011話 勇者、再び断る
どうしてこんなことになっているんだ。
オレはいま一人の女性に守られている。
森に入ってしばらく行ったところで、俺は魔物に襲われた。
【森狼牙】(シンロウガ)と呼ばれる狼に似た魔物だ。
当然、オレの敵ではない。
剣は隠していた。
初めての町に入るのに警戒されてもいけないと考えたためだ。
数十匹はいるようだが、素手でも勝てる。
今にも襲ってきそうな雰囲気になる森狼牙を見て、オレは身構えた。
だが。
「ちょっと大丈夫~!、そこの人~!!」
一人の女性が大きな声を上げながら走ってきたのだ。
手にはどこかで拾ったのか長めの木の枝を持っている。
そしてオレの前、森狼牙とオレの間に立つと、木の枝を剣のように構えた。
「あなた誰?旅人?この森はいま危険だから入っちゃダメなの、あっ、でも旅人なら知らないから仕方ないか!」
そこまで一気に話してから一息つく。
「大丈夫、森狼牙は自分より強いものには逆らわず逃げるの!」
どうやら手ぶらだったオレを見かねて助けに来てくれたようだ。
枝を持つ手が小刻みに震えている。
いや、手だけではなく全身震えている。
「大丈夫、大丈夫だから!」
その言葉は自分に言い聞かせているようだ。
当然、森狼牙のほうがその少女を強者とは見なしていない。
殺気を漲らせ、今にも襲い掛かってきそうな雰囲気だ。
「あ、あなただけでも逃げて…」
この少女はなぜオレをこんなにも助けようとしてくれるのだろう。
分からない。
これまでの人生、前の人生を含めてもこんなにも人の優しさに触れたことはない。
そうだ。
殺気の言葉への回答がまだだった。
「…断る」
「えっ、なんて聞こえないっ!」
オレは隠していた力の一部を開放し、覇気を込めて、森狼牙を睨みつける。
途端に森狼牙は尻尾を丸め、枝を持った少女から、正確にはその後ろにいるオレから目を逸らす。
そして鳴き声を上げて森の奥へと逃げだしていった。
「や、やったわ…」
少女は力を無くしたように腰を下ろす。
「でもどうしたんだろ、急に…」
オレの力のことは言わなくていいだろうと判断した。
「あんたが強者なのを見て逃げたんだろ」
「エー、そっかな、へへ、実は剣とかやったことないんだけどね、うまく演技できたのかな」
少女は少し照れ臭そうに笑う。
「まぁ、でも無事でよかった、この森はというか今、季節外れの寒波が来ててね、獲物が少なくて魔物も殺気立ってるんだ」
「そうなのか」
だからさっき森に入ってはいけないと言っていたのか。
「それは知らなかった、すまない」
「いいよ、無事だったんだし」
少女はそこでふとオレの顔を見る。目が合う感覚だ。
少女は金髪で肩までの髪。綺麗な黒い目をしていた。
背は少しオレより低いくらいだった。スタイルはこれから、といったところだろう。
「ねぇ、旅人さん、あなたの名前はなんていうの?」
「あっ、名前か」
オレはこの世界での名前をまだ決めてなかった。
前世の名前は使わない。いい思い出がないためだ。
名前…
オレは勇者…
勇者とは勇ましき者…
勇ましいといえばは勇気か
「オレはユウキだ」
「ユウキ、いい名前ね、わたしはユーノ、この先の町の食堂の看板娘なんだ!」




