008話 勇者、魔物と戦う
「くっ!、私が相手だ!」
近衛兵団長と思しき男が俺の前に立ちはだかる。
「どけと言ったが?」
「なめるな!」
団長が斬りかかってくる。
次の瞬間、その男の剣を持っていた腕を斬り飛ばす。
「ぐぁぁぁぁっ!」
団長の悲鳴があたり一帯に響く。
斬られた腕を押さえながら両膝を付いている。
あいつはもう戦えない。
「まだやるのか?」
オレは宰相に剣先を向けたまま問う。
「くっ…おのれ、このままではすまさんぞ!、かかれ!」
宰相が残った兵たちに命令を出す。
オレは剣を構えている兵たちを見る。
「か、勝てるわけがないっ」
「にげろ!」
宰相の命令もむなしく近衛兵団や弓兵などここにいた兵たちは一目散に逃げだした。
騎士団より少しマシかと思ったが、近衛兵団も大した違いはなかった。
「あとはお前だけだな」
いまだ逃げずにこの場に残っている宰相に再び剣先を向ける。
「ナメおって」
「塔でこの国最強の騎士とやらを倒した…文官のお前に勝ち目はない」
目の前から退けば、わざわざ追いかけてまで倒そうとは思っていない。
そう思っての言葉だったが、宰相には逆効果だったようだ。
「フ…フザケオッテ…」
宰相が口から涎を垂らしながら、言葉にならない言葉をつぶやいている。
明らかに様子がおかしい。
宰相の身体がガタガタを震える。背中が妙に盛り上がる。
服が破れ、歪に関節を曲げはじめると次第に身体自体が大きくなっていく。
「な、なんだ!」
「宰相様!」
オレを追って塔から降りてきた連中が変わり果てた宰相の姿を見て言葉をあげる。
「ミラレタカ…ダガアトデミナゴロシニスレバヨイ…」
宰相だったものが黒い霧のようなものに包まれる。
そして霧がはれて姿を見せる。
「ふふふ、お前は殺す…魔王軍四天王の一人…土のカイザン様がなぁっ!」
魔王軍?
四天王?
だがどうでもいい。
巨大な爪を振り下ろしてきた魔王軍の四天王。
だが。
次の瞬間、オレはカイザンと名乗った魔物の首を斬り飛ばしていた。