三分クッキング
今日のカップ人格は。
「普通の人」
お湯を入れて三分。
湯気の香りはまあ普通。
味わいは普通。
のどごしも普通。
まあ、普通においしかった。
今日のカップ人格は。
「熱い人」
お湯を入れて三分。
湯気の熱さが目に染みる。
味わいはこの上なく熱い。
のどごしはやけどしそうだ。
まあ、食うのが大変だった。
今日のカップ人格は。
「痛い人」
お湯を入れて三分。
湯気の香りがやらかしている。
味わいはとにかくとげとげしい。
のどごしの悪さが不愉快。
まあ、無理なやつだ、これ。
今日のカップ人格は。
「いい人」
お湯を入れて三分。
湯気は穏やかにふわりと漂う。
味わいはこの上なくまろやか。
のどごしの良さに箸が止まらない。
出会えたことが、奇跡だとしか思えない。
今日のカップ人格は。
「素直じゃない人」
お湯を入れて三分。
湯気…かと思ったら冷気だ、これ。
味わいは言い得て妙。
のどごしはつるりとしているのに胃に重たい。
まあ、めんどくさかった。
人格を持たない、人のふりをする僕。
毎朝ランダムに人格が送られてくるんだけど、そのチョイスがさあ。
もっとこう、普通な感じのやつお願いできないもんかね。
おかげで僕、学校では多重人格なんて言われちゃってるんだよ?
こんなんじゃ友達ができないじゃないか。
こんなんじゃ恋愛ができないじゃないか。
こんなんじゃここに来た意味がないじゃないか。
あーあー、人になりたいな。
昔むかーし人だった時もあったけどさ。
あの時ちょっとしたことで凹んじゃってさ。
人をやめちゃったのが、いけなかったんだよ。
なーんであの時、人やめちゃったのかな。
ああ、まずい、過去を振り返ると、またおかしな人格が送られてきちゃうぞ。
前を向けないやつにはご褒美はいらないとか言われちゃうやつだ。
・・・ほら、みたことか。
激辛が届いちゃったじゃないか。
お湯を入れたとたんに目が痛くなるような刺激臭が漂い始めた。
マグマの様な人格だ。
…これを食わないといけないのか。
僕はひーひー言いながら人格を食べつくしてから、赤い顔をして登校する羽目になった。
明日のトイレが、ちょっと怖い。