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酒場で仲間を探そう!①


 ◆


「『朱銀の光ヴァーミリオン・ライト』!」


 ミッファーが右手の持つ、先端に魔水晶が施された長杖(ロッド)から、幾つもの赤い光の帯が放たれる。


 薄暗い神造迷宮(ダンジョン)の狭い通路に沿って、周囲の岩肌をガリガリと削りながら突き進むソレは魔法の光。


 魔水晶の内部に注入された銀を触媒として、朱色の魔力を増幅させた古代魔法の一種である。


 触媒と少しの魔力で絶大な威力を発揮するこの魔法は、今では口伝する物さえ途絶えた失われたはずの技術。

 

 その威力は破格の硬度を誇るはずの神造迷宮(ダンジョン)を、一部崩落させたしまうほどだ。


 そう、こんな狭い神造迷宮(ダンジョン)で。


「こ、殺す気かぁああああっ馬鹿野郎ぉ!!」


 降り注ぐ岩石から頭を守りながら、ヴルフはミッファーに向けて怒声を浴びせる。

 手に持つ無骨な大剣を傘代わりに掲げ、全力で退避。


 長杖(ロッド)を突き出したまま大きく口を開けて惚けるミッファーの元へ駆け寄ると、その両肩を掴んで揺さぶった。


「お前馬鹿なの!? ねぇ! こんな狭いとこでそんな威力の魔法ぶっ放すとか、マジでなんなの!?」


 必死である。


「あ、あはは。ごめんねヴルフ。まさかボクもここまでの威力とは」


「頼むぜマジで! 初めての神造迷宮(ダンジョン)攻略で仲間に殺されるとか、ねぇから!」

 

 この『|草原の神殿迷宮』は、アーハントから西方に馬で一時間ほどの場所にある神造迷宮(ダンジョン)だ。


 規模言えば小さく、冒険者間でも初心者(ビギナー)向けと考えられている謂わば神造迷宮(ダンジョン)のチュートリアル。


 階層も少なく、出現する魔物も比較的容易に対処できる物ばかり。


 すでに何度も踏破されていて、最奥に到達してもあまり見入りの多い財宝は手に入れられないが、駆け出しの冒険者が神造迷宮(ダンジョン)での立ち回りを学ぶには最適な場所とされている。


 神造迷宮(ダンジョン)とは『神々が与えた試練の場』と考えられていて、入口は一つだが内部は入るパーティーごとに違い、中で顔を合わせる事など滅多にない。

 報酬の財宝も時間経過によって微々たる補充が行われており、未だどの神造迷宮(ダンジョン)でも財宝が枯渇したなどの話は確認されていない。


 神学者や魔導院ではその存在自体が研究対象とされており、いくつもの考察案や検証実験が行われているが、いまだに確たる結論には至っておらぬまさに『未知の塊』。


 それがこの世界における神造迷宮(ダンジョン)だ。


「いやぁ、ほんと難しいね。戦闘って」


「お前自分の魔法の威力ぐらい把握しておいてくれよ。たかが犬人(コボルト)相手に使っていい魔法じゃないぞ今の」


「魔導院時代からこっち、あんまり使う機会なかったからさぁ」


 ミッファーは極端なインドア派である。

 その溢れる才能故に魔法開発・知識・応用は豊富なのだが、如何せん実用と言う点ではあまりにも心許ない。

 その若さ故の経験不足と、大事にされすぎた故の経験不足の二重の意味での不足が重なり、なんともチグハグな『賢者セイジ』となってしまったのだ。


「こりゃ、今日は引き返した方が良いなぁ。こんなんでここから奥に行くの、怖いったらねぇよ」


「う、うう。言い返せない」


 さっきの魔法ぶっぱも含め、ミッファーのミスはこれで4回目だ。

 一回目は初めての神造迷宮(ダンジョン)にテンションが上がりすぎて、魔猟犬(ハウンド)の群めがけて突撃し、あわや噛み殺されるところだった。


 二回目は波状的に襲い掛かって来た羽兎(ファー・ラビット)に慌てふためき、足を縺れさせて盛大に転んだ。


 三回目は目まぐるしく動く戦闘に対処仕切れず、誤って暴発した魔法がヴルフの背中を直撃したのだ。


 まだ階層が浅く、ヴルフにとっても容易に殲滅できる魔物だけしか出現しなかったから良かったものを、これが深い階層の手強い魔物だったらミスの数だけ二人とも死んでいる。


「しゃあない。次の帰還陣で一旦帰ろう。もともとあんまり深く潜る気はなかったし、装備も道具も揃えてないしな」


「……ご、ごめんねヴルフ」


「良いよ。誰にだって最初はあるさ。俺だって駆け出しの賞金稼ぎの頃は師匠に毎日怒鳴られっぱなしだったしな」


 懐かしき日々を思い出しながら、ヴルフは苦笑する。

 戦災孤児な上に『ワケあり』だった自分を拾い育ててくれた師匠も、こんな風に困ってばかりだったのだろうか。


 現在23のヴルフにとって、独り立ちしたのはもう十年も前の事だ。


 今までなんとかこうして生きていられるのも、師匠が『戦い方』と『生き方』を教えてくれたからである。


 そう考えると、あの破天荒で出鱈目だった師匠も憎からず思えてくるから不思議だ。とヴルフは在りし日の修行時代を回想した。


「それにやっぱり、最低でももう一人後衛が欲しいな。できれば後詰もできる器用な奴。俺一人だと前と後ろを行ったり来たりなんて器用な真似、出来る気がしないわ」


「う、そ、それは」


 ミッファーにとって知らない人間は恐怖の対象でしかない。

 色々と、本当に色々あって知り合ったヴルフに関しても、出会った当初はまともに口も聞けないほど怯えていたのだ。


「まぁ、お前のこともちゃんと考えるさ。とにかく今は無事地上に出ることだけ考えよう。魔力の残りは大丈夫か?」


「う、うん。ヴルフからあれだけ精気を貰えたから、全然減ってないよ。今の魔法ぐらいなら千でも二千でも射てるぐらい」


「さ、さすがは若き天才。凄い魔力量だな」


「ボクは半分だけとは言え淫魔でもあるから、貰えたら貰えた分だけ魔力の上限も上がるんだ。て言うかボクからしたら、アレだけ吸われたのに平気そうな顔で戦えてるヴルフの方が凄いと思うんだけど。普通の人なら10回は死んでる量だよ?」


 しかもまだヴルフは満足していなかった。

 宿の宿泊客から苦情が入り、興が乗って来たところでの中断だったので、消化不良も良いところだろう。


「まぁ、俺も色々変だからな」


「曲がりなりにも淫魔であるボクを先に堕としちゃうとか、変どころの話じゃないと思うんだけど」


 昨日の晩の情事を思い返しながら、ミッファーは顔を赤く上気させて苦笑する。

 いまだに体の残るヴルフの『感触』が、ミッファーの思考にピンク色のモヤをかけるが、流石に今はそれどころでは無い。

 

 ここは初心者向けとは言え命を賭けた戦場だ。

 少しの油断が命取りになる。

 ミスばかりで気落ちしているミッファーにとっては尚更だ。


「さて、あんまりのんびりしてると雑魚とは言え魔物に囲まれちまう。先を急ぐぞ。はぐれるなよ」


「う、うん。わかった」


 剣を肩に担いですぐ行動できる体制を維持しながら、ヴルフは通路の奥へと急ぐ。

 案内するのはミッファーの魔法で出した『灯火トーチ』の光。

 淡く優しい光に照らされた神造迷宮(ダンジョン)を、二人はゆっくり進んでいくのだった。

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