうだわ」
アンドレ「え?」
リン「だって、あなたは優しい人だから、きっと悩んでいると思うの。でも私はアリア王女との結婚は賛成よ」
アンドレ「どうして?」
リン「それは…私にはわからないけど…。でもあなたの優しさに彼女は惹かれたんだと思うの」
アンドレ「僕にそんな大層なものはないよ…。ただ僕が弱いだけなんだ」
アンジュ「そんなことない。現にあなたはあの時、自分の命を顧みずにアリア王女を救ったじゃない」
アンドレ「アンジュ…。だからあれは…」
アンジュ「普通の人ならあそこまでやられれば降参してるわ。でもあなたは最後まで戦った。そして勝ったわ。その勇気こそが強さなんじゃないかしら」
アンドレ「………」
アンジュ「アンドレ、しっかり考えて答えを出しなさい。それがあなたにとっても彼女にとっても良い選択だと私は思うわ」
アンドレ「わかった。ありがとう」
僕はそう言うと、そのまま眠りについた
2週間後、僕は再び城を訪れた
アンドレ「ドゥルク国王、先日のお話についてですが、お受け致します」
アリア「え?では…」
アンドレ「アリア王女、僕と…結婚してください」
アリア「はい…。喜んで…」
僕はこうしてアリア王女と結婚することが決まった
もちろん、僕もアリア王女もまだ14歳なので、正式な結婚は数年後になるだろう
それでも、僕は幸せだった
数日後、僕は騎士養成学校を退学となり、王族や貴族の通う学校に編入することになった。
そして、卒業と同時に正式に僕はアリア王女と結婚することになった。
そして今日はアリアとの結婚式だ。
アリア「アンドレ、かっこいいわよ」
アンドレ「ありがとう。アリアもとても綺麗だよ」
アリア「ふふふっ、ありがとうございます」
アンジュ「二人ともおめでとう」
リン「お似合いよ」
アンジュとリンが祝福してくれる
アリア「二人とも、本当にありがとう」
アンドレ「アンジュ、リン、これからもよろしくな」
アンジュ「ええ、任せてちょうだい」
リン「こちらこそ」
アリア「では行きましょうか」
アンドレ「うん」
僕たちは式場に向かった 式は順調に進み、最後に新郎と花嫁による誓いのキスとなった
アンドレ(ついにこの時が来たんだな…。緊張する…)
僕は深呼吸をして心を落ち着かせる
アンドレ「アリア…」
僕はそっとアリアのベールを上げる
アリア「アンドレ…」
アンドレ「愛しています」
僕は優しく口づけをする 参列者全員から拍手が起こった
こうして僕はアリアと結婚した。
数日後、僕たちは空港に来ていた
今日はリンが日本に帰る日だ
リン「それじゃ、またね」
アリア「寂しくなるわね」
リン「大丈夫よ、すぐに会えるわ」
アンジュ「そうね」
リン「みんなも元気でね」
アンジュ「ええ」
リン「それと、アンドレ」
アンドレ「ん?」
リン「アリア王女のこと、絶対幸せにしてあげなさい。もし泣かせたりしたら私の剣で叩き斬ってやるからね」
アンドレ「わかってるよ」
リン「それじゃあ、もう行くわ」
アンドレ「ああ、元気でな」
リンはゲートの方へと歩いて行った
アンジュ「では戻りましょうか、アリア王女、アンドレ王子」
アンドレ「だから『王子』はよせって言ってるだろ」
アンジュ「いいじゃないですか。それより、早く帰らないとドゥルク国王が心配するわよ」
アンドレ「そうだな。行こうかアリア」
アリア「はい」
僕はこの幸せを噛み締めながら、アリアとともに歩き出した
この小説自体、元々「あまいろパステル〜紡がれる恋の1ページ〜」の8時間目の文化祭の演劇の台本としてちょっとだけ書くつもりだったんですけど、いつの間にか1つの小説になっていました。
元々恋愛要素が主の小説が専門なところもあり、騎士とかそういうのは得意とは言えないんですが、書いてるうちに楽しくなってきて、ついつい台本にするには長すぎるだろって長さになってしまいましたw
でも演劇でやるには長さ的にはちょうどいいかもしれないかも?
この小説の感想、お待ちしています。