007話 勇者、さらに前進する
「ふんっ!」
止まったように視える時間のなかでオレは鋼の剣を振るい、目の前にあった無数の矢を打ち払う。
そこで時間が動き出す。
「なっ!」
扉が二つに割れ、現れたオレに向けて放った無数の矢。
それは次の瞬間、すべて打ち払われている。
そんな感覚だろう。
「なんたること…近衛兵!」
オレに矢が当たらなかったことで宰相は剣と盾を持った一団を呼び寄せる。
塔の中であった奴らとは鎧の下に着ている服の色が違うようだ。
またオレに臆している様子もない。
騎士団は弱いが、近衛兵団はそれなりに強いのかも知れない。
「そこで止まられい、止まらないと貴様を正体不明の敵と見做して斬り殺すことになるぞ」
近衛兵団の団長と思しき人物がオレに向かって言う。
しかし、どいつもこいつも同じことを言う。
止まれ止まれ止まれ…
「…うるせぇな」
俺は剣を抜いたまま前進を続ける。
「かかれっ!」
近衛兵団団長の命令で、近いところに居た3名の兵士が俺に斬りかかってくる。
だが、当然オレには止まって視える。
オレは3名を斬り捨てる。
次の瞬間、体を真っ二つに斬られて絶命する兵士。
「なっ、何が起こったんだ!」
「お前たちではオレには勝てない、絶対にだ、分かったらそこをどけ」
苦虫を嚙みつぶしたような顔をする宰相。
騒ぎ出す近衛兵。
そしてその後ろで騒いでいる弓兵やその他の連中。
召喚された部屋を出て、とりあえず塔を下りたオレだったが、特に目的があったわけでもなかった。
だが、いまはこの騒ぎから逃れたい。煩すぎる。
ともかく塔から見えた街に紛れ込み、そのあと街をでて、ここじゃないどこかへ行こうと考えた。
オレの前に立ち塞がるやつは全員、斬り捨ててでも。